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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
11/36

初めての狩り

 最近とっても温かくなってきまんた!

 季節はいよいよをもって春って感じです。

 

「ふふ、初めての魔物狩りですね、リッキさん!」


 俺の隣でアルシラさんが『うふふ』なんて楽しそうに笑ってるんで、それに俺は『うん! うん!』って力強く何度も頷き返すわけっす!

 そう! そうなんですよ! なんと今日は魔物狩りにやってきてます!

 長かったなぁ……! 毎日毎日痛い思いしてエクセリカちゃんと訓練してきた甲斐があったなぁ……! 初めてのモンスターっすよ! レアドロップ! 経験値! レベルアップ! ファンタジーRPGのお約束!

 ――だけどここって現実だから経験値もレアドロップもないんですわよねー……。

 それにこの世界の魔物の殆どは、野生動物が大きくなったり、角が生えたり、翼が生えたりしてるだけなんだよね……。確かに爪だとか角だとかは漢方薬みたいにして使えるんだろうけど、倒せば100%落とす通常ドロップなわけでして、価値もそれほど高くないんだよねえ……。一回しか剥ぎ取れないなんて事もないし素材まるまる自分のものっていうのは結構でかいけど、利用方法があんまねーのがネックよね……。毛皮を毛布だとか服に使ったりとか、肉食うぐらいしかないんじゃねーのかな……。

 ああ、でも魔法石――魔法効果が付与された結晶――の媒体に使うもんが強い魔物からはとれるそうなんで、そこらへんはちょっとレアくさい感じなのかもしんない。

そう、強い魔物っつったら、トロールやらオークやらコボルトってのもいるらしいよ。そういうのはこういった人気のある村から離れたところで、ひっそりと集落を作ってるらしい。

 知能も低くて人語も解せないし、しかもすべからく凶暴で、異種間交配を好むらしいから、テリトリーに入ってきた弱い女の子を襲って孕ませた挙句、そのまま出産奴隷として監禁し続けるなんていう、とんでもないヤツらだそうで、人間、亜族問わず敵扱いされてるわけなんだけど、そいつらヘタに人型してるし、集落だとか文化だとかを形成してるから、このせいで亜族の人がそういったものと勘違いされるわけなんだよね。だから亜族の人はわりとこいつらにヘイト高いです。見かけたら即殺しにかかるレベルぐらいに。

 あ、それと人間が魔族だとか亜族の事を言ってるけど、結局その位置づけってのは結構曖昧なんだってさ。

 獣人も天人も魔族に分類されてた頃があったらしいし、結局人間の都合のいいようにできない生物の事は敵対視する傾向にあるんですな。……あ、エルフとドワーフは人間にしてみりゃ魔族らしいっす。でもその二種族は自分たちを亜族ではないって思ってます。だけど亜族の人達は同じだと思ってます。なんかそれぞれの考えに統一性がないなぁ。

 多分、同じようにどの種族にも分類されてない種族、どっかにまだまだいっぱいいるんじゃねーかなぁ。なんだか結構複雑でわかりにくい世界感だわ……。

 ま、理解するのって難しいよ。俺は『人間側の視点』と『亜族側の視点』の両方をもってるから、尚更頭んなかごちゃつくわ。前に出会った牛娘ちゃんなんて『獣人じゃねーの?』って感じだしね。

 ――さて、お話を戻そう。

 そんな感じで俺は今日、エクセリカちゃんやアルシラさんと一緒に森の奥にやってきたわけっす。

 ついでに木の実やら薬草やらも採取するって事らしいんで、小ぢんまりとしたリアカーを俺は引っ張ってます。

 本当は村の人達といつも一緒に行ってるらしいけど、俺ってば人間だし、やっぱり他の人と合わせるのはちょっとアレな感じだって事で、少数での狩りになりまんた。

 人が少なくても大丈夫なんかね? って思ってエクセリカちゃんに聞いたら『ここら辺なら私一人でも平気だが、収穫物を運ぶのに人手がいるんだ』だそうです。エクセリカちゃんどんだけ強いのよ……。

