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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
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oi、みうs、ミス、これ剣と魔法のファンタジーですよね?

 異世界生活――数えるのがちょい面倒になってきた。

 もう何日目かわかんないや。前に初狩りいってからもうだいたい一ヵ月は経ってると思う。今度カレンダーでも作ろうかな……。

 てなわけでいつの日かの早朝!


「ファイヤァアアアア!! ボォオオオル!!」


「だからそれじゃダメだって何度も言ってるだろうリッキ!」


 ここはいつもの薪割り場ん所。

 だけど今日は薪割りの仕事はお休み。

 その代わり朝から魔法の授業とか戦闘訓練とかしてます、はい。

 でも魔法できないよおおおお!

 俺さ、昔こう思ってたんだよ。

 ――ファンタジー世界にきたらみんな魔法使えるんだろ?

 あんなの嘘! 絶対嘘!

 使えないよ! ちくしょうめぇ!

 もう何日目になるのかなあこの授業。

 魔物狩ってきてその毛皮なめしたり、保存用の乾燥肉だとかをいっぱい作ったら、ご褒美に『魔法の授業をしてあ・げ・る♪』って二人に言われてから、そりゃもう頑張ったさ!

 ――実際は普通に『狩りのお手伝いしてくれたら、時間がとれる日は教えてあげますよー♪』とか『私もそれほど上手じゃないが、アルシラがいない時は見てやろう』ってな感じに言われただけなんすけどね……。都合良く記憶を捻じ曲げたっていいじゃない……。

 そんでもって、もう今まで貧弱一般人だったのが嘘だったように俺は魔物を狩りまくったわけっすよ!

 ――森の入り口にいる小動物系の魔物ばっかだけどね、狩ったのって。ようするにただのノンアクティブ、低レベルのモンスター。だって森の奥とか怖くて入れないもの。

 でも俺は頑張ったんだよ!? 大ウサギとか、疾風リスとか、二足ネズミとかいっぱい倒して肉も毛皮もモリモリ稼いできて、乾燥肉なんか『一年分はありますね! すごいです! 頑張りましたね!』ってアルシラさんに超褒められたし、エクセリカちゃんには『これなら新しい毛布で寝られそうだ。感謝するぞ、リッキ』なんて感謝の言葉まで頂いちゃうぐらい頑張ったんすよ!?

 だってのになんでだよぉ!

 なんでこんなに頑張ってんのに魔法使えないんだよお!

 ほらあ……普通さぁ……こういう異世界モノにはお約束でしょお……?

 何のとりえもない主人公だけど、実は魔力は無限にもってる的な設定あるじゃんね?

 俺すっごい期待してたんだよ?

 んでもって最強オリジナル魔法とか作っちゃったりして、二人に見直してもらったりなんかして、亜族と人間のわだかまりを解消して英雄とかなっちゃう系の展開を妄想して一人でニヤニヤしてたんだよ?

 んでもって二人は俺と結婚して、俺の子供を妊娠してもらうハーレムエンドを妄想して何度ヌいた――やめよう。勃ってくる。

 でもそんなの夢のまたっすよ! 魔法なんか使えないんだものさぁ!

 マジ情けねええええ!

 俺なんっのとりえもねえよ!

 ふへへ……無理、俺にゃ無理っす。

 このまま俺はただの変態で生きていくんだね。

 まあわかってた(予知夢)。


「はあ……。リッキ、今日は魔法の練習をそろそろ引き上げて、戦闘訓練にしないか……? なんだか私はお前を見てると泣きたくなってくる……」


 飽きれた感じにエクセリカちゃんはパタンと魔導書みたいなんを閉じてため息をついてきまんた。

 泣きたいのは俺っすよ! いくらやっても屁すら出ないんだもの!


「あいー……」


 ――でもまー戦闘訓練は最近じゃメキメキ上達してきてるし、やっぱりエクセリカちゃんもそっちの方が教え甲斐があるよねえ……。

 でもいくら上達してるっつってもチートクラスじゃないよね……。

 いうなれば駆け出し冒険者に毛が生えたレベルの強さ――つっても剛毛だけどさ。だけどその程度なんすよ。きっと本職の兵士とかアサシンには勝てないっすわ……。

 それがちょっち悔しいけど、それでも強くなってきてるのは事実だし、追々もっと強くなれるはずだから、今は精進かなー……。

 それに俺、結構こういった剣とかぶんぶん振り回すの憧れてたんよね。

 日本じゃこんなの川っぺりで振り回してたらおまわりさんに捕まっちゃいそうだしね。

 そんなわけで、好きなだけ剣の練習できるこの世界の環境ってのは、俺には結構マッチしてるわけですよ。

 しかも魔物倒せるようになってからずーっと、もう暇を見つけたら近場の森に入ったり、エクセリカちゃんに模擬戦と言う名の本物の武器を使ったマジの実戦みたいな事――どう見ても一方的な処刑だけど――してもらったりだから嫌でも腕は上がるわいの。

 ちょっと前にエクセリカちゃんと二人で魔物の討伐行ってきて、イノシシみたいのにタイマンで勝てましたよ! 青色オオカミよりもタフで体が堅くて時間かかりまくって、結構俺もボロボロになったけどね!

