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一、願いを強く込めてそれを口にする。
一、願いはそのあと魔女ベアトリーチェが作るリンゴを食すことによって達成への準備に入る。
一、願いの達成には十三日の期間を要する。
一、願いを口にせずにリンゴを食し、それから二十四時間が経過してしまった場合、願いを叶える権利はベアトリーチェへ移るものとする。
「ここでの『口にする』は『リンゴを食べる』って意味じゃない。口にしなきゃいけないのは言葉。願いを込めながら言の葉を示さなくてはならない」
しかしベアトリーチェは、そうは言わなかった。そんな説明なんてしていなかった。
男女の仲と生気を操ることができる魔女は、嘘の条件を提示することで若さを啜っていたのだった。
「なんでもそうだけどさ、言葉にしなきゃ届かないことって、たくさんあるんだよね」
十メートルほど離れた所にいるかえでの耳にも、その会話は届いている。
騙されていた、と思うよりも先にかえでの頭に浮かんできたのは、これまでの自分だった。
十余年の人生を振り返ってみると、なんでもそうだがかえでは受動的だった。受動的なのは悪いことではないのだが、ただ、そこから感じたものを自己で咀嚼し、発信していくことなどまずなかったのだ。
自分はおとなしい人間である。こんな時はこういう反応をする。劇的ではない。だから受け身に回る。受け身に回ることで余計な発言をしなくて済む。
平々凡々であるという自覚があった。だがそれは、『自分は特別だ』と思い込む人間とさして変わらない。
人間性を見極めるのは自分ではなく周り。
自分が見極めるべきなのは、何をしたいと思い、そして結果として何をしたのか。
しかし理解できないことが一つだけある。
不死であるベアトリーチェは、なぜ若さを求めるのだろうか。