 アルシラさんは『薬草の知識は必要ですからね!』って言って付いてきてくれたわけなんだけども、戦えるのかな? 俺にはどうにも強そうには思えないんだけど……。

 ……まぁ、エクセリカちゃんはめっちゃ強いし、きっとアルシラさんは大丈夫さ。

 ――俺が大丈夫かどうかは別として。


「リッキ、考え事をしながら歩くと不意を突かれるかもしれんぞ。最悪命だけは守ってやるが、これは殺意や敵意を察知する訓練も兼ねてるからな。お前がケガをしようと足を食いちぎられようと、命に別状がないなら放っておくぞ?」


 家からだいぶ離れた森の奥。

 日もあんまり当たらなくなってくるぐらい木々が密集した場所まできたところで、エクセリカちゃんが立ち止まって、振り返りながら俺にそんな恐ろしい事を言ってきました。


「わ、わかってるよ……。うん……」


 そう、これは俺の戦闘訓練の一環でもあるわけっす。

 だけど俺、今まで平和ボケしてたわけだし、魔物なんか一回も見た事ないわけで。

 そりゃ確かに二人は、人間にとってみりゃ魔族なんていう恐ろしいものに見えるかもしれんけど、俺にはちゃんと亜族っていう種族で、最近では普通に可愛い女の子に見えて来たりしてるわけっすよ。

 それに魔物ってだいたい野生生物っしょ?

 どうせウサギだとかイノシシだとかシカだとかぐらいしか森にゃいないっすよ。

 エクセリカちゃんはすっごい強いし、俺も大分動体視力やら体力やら、戦い方の基礎を身に着けてきたわけだし、早々負ける事なんてないんじゃないかな? っていうか負ける要素ないわ。

 ――これが負ける要素ですね……。調子に乗ったらダメだろ俺……。


「リッキさん。今回狩った魔物は今日の夕食に出しますから、頑張って大物を仕留めてくださいね!」


 アルシラさんが俺の隣でニコって笑う。

 ほほう、魔物は食えるのか。

 そうだよね、ただの野生動物だもんね。


「任せて下さい! イノシシやらシカやら、お腹いっぱい食いましょうね!」


 そうやって俺が自分の胸を『どんっ』ってな具合で叩くと、アルシラさんは『頼もしいですね! 期待してますよ!』なんて言って俺の背中をトントンしてくれた。この子本当に人のテンション上げるの上手よね。

 エクセリカちゃんが激励タイプで、アルシラさんは褒めて伸ばすタイプ。

 お互いタイプ全然違うけど、結局どっちも教えるのは上手だと思う。


「うーん……?」


 んでもって、その教え上手なエクセリカちゃんなんだけど、何だかさっきからちょくちょく気になってる事をしてるんだけど――。


「あ、ところでエクセリカちゃん。その赤い液体は何なの?」


 そうそう、これが気になってるんですよ。

 何かさっきからすげえ自然にやってるから、あんまり気にならなかったんだけど、エクセリカちゃんは大きめのビンに入った赤い液体を、森に入って結構奥に進んだ所ぐらいでさ、ビンの蓋空けてポタポタと垂らし始めたんだよね。


「うん? ああ、これはニワトリの血だ……」


 え!? それをずっと道に撒いてたの!? なんでそんなグロい事してんの!?


「ふふっ! ニワトリの血には魔力が含まれていまして、道しるべ代わりに垂らしているんですよ。リッキさんもやりますか?」


 俺の腕に自分の腕を絡めて『やります?』なんて感じに首を傾げるアルシラさんはとっても可愛いのだけど……あんまりそういうグロい事したくねっす……。


「い、いや……遠慮しておきます……。その代わり、ちゃんと今日はでっかい得物を仕留めるっす!」


 まぁニワトリをサバくお仕事とかやってたし、血抜きの為に木に吊るしたりもした。

 もちろんその血を集める為に、下に大きな受け皿だって用意したけど、まさかこんな事に使うなんてなぁ……。料理に使うんだとばかり思ってたヨ……。

 血とか肉を解体するとかってのは平気だけど、さすがに地面にポタポタたらすのは何かそれとは違う気がする。

 なんて言うか、精神にくる怖さっていうか、グロさがあるよな……。


「はい、美味しい料理、いっぱい作っちゃいますね!」


 うむ、それはそれとして、晩御飯が楽しみだ!


