最強の勇者とラスボスです!!
「俺が何もしなくても、お前は死ぬだろう......だが、あえて止めを指すぞ」
ゆっくりとその足を私の方へと向けて歩いてくる。私にはその姿が死神にしか見えなかった。
死へのカウントダウンが、足音となって聞こえる。
だけどまだ、私は諦めるわけにはいかない!!
まだ、生きたい!! こんなところで終わっていいはずがない!!
私は、今までに無いほどに頭を回転させる。エリックを倒すための方法を模索する。
視界が薄れて見えるほど、意識だけが加速していき答えを探る。そして、記憶の奥底に埋もれていた記録を引き出した。
カナさんは、エリックに勝ってた。それも何度も何度も......もしかしたら、私は重大な何かを見落としているのかも知れない。
そして、私の中で生まれた疑問。なぜエリックは、月まで飛ばされたのかというものだ。エリックは、私が殴った瞬間ダメージを『無視』した。
たけど、私が殴った時に発生した衝撃は『無視』出来ず、月まで吹き飛ばされた?
そして閃く。エリックは一つの事しか『無視』出来ないという事を......
「じゃあな、カナの偽物」
私の防御力を『無視』した攻撃が放たれる。ゼロ距離で攻撃されれば、いくらラスボスだと言ってもただでは済まない。
だが!!
私は、思いっきり腕を横へ突き出し、能力を発動させた。能力の対象は私の横の何もないはずの空間。私が息を出来ない危険な空間だからこそ、能力は発動し、その空間の存在が消される。そして、エリックだけが体勢を崩した。
それは、私が無理矢理、消した何もない空間に空気が集まろうとした結果だ。エリックが空気を体内に発生させていたからこそ、エリックは身体ごとその何もない空間に引き寄せられ体勢を崩した。
そして、エリックが崩れた瞬間、私は後ろへ回り込み、エリックの首を思いっきり絞めた。
「がっ!! 馬鹿な......」
エリックはすぐに能力でダメージを『無視』したようで、手応えが全くなくなった。だけど私は離さなかった。それは......
「な、な...ぜ...だっ」
そうやってまだ苦しそうにもがくエリックがそこには居た。
私がエリックに触れた後、エリックがダメージを『無視』するのを感じてから、私は能力でエリックの風魔法を消した。
そして、もう一つ。ダメージを『無視』しても、私が首を絞めている力は伝わる。エリックの首の血管の流れを止め、窒息させるぐらいは可能だ。
エリックは、口をパクパクと動かし何かを言っているようだが何も聞こえない。そして、そのまましばらく弱い抵抗を見せた後、動かなくなった。
その後すぐに、私はエリックを抱え、左足で月の地面を思いっきり踏み込みそして、飛んだ。
その衝撃で月は、バキバキと亀裂を走らせ今にも壊れそうになるが何とか形を保っていた。
地上へと高速で落下していく中で、私は有らん限りの声で叫ぶ。
「ローエンお願い!!!」
瞬く間に雲を突き抜け、地面へと隕石のように落ちる。すぐそこはもう地面だ。
そして、私は地面とぶつかった......と思ったが、気が付けば見覚えのある空間に居た。
それは、ローエンの能力である影の世界だった。
「はぁ~。今回は本当に死ぬかと思った~。ありがとうローエン」
心からの安堵が口からこぼれ落ちる。
これで、勇者との戦いは一区切り着いたのだ。ラスボスの命を脅かす存在に勝つことができた。
それが例え、奇襲から始まった戦いだったとしても勝った事には変わりない。
この世界に来て初めての勝利を噛み締める。
「マナ様。ご無事で何よりです」
そんな声が聞こえた時には、ラスボスの城に戻ってきていた。やっぱり、ローエンの能力は便利だと感じつつ、この戦いに勝った事を実感する。
「私、勝ったよ......勇者に」
「おめでとうございます。これで、一人前のラスボスですね」
「......それも、カナさんの言葉なの?」
そう言った私の疑問に静かに頷くローエン。
やっぱり、カナさんって何でも知ってるんじゃないか? 予知能力でもあったのかな?
それにしても、一人前のラスボスか......少し前まで、やめたいと思ってたんだけどな。大切な仲間に恵まれ、最強のライバルと戦い。最強の存在、ラスボスであることを示す。
今、私はそんな物語の中で生きている。
そんな物語を、幸せのままで終わらせるには......やはり、カナさんが必要だ。みんながカナさんを待っている。
そのためにも早くミーニャの手掛かりをエリックから聞き出さないと。
「ローエン。エリックを『檻』の中に閉じ込めておいて。後で話す時にどこか行かれると困るから」
「分かりました」
そして、ローエンの前から大きな檻が出現する。この能力は、ローエンがミーニャに使用したものと同じ檻で、能力封印とステータス減少が付いている。
檻の中にエリックを入れる所を見た後、急に眠気が襲ってきた。ラスボスの身体には睡眠がいらないはずだったけど、今は休む事にした。
今日1日だけで、どっと疲れが出ている。その他の事は明日からで......
「ローエン、私は今日は休むよ。おやすみ」
「はい。ゆっくりと休養をとってください」
私は、そのまま部屋を出て、寝室へと向かう。どうやら、カナさんが睡眠することが多かったので作られた部屋があるみたいだ。
寝室のドアをあけ、ふらつく足を何とか前に進めながら、大きなベットに倒れ込む。
ふかふかと柔らかい感触に、一気に眠気が込み上げ、私の意識を刈り取った。
マナの戦いは、一段落着いた。だが、ラスボスの戦いはまだまだこれからだと言うことを、まだマナは知るよしも無かった。