 はぁ……。

 あれを鞭一本で一方的にボコボコにしちゃうエクセリカちゃんってどんだけなのよって思うわ。


「そいじゃ戦闘訓練しますかね……」


 ぼやいてても始まらないし、今日もやっぱりただの実戦式の模擬戦で終わりかー……。

 はぁ……。

 魔法使いたいなー……。

 レベルを上げて、物理で殴るしかないなんて、俺ぁ悲しいよ。


「よし、それじゃあ今日も体を温めてからだな。リッキ、まずはいつものように私と家の周りを100周してからだ」


「うい」


 うん、一周300メートル以上あるんだよね。

 グ○コキャラメル一粒分のカロリーだね。それを100粒分でしょ? 余裕余裕。

 もう最初の頃なんか二、三粒で倒れてたけど、今じゃ100周どころか300周はいけそうだわ。

 いやあ……本当に体力もついたねえ。

 でも魔法は使えない。ちくせう。


「なあリッキ。ずっと疑問だったんだが、お前はどうして戦闘訓練や魔法の授業を受けたがるんだ? 兵士になりたいわけでもないんだろう?」


 今日も走りながらお話しか。

 ランニングしながら会話するなんて最初は考えられなかったなあ。

 ……さて、なんで訓練やら魔法やらを習いたいのかって質問ね。

 あー、そういやぁ話してなかったっけ。

 ――話せるわけない。

 だって『ハーレム作って君を妊娠させるためだよ(ニコッ)』とか言えないじゃん。絶対鞭でしばき殺されるわ!

 ……まあでもそれは当初の、なーんも考えてなかった頃の目的なー。

 今はちっとばかり変わってんのよね。

 ほら、あれっすよあれ。

 なんていうか、こっ恥ずかしい話なんだけど、俺ってばアルシラさんにすっげぇ感謝してるし、親愛すら感じてんのよね。

 無職だって事話しても顔色変えないし、創作モノが好きで、絵に描いた女の子に恋心を抱いちゃうなんて話――ようするにオタクだって事を聞いてもぜーんぜんバカにしたり、変な目で見て来ないんだもんなぁ。

 こっちにはそういった文化がないからなのかもしれんけど、俺は色々と救われた気がしてるんだよね。

 だから頑張っちゃいたくなるんだわなー。

 それと、なんつーか本当に褒めるのがうまいんだよね、あの子。

 俺より年下の19歳の女の子――俺の世界じゃ19歳は未成年だよ。こっちは15歳で成人らしいけど……。

 まぁ、だってのにだよ? 彼女俺よか全然しっかりしてんの。

 だからずーっと『さん』付けで呼んじゃってるしね。

 もし生半可な男がアルシラさんを呼び捨てにしたら、俺は間違いなく『"さん"を付けろよデコ助野郎ォ!』って怒るね。あ、エクセリカちゃんは生半可じゃないし女の子だからオッケーです。

 そんでもってさ、俺、アルシラさんにずーっと褒められてんの。

 毎日毎日耳が幸せになっちまうぐらい『剣が上手になりましたね!』とか『お布団干しといてくれてありがとうございます』とか『洗濯物、すっごく綺麗になってましたよ』とか『お部屋のお掃除お疲れ様です! ピカピカでしたよ!』とかもう、なんでもないような事だってのにいーっぱい褒めてくれんの!

 やばいよ? すっごい嬉しいよ?

 おいら褒められ慣れてなくてさ、すっげぇ最初は恥ずかしかったんだけど、やっぱりそれってすげえ嬉しいもんなんだ。

 そりゃあもうこうやって毎日頑張っちゃうくらいにはね。

 ……年下の女の子に『頑張ったね、いい子だね』って言われて喜ぶ男の人って……。

 い、いや、いいんだよ嬉しいんだから! ドキドキハートが『きゅんきゅん』するのはとても気持ちの良い事なんですのよ!?