「やったあ!」


 アルシラさんの飯はうまいかんなぁ。


「緊張感が欠如してるぞ、リッキ。魔物が近くにいる――ほう、ウサギか。手ごろだな。よしリッキ、感覚を掴むためにも、あれを狩ってきてもらう」


 そんな感じで俺がアルシラさんと談笑しながら森の中を進んでいくと、どうやらエクセリカちゃんはもう魔物を見つけたらしい。


「はい。えーっと――あ、お口にチャックね、ごめん」


 どうやら草むらの向こうにいるようで、エクセリカちゃんが口に指を当て『静かに草むらの向こうを覗け』ってな感じのジェスチャーを送ってくる

 どれどれどんな魔物がいるのやら――でけぇ!?


「あ、あれでウサギって言えるんすか……」


 草むらの向こう、木の木陰。

 そこには大型犬並みにでっかいウサギがいて、もふもふと草を食んでまんた。


「あ、あれは大ウサギですね。ふふっ、もちろん普通の大きさのウサギもいますよ。魔力に飲み込まれるとああいう風に魔物化するんです」


 俺の隣にアルシラさんがやってきて、俺の耳元で小さく教えてくれる。


「ま、魔力にっすか? そんなん初耳っすけど……。すんません、ちょっと狩りの前に教えてもらっていいっすかね?」


 ちょっと狩る前に魔物についての講釈を聞きたいかも。

 あのウサギ、耳がいいはずなのに何かこっちには気づいてこないし、草食う速度めっちゃ遅いし。


「ええ、いいですよ。まだ早朝ですし、時間もチャンスもいっぱいありますしね。エクセリカ、少し周りを警戒してもらっていい?」


「ああ、わかった。自分が倒す者の事を、何も知らぬまま倒しても仕方がないしな」


 そんなわけでアルシラさんから魔物についての基本的な知識を、ちょっとばかり聞かせてもらいながら、俺はあの大ウサギなる魔物をじっと見張ります。


「さて、それじゃあ魔力についての説明も少し交えながら話していきましょうか。ええっと……そうですね、まずは――」


 どうやらちょっと長くなりそうだけど、時間はまだ早朝だしね。

 さてさて、どんな話が聞けるんだろうか。

 

――そんなわけで話を聞きながら、頭ん中で整理しつつ、アルシラさんの声に耳を傾けてっと……。

 ふむ……。まず魔素ってのがこの世界中に漂っていて、世界中の動物、植物、ようするに生き物はみーんな絶えず魔素に晒されてるのね。

 で、それを皆吸収してるらしくて、世の中の生物は絶対に少なからず自分の中に、千差万別人様々な固有の魔力ってのをもっているのか。

 んでもって、その体の中の魔力ってのは、どうやら意志や精神、感情に関係あって、理性がある者――つまり知的生命体なら、他者の魔力を受けても魔物になる事はないのね。

 だけど本能のままに動く野生動物系ってのは、他者の魔力の影響を受けやすいってわで、こいつらは他の魔物の魔力に反応して、同じように魔物化するわけね。

 んで、実は人も魔力に左右される事があるみたいで、強烈な負の感情だとか、恐ろしく強い感情だかを心に宿した魔力の高い人が近くにいたりすると、少なからず心が変化したり、人格も変わってきてしまうらしいけど、人にはそれぞれ固有の魔力があるし、それが精神を保護してくれる役割を果たしてくれるらしいから、そんなに気にしなくてもいいわけか。

