真実の断片、悲劇の入り口です!!
エリックの攻撃により私が意識を失った後の話をローエンから聞いた。
元々、私の身体の中にはカナさんが居たこと。そして、カナさんは私がこの身体を上手く制御出来るようにサポートしてくれていたことに気が付いた。
普通に考えれば分かった事だろう。いきなり別の人の身体に転生したのに、違和感なくその身体を動かせているといる異常に......
そして、もう一つ。カナさんからはヒントを貰った。それはラスボスの能力の使い方だ。
私が危険だと認識したものを消す能力。良く考えてみると、エリックの『無視』と同じような能力だと言うことに気が付いた。
もしかしたら、ミーニャは同じような能力を持つ者を敵同士にすることで、この能力の使い方を教えたかったのかも知れない。
「まぁ、そんな事は無いか......何より、ミーニャの最後の言葉。君の主人はまだ生きてるって事は......」
「カナ様が生きているという事ですね......ですが」
ミーニャは、まだと言っていた。つまり、何らかの危険があると言うことになる。
「そうだね、急いだ方がいいかも知れない」
そして、ミーニャのいる場所の手掛かりは、もしかしたらエリックが握っているかも知れない。
ミーニャを探してきたエリックなら、何らかの情報があってもおかしくはないはず。
「やっぱり、運命なのかな......勇者とラスボスが戦うのは」
「そうかも、知れませんね」
何とも微妙な表情を作るローエン。何か感じることでもあったのだろうか?
それより今は......
「時間がない。ミーニャが私の前にわざわざ現れたのにも、何らかの理由があるはず。カナさんを助ける為にも、今すぐエリックの元に行こう」
私の下した決断に、ローエンはやはり驚いている。
それも無理も無いだろう、身体の制御も出来ない私がエリックの前に出ていったら殺されに行くようなものだ。
「マナ様、今のままでは......」
「分かってる。身体の制御が出来ない......つまり、無意識に力を抑える事もないって事でしょ」
人間の脳は勝手に力を抑制している。それは、大きすぎる力で自分の身体を壊さないようにするためだ、だけど今の私にはそのストッパーが外れている。
全力でエリックにぶつかることができる。
身体がこんな状況だからこそ、私は戦いに挑む。
「一つ、ローエンに確認だけど、いい?」
「は、はい」
「ローエンの能力は影の中ならどこでも行く事が出来るんだよね」
「はい。その通りです」
その言葉を聞いて、私は考えていたことをローエンに伝える。
「じゃあ、ローエン私を―――の影に行かせて」
「無茶です!! そんな事をすれば、貴方が......」
私の言った言葉にローエンはそう声を荒げるが
「構わない!! それで、カナさんを救えるのなら」
私の言い放った言葉を、ローエンは考えている。私のこの作戦なら、チャンスは一度きり、失敗すれば私は確実に死ぬ。
沈黙がしばらく場を支配する。
「......分かりました。ですが、マナ様。一つ約束してください......必ず生きて帰ると」
「約束するよ。ミーニャを一発殴るまで、私は死ねないからね」
これまでに無いぐらいの笑顔をローエンへと贈る。
「その時は私にも一発殴らせてください」
私に答えるように、ローエンも笑顔を見せる。
それを最後に、ローエンは能力を発動する。それと同時に私は何もないはずの空間に全力で拳を振り抜いた。
一瞬にして景色が変わり、私の振り抜いた拳の先には......エリックが居た。
拳に伝わる確かな感触。エリックの顎にクリーンヒットし、軽々と上空へと吹き飛ばす。
「ぐはっ!!」
まるでゴミのように飛んでいくエリック。全力で放たれた一撃は、この世界で誰よりも強く、重い。
私がローエンに頼んだのは、直接エリックの影に行く事。あり得ないほど遠くからの奇襲。それも、最速で最強の威力を持っての知覚すら出来ない攻撃。
いまだに上昇を続けているエリックを追いかけるため、右足に力を込める。そして、全力で踏み出す。
地面は爆発でもしたかのように砕け、地割れが発生していた。
右足はもう使えない。エリックを殴った右手は、ダメージを『無視』されたのか、無事に残っている。
そして、ラスボスの全力をもって攻撃されたエリックは、遥か上空の闇夜に浮かぶ、紅い月まで飛ばされていた。それを追い私も着地する。
勢いをそのままに月の表面に叩き付けられたエリックは......全くの無傷だった。
能力によってダメージを『無視』した結果だ。
だが......
空気の無いこの場所で、呼吸は出来ないはず!!
この場所ではエリックの能力『無視』でもどうしようもないだろう。
「へぇ~。よく考えたじゃないか」
そうエリックが言った。
どうゆうこと!? 空気がなければ、言葉も話せないはずなのに。
「俺の弱点をよく分かってる。だけど、惜しかったな俺は『勇者』だ、風魔法で無理矢理、空気を発生させるぐらいできるんだよ」
私の作戦が無駄に終わり、突き付けられた絶望にただ、どうしようも無くなり。頭が真っ白になっていた。
 




