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まぞくといっしょ  作者: 黒梵天
第一章 白銀の鎧と悪魔の少女
10/36

ある日の閑話と牛娘


 エクセリカちゃんに戦闘訓練を受けてからやや日が経ってきまんた。

 さてさて、もちろんここはいつもの薪割り場。

 今日も今日とて――。


「シェイシェイハ!! シェイハッ! シェシェイ!! ハァーッシェイ!」


 てな具合で木偶人形に理想のテンポで木の棒を叩きつけてます!

 そうです! この汗だっくだくになってる小汚いおっさんが――お兄さんです――萩原律樹(童貞)です。


「ふぃー、疲れたびー」


 もう修練初めて1時間以上経ったのでちょっくら休憩っすな。

 地面に大の字に倒れて、ちょっと伸びして、そんでもってゆっくりこの世界の、爽やかで美味しい空気を吸い込みまくるのが俺の休憩方法。

 いやあ、本当はもっと練習したいんだけど、俺も大分動けるようになってきたらしくて、あんまり根詰めてやると伸びないらしので、こうやって1時間ぐらいやったら休憩、1時間ちょっとで休憩、みたいな感じで繰り返して、早朝の朝5時ぐらいから飯休憩を挟んでそろそろお昼ぐらいになりまんた。

 あ、ちなみに自分で起きれるようにはなってねっす。やっぱまだまだエクセリカちゃんに起こしてもらってます。ボコられながら。

 まぁ、そんなわけで今日も戦闘訓練っすよ。

 ちなみに戦闘訓練する日は洗濯も農作業もぜーんぶお休み。

 ……もちろん皿洗いはするけども。だって楽しみなんだもの、二人の使った食器とかをペロペロするのが。

 ええっと、まあそれでこの日だけは仕事もお休みなんだけど、その代わり訓