 ――といった設定がこの世界には存在してるんですね。以上情報整理終わりっと。


「なるほどね。じゃあ、あのウサギちゃんを食べても、俺達は別に同じ魔物になったりって事は絶対にないんですね? 本当っすか……? 俺ちょっとオークとかになるのだけは絶対に嫌なんすけど……」


 首を傾げてアルシラさんに聞いたら『ふふっ。心配しなくてもいいんですよ。生物は死んでしまえば魔力がなくなりますからね。リッキさんったら怖がりさんですっ』なんて言って俺の頭撫でてきた。

 うう……年下に安心させてもらう25歳のお兄さん……。ダサい。


「うっし、そんじゃあ遠慮なく食わせてもらいますかね」


 俺は腰に差してあった剣をゆっくり引き抜いてから『そろり……そろり……』ってな感じに大ウサギの背後をとって近づくわけっす。

 ……ようっし、そろそろ射程距離だぜ。首を刈り取らせてもら――。


「リッキ! 下がれ!」


「え? なん――でぇええええええ!?」


 ク、クマだああああ!?

 クマが突然木の陰から飛び出してきたああああ!?


「バックステッポゥ! バックステッポゥ! バックステッポゥ!」


 もう全力で三回もバックステップしてそいつらから距離をとったよ!

 ……って、おいィイイイ!? 俺の大ウサギ横取りすんじゃねー!?


「GaaAAAAA!!」


「Gi!!」


 クマが俺の得物である大ウサギを鷲掴みにしたと思ったら、素早く両手で捻じりやがりまして『ギッ』なんて短い悲鳴を上げて大ウサギは絶命!

 んでもってその横っ腹にあのクマ野郎! がっつり食らいついてムシャムシャガリガリボリボリと骨ごと貪ってやがりますよ!


「少しゆっくりしすぎたか……。ふむ、あの魔物は少しばかりリッキには荷が重いかもしれんな。しかたない、ここは私がやるからお前は下がって見ていろ」


 エクセリカちゃんは腰から鞭を引き抜いて『ヒュンッ、ヒュンッ』ってな感じに振りながら、いつものような歩き方で、スタスタとクマに近づいていくわけなんすけど……そ、そんな鞭であのクマがどうにかできるわけ――。


「はあっ! ふっ! せいやっ! ……っと。喜べリッキ。今日はクマ鍋だ」


 でぇえええええ!?

 エクセリカちゃんは間合いに入った瞬間勢いよくクマに突っ込んで、その小さな鞭でクマの頭やら胸やらをぶっ叩いて一瞬で気絶させちゃったんすけど!

 何なのそのチート性能!? 君はもしかして最強畑の住人ですか!?

 こんな規格外の人が近くにいるのに、どうして俺にはそういった力がないんですか!?

 教えてよ神様! 俺はどうして最強じゃないんですか! どうして気持ちよくなれないんですか!? イジメなんですか!? 笑ってるんですか!?

 ――これが格差ってやつか……。

 強い強いと思ってたけど、ここまで強いとはね……。


「ぬ……。リッキ、どうやら今日の狩りは終わりだ」


 不意にどこか遠くを見つめて、エクセリカちゃんが俺に謝って来たんだけど、正直どうしてか全然わかんない。

 なんでそんなすげぇ真剣そうな顔で遠くを見ているんですかねぇ……?

 ……ああ、もしかしてクマが大きくて、それ持って帰るのに時間とられるから?


「え、でもまだ昼にもなってないよ? リアカーだってもってきてるし、解体すればちょっとはコンパクトに――むごっ」


 エクセリカちゃんが俺の口を片手で塞いできたお……。俺そんなうるさかったかな……?


「リッキ……。かなりの量の魔物が、こっちに向かってきている。お前を守って戦うのは少し面倒くさい。だからアルシラと一緒に家の方に向かってくれるか?」


 そんなあ!?

 俺、狩りの為にこんなリアカーを一生懸命ばか正直に引っ張って森の中あるいてきたんすよ!? 今さら何もできずに逃げ帰るなんて嫌だあ!