 ……さて、そんなわけで元に戻ってくるんだけど。

 俺、あの子の事守りたいの。

 正義の騎士だとかいったもんを気取るつもりはないんだけど、少なくとも魔物が襲って来たり、ピンチになった時はすぐにでも駆けつけてあげたい。

 ――まぁアルシラさんの魔法はすっげぇ強いけどね……。守る事なんかないかもしんないよね……。

 だけどアルシラさんを守るって事は、つまり人と戦う事にもなるかもしれないって事なわけでして……。

 人間は魔物と違って思考に長けた生き物だし、きっとエクセリカちゃんクラスのヤツらがごろごろしてんだと思うし、魔法を打ち消したりする輩もいないとは限らんのよね。

 そんなヤツからアルシラさんを守るとしたら、もちろん今の俺なんかぜーんぜん全くもってへっぽこぷーなわけですよ。

 だからこうやって毎日毎日体力づくりだとか戦闘訓練してるんだよね。

 それにこうやって強くなれば、エクセリカちゃんのお仕事手伝ったりもできるし、少しでも恩返しできるんだわいの。

 それが理由の大半……っていうか多分7割占めてるかな、今は。

 でもまぁ――


「強くなるのは男のロマンだからっす! 強くなりたい! ピンチはチャンス!」


 なーんだか素直には言えないよね、うん。


「そうか、ロマンか……ふむ、それは良い事だ。……しかしその力が、私達亜族に向いてこない事を祈るばかりだ――っと、すまん、忘れてくれ。決してお前を信じていないわけじゃないんだ。……だが、やっぱり心のどこかで、お前は人間なんだと思ってしまう所があってだな……許してくれ」


 俺の隣を走っていたエクセリカちゃんが俯いてしまった……。

 あの青色オオカミの一件以来、なんだか俺に対しての態度が柔らかくなったり、徐々に信じてくれるようなそぶりも見せてくれるけど、まだまだ俺を――というか人間を――信じきれない部分があるみたいだ。

 ……いやあ、信じてもらえないのはちっと悲しいけど、そりゃあしかたねーよ。

 人間に両親殺されてんだから憎しみもあるだろうし、人はすぐに変われるもんじゃないからさ……。

 でも、これでもエクセリカちゃんは随分歩み寄ってくれてると思う。

 こうやって戦闘訓練に付き合ってくれるし、最近ではよく笑ってくれるようになったし。


「大丈夫。だけどこれだけは言うよ? 俺はエクセリカちゃんの事を信じる、どんな事があっても信じ続けるよ。だって俺の師匠だもんげ」


「ぷふっ! お前のその『もんげ』ってのは何なんだ? まったく、すぐに私を笑わせようとするんだな、お前は。……かなわんよ、ふふっ」


 あ、ほら、笑った。

 口に手を当てて『ふふっ』って!

 うー! かわいーなー!

 ……俺、こんな可愛い子の事『孕ませたい』とか思ってたんすね。

 うう……ちょっと不釣り合いすぎじゃね? 身の程を弁えるべきじゃね?


「もんげはもんげっすよ。これ以上話すと大きいおも友達がやってきて『もう許してやれよ』とか『絶対に許さない、絶対にだ』とか言ってくるから軽く流してくださいな。……さてさて、そんなわけで俺は師匠であるエクセリカちゃんを尊敬してもいるんす。だから絶対裏切らない、これだけは約束するっす」


 お、頬っぺた染めて顔逸らした!

 ふふ、さてはこんな風に素直な気持ちをぶつけられた事がないんだね? わかる、俺も生まれて一度もこんな風に言われた事なんかないもの。きっと俺がそんな風に言われたら恥ずかしくなって燃えちまうよ。


「……あ」


 そっか……俺、25年も生きてるのに尊敬された事一度もねーや、消えてしまいたいわ。

 ……ま、まぁそれはそれとして、エクセリカちゃんだね。

 うん、しっかり者に見えるけど、やっぱり16歳かー。

 初心なとこもあって可愛いじゃないの! また一つ魅力を発見ですわよ!

 ――だから絶対、この子から逃げちゃいけないし、裏切っちゃいけない。

 ……女の子との約束を破ったら、絶対にダメだかんな。エロゲで学んだ!


「そっか……ありがとな。できれば私もお前の言葉を信じてやりたいよ。だけど私にはちょっとまだ無理みたいだ。すまん……。よしんばお前と一つになれば……本心がわかるのだが……」


 最後の方ボソボソって言って何いってっかわかんなかったけど……まぁ、信じようと努力してくれてんのは素直に嬉しいよ。

 こりゃ期待に応えねーとな!


「ようっし、じゃあ俺ペースアップしちゃおっかな!」


「やめておけ、無理に走っても体に毒だぞ? 温まるぐらいで丁度いい。ほら、あと17週だ。同じペースで行くぞ」


「ハイ……」


 うぐ……言ったそばから空回りっすね。

 ま、焦らずいきまっしょい時間はいっぱいあるんだから――とか前向きに言うとでも思ってんのか神様ゴルァアアアアッ!!

 おい、神様! おい! 魔法よこせ! 

 ……あ、ごめんなさい下さいお願いしますこのウジ虫にその大いなる心でもってして魔法をお与え下さい! おい、無視すんな、聞いてんのか、おい!

 ちっくしょぉおおおお!

 せめて剣の腕でも精進しるぞぉおおおッ!!

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