 ――でも、こんな風にエクセリカちゃんが言うって事は、きっと俺がいたらすげー足手まといになる量がくるって事だよね……。


「わかったっす……。ちょっと残念ですけ――」


「伏せろ!」


「ぶべっ!?」


 エクセリカちゃん! どうして俺の事地面にすっころばしたの!? 酷いよ!? 俺ちゃんと言う事聞いていい子に家に帰るって決め――。

 ええ? 何……ぎゃわあああああああ!? でけぇオオカミだぁよぉおお!? でけぇオオカミが俺の後ろにいるよぉおお!?


「まったく……。タイミングが悪いな……青色オオカミ、休む暇がないぞ。リッキ、こいつらは足が速い。撒くのは無理だ。お前はアルシラを連れて全力で家の方に向かえ。私はここでこいつらをある程度処理してから行く、群れで動くからな、まだまだやってくるぞ」


 鞭を構えて、青色オオカミなる普通のオオカミの倍ぐらいあるオオカミを睨みつけながら、俺達に『早く行け』ってジャスチャーをするエクセリカちゃん。

 足手まといになりたくないし、ここは速やかに従わねえとな。


「了解……。気を付けてね!」


 俺はアルシラさんと一緒に走り出す!

 後ろから青色オオカミが『キャインっ!』とか言ってる声が聞こえるから、絶対エクセリカちゃんなら負ける事はないはずだ!

 ――でもちょい情けない……。

 俺よりも一回り近い年下の女の子に、その場を任せて逃げるんだもの……。

 強くなってきてるはずなのに……俺はまだまだヒヨッコなのね……。


「……情けないのう」


 走りながら、俺ってばとうとう呟いちまった。

 アルシラさんにはどうやら聞こえてなかったみたいだけど、きっと聞こえてたら『仕方がない事だったんですよ。今はエクセリカに感謝しましょう』ってな事を言って俺を励ましてくれたんだろうさ。

 それはそれですっげぇ情けないから、聞こえなくってよかったって思うけどさ。


「精進しねぇとな……っと」


 ――さて、森の中を掛ける俺ら。

 もうどんくらい走ったんだべ?

 確か道しるべとか言ってニワトリの血をエクセリカちゃんが撒いてたはずだけど、俺にゃ魔力が感じられんし……アルシラさんならわかるかな?


「はぁ……はぁ……」


 アルシラさん、苦しそうだな……。

 俺は毎日体力づくりしてるから、前に比べると全然大丈夫だけど……。


「大丈夫? 少し歩く? アルシラさん、キツいでしょ?」


 俺が少し走るペースを緩めると、アルシラさんも同じように緩めてくれた。すっげぇ息が荒いし、肩も上下してる。やっぱり辛かったんだろうな……。

 こうやって一緒に狩りに出かけたけど、アルシラさんには体力が全然ない。

 ここに来たばっかりの俺よりはさすがにあるかもしれんけど、今じゃ俺の体力はかなりのもんだし、アルシラさんに合わせないとダメだわこれは。


「ふふっ。はあ……はあ……ありがとうリッキさん。多分村まではあと半分ぐらいです……ふぅ……ふぅ……ごめんなさいね、迷惑をかけて……」


 笑ったあと、すごく申し訳なさそうな顔をして頭を下げてくるアルシラさんに、俺はすげー罪悪感を感じますぞ……。

 ――迷惑なんて全然思ってないぞアルシラさん……。

 だって俺の事を拾ってくれて、優しくしてくれて、家に招待してくれて、こうやって今の俺があるのはアルシラさんのおかげなんだし、すげえ感謝してるぐらいだわ。言うなれば大恩人ってやつだろ。

 迷惑なんて掛けられた事ないし、むしろこれからは頼って欲しいわいの。


「そんな事ないっす! アルシラさんは俺の――危ない!」


 魔物の気配を感じた俺は、アルシラさんを抱き寄せてバックステッポゥ!

 ナイス判断! グッジョブだよ俺! やっぱちょっとは強くなってんじゃん!


「Grrrrrrrrr……」


 今までアルシラさんがいたところを飛び越して、素早く着地した謎の魔物。

 その正体は――青色オオカミ。

 はぐれオオカミってヤツですか、てめえは!

 いるんだよなー、クラスに一人はこういう集団行動に混ざれないはみ出し者がさぁ! 皆からは『正直迷惑なんだよ』とか『学校に来るんじゃねえよ!』とか言われちゃうタイプだろう? マジでKYだよな!

 ――それって俺の事でした、サーセン。わりと合唱コンクールとかサボってました。


「どうせ逃げ切れないんだろ……? やるしかねえんだろ……?」


 俺はアルシラさんを後ろに庇って、ゆっくりと腰に差してあった剣を抜く。

 初めての実戦……超怖い。


「――っ!」


 青色オオカミが飛び込んでくる! でも大丈夫! エクセリカちゃんの最速の一撃よりゃ遅い! 


「ふっ……! よし! アルシラさん! 離れてて!」


 うっし、反応できた!

 アルシラさんを庇いながらサイドステップ!

 見える、俺にも敵が見えるぞ! 

 動きが早すぎて『な、何が起こってるのかわからねえ……』ってな状態にはなってないから、集中力と体力さえ持てば十分に対処できるはずだ!

 ただ、こいつ普通のオオカミよりも一回りも大きいから、蹴り飛ばす、投げ飛ばすってな事は俺の筋力じゃできねえ……。

 とあるのTRPGのシステムなら『受け』『止め』なんて事が出来るかもしれんけど、こりゃゲームじゃねえし防護点なんてありゃしない。

 俺にできる事は『避け』一択だ。

 やっべー……失敗したら即死亡のオワタ式かよ……。

 くそ、超怖いよ!


「Grrrroooo!!」


 青色オオカミが、雄叫び上げて俺っちにまたもや突っ込んでくるけど、今度はアルシラさんも後ろにはいねえ! いい気になってんじゃねぇぞワン公! いつまでもお前が有利だと思うなよな!


「うるぁ!!」


 サイドステップからの突き! 横っ腹がお留守だぜクソ犬!

 ――なんつって。

 本当は超こえええんだよおおおお!!

 近くにいるのがアルシラさんじゃなかったら多分逃げるよ俺!? 本当だったら『こんな所にいられるか! 俺は逃げるからな!』とかいって女の子見捨てて逃げて真っ先に殺されるタイプの人間なのよ俺ぇえええ!?


「Ggggg……」


 低いうなり声上げながら、俺のまわりをぐるりぐるりと、ゆっくりゆっくり回る青色オオカミ……。

 どうやら学習してんなこいつ……。やりにくい……。


「Gaaa!!」


 駆ける青色オオカミ、構える俺!

 大振り攻撃をやめて低く走って足でも狙う気か!

 だけどそんなのはなぁ――。


「エクセリカちゃんに習ってんだよぉ!!」


 青色オオカミの頭に剣ぶっさして、そのまま跳び箱を超えるみたいにしてジャンプ!

 こんな軽業師みたいな事できるようになったのはつい最近っすよ!

 もう俺はただの半引きこもりじゃねえ! ニートでもねえ!

 ――ちゃんと仕事する自宅警備員です。ここ森だけど。


「Ggg!!」


 うっし! 青色オオカミが倒れた!

 脳天ぶち抜かれて生き残る生き物がいるなら俺は見てみたいね!


「GAOOOOOOOOOOOO!!」


 フラグでしたあああああ!!


「なん……だと……」


 生きてます! 生きてますよ青色オオカミ!

 なんか普通に起き上って遠吠えなんか始めちゃいましたよ!?

 そんなあ!? だってさっきのあれって、絶対頭蓋骨突きぬけて脳みそにまでちゃんとクリティカルなダメージ入ってるよ!?

 なんでなのぉ!? どうして生きてんのぉ!? 教えて偉い人!


「ぐっ……ふざけんなよマジで……」


 俺は再び剣を――って、無い。

 あああああ!!

 青色オオカミの頭に刺さってるのがその俺の武器っすよ先生!!

 ばかぁ! エクセリカちゃんに『武器は戦いに置いて最大のパートナーでもあるが、弱点にも成り得る。臨機応変に対応し、武器にとらわれた戦い方はするなよリッキ。だが、お前の命を守る為の大切なパートナーであるという事も忘れるな』って散々っぱら言われてたじゃないっすか!!

 どぼじで簡単に手放すような事しちゃったの俺ぇええええ!!


「GAAAAAAA!!」


 うっひぃ!? さっきの倍ぐらいのスピードで走ってくる!?

 見えるけど! か、体も反応するけど! け、決定打がねえよ!? ジリ貧になるー!


「リッキさん! 援護します!」


 アルシラさん!? そうだアルシラさん! 今までどこにいたの!? 先に逃げてくれたんじゃ――。


「火球よ! 我が理解の範囲においてこの場に現れ出でよ! サラマンドラの炎!」

 

 すげー!?

 俺の遥か後方で、アルシラさんが大声で何か言ったと思ったら、アルシラさんの体の周りに火の玉が大量に出てきたっすよ!? それがこの世界の魔法ってヤツですかい!?


「穿て火球! 燃やせ炎! 全弾射出!」


 う、うおおお!!

 アルシラさんの体に出現した大量の火の玉が俺の横を通りすぎて青色オオカミにすげぇ爆発音立てながらぶつかってく!?

 しかも凄い威力じゃね!? 青色オオカミの体がどんどん爆発して、ミンチになってくじゃないのよ!

 魔法すげえ! 超強ぇ! 便利すぎ! 俺も覚えてぇえええ!!


「Gg……g……」


 そんでもって、青色オオカミの脚やら腹やらが吹っ飛んで、とうとうオオカミは地面に伏してんの! やべえ、これは真面目に俺も魔法を覚えたくなってきたぞ……。


「リッキさん! 止めを! 心臓を狙って下さい!」


 アルシラさんがこっちまで駆けてきて、俺の手に一本のダガーを渡してくれる。

 こ、これでまだ死んでないんすか……魔物ハンパないっすね……。


「魔物は心臓を止めなければなりません! エクセリカからは『すぐに止めを入れてしまったら訓練にならない』と口止めされていたのですが……。もう仕方がないです! やってしまいましょう!」


 でぇええ!? 先に言ってよ!? 頭部破壊したら生き物なんてすぐに死ぬものだって思っちゃうでしょおおお!?

 ……つっても、俺の訓練のためだもんな、仕方ないか……。

 ――うん? 訓練?


「心臓ぶすり……っと。ねえ、アルシラさん。今訓練って言いました?」


 もう青色オオカミは起き上がれないし、虫の息ってやつです。

 別に気合い入れて止め刺さなくてもいいっす。

 そんな事より俺は気になってる事があるんす。

 アルシラさん、まさか俺に何か隠し事してませんか?


「え、えへへ……。そ、そうでしたっけね?」


 白々しく俺から視線を外して、後ろで手を組んで石ころ蹴っ飛ばしてるアルシラさんを見て、俺はなんだか確信めいたものを感じ始めているわけですが……。


「まさかこれ、訓練ですか……?」


 聞くとアルシラさんは『そ、そんなに都合良く青色オオカミが襲ってくるわけがなですよ! ここが彼らのテリトリーだって事知ってる人ぐらいしか誘導なんてできませんからね。それにこんなに一匹だけ都合良く追ってくるなんて、エクセリカが逃がさない限りありえませんよ? リッキさん? 人を疑うなんて悪い事ですよ? ふふふ、うふふふ!』なんて言って誤魔化そうとしてるけどもうだめ。だってアルシラさん自分で答え言っちゃったもんげ。


「やっぱ訓練だったんじゃないっすか! アルシラさんの魔法すっごく強いし、そんな人が逃げるってのがまずおかしいよ! そもそもエクセリカちゃんがアルシラさんを同行させてたのも、考えてみたらおかしな話っす! だってこんな危険な森に、主をつれていくわけないじゃないっすか!」


 そうだ、そもそも戦えない人がこんな危険な森の中に入ってくるのがそもそもおかしな話だったんだ。

 最初からこれは、俺の腕を試す為の試験だったって事じゃねーのよ。

 なぜだ、なぜ気づかなかったんだ、俺は……。


「あ、あうう……。リッキさん酷いです、疑うなんて……。悲しいです、悲しすぎます……ううー……うわーん」


 ワザとらしく顔を覆って泣き真似をするアルシラさん。

 くそぅ……あの時は『俺が絶対なんとかするんだ』って、あんなに思ってたのに、ただの訓練だと思うと気が抜けてきたわ……。


「まあ騙した事はわるかったが、お前の本気が見たかったのだ。どうしても『守ってもらえる』といった事を考えると甘えが出るしな。それに危機的な状況に立たされると、人というものは本質が浮かび上がるものなんだ。悪気があってやったんじゃない。許してくれ、リッキ」


 草むらからエクセリカちゃんが出てきまんた。

 やっぱり隠れてたんだねぇ……。


「はぁ……了解っす。でも、どうやってこんな訓練の状況なんて作り出したの? 魔物をコントロールする魔法なんかがあるの?」


 俺の声に、エクセリカちゃんが苦笑する。


「ニワトリの血だよ。あれには青色オオカミが好む香りを混ぜ込んでいた。あの時このビンに気づいた洞察力には少し驚いたぞ。わからないように盲点を突いた自然な動きで撒いていたというのにな……。だが、すぐにアルシラの嘘に騙されたお前を見て、私はホっとした。私は嘘なんてつけないからな。聞かれていたら話さなければならなかった」


 ああ、そういえばエクセリカちゃんって、今まで嘘なんて一度もついたことないよね。

 思い返せば俺を騙していたけど『お前を守って戦うのは少し面倒くさい』とは言ってたけど『守るのは無理だ』とは言ってなかったし『大量の魔物が来る』って言ってたけど『青色オオカミが大量にやってくる』とは言わなかった。

 つまり嘘はつかないし、真実をぼかした事を言うだけ。

 徹底して絶対嘘をつかないのね……。あの映画の騎士の誓いを思い出すわ。『騎士は勇気を胸とし、その心を善に捧げ、剣は虐げられた者を守り、その力は弱き者を助け、その言葉は真実のみを語り、その怒りは悪を打ちのめす』だっけな。すっごくいい映画だよねドラゴ○ハート。


「ふふっ。一瞬ヒヤっとしたけど、なんとか誤魔化せてよかったです! ふふっ。リッキさんは素直でいい人です」


 ぐぬぬ……だって二人だっていい人だし、嘘を付かれるなんて思わなかったもの……。


「でも、狼が来なかったらどうしてたんです……?」


 それにしたって都合良く狼がやってこなかったら、二人の訓練の計画はおじゃんだろ?


「それなら別の手を考えていたさ。結局あそこはヤツらのテリトリーのすぐ近くだし、もっと奥にいけば確実に遭遇するからな」


 なーるほどね……。


「はぁ……。そっかぁ……。でもよかった、二人とも無事だし、俺も生きてるし……。あ、それで、今回の実戦訓練、俺は何点ぐらいとれたんかな?」


 そう言って二人を見ると、二人はお互いに顔を見合わせて笑ってから、俺の方を向いてウィンクすると――。


「「40点!」」


 なんて言われちゃいました。

 高校生なら赤点ギリギリ合格点、大学生じゃ落第点ってとこですね。

 途中で武器手放したのが致命的だったなぁ……。

 うう、次は気を付けます。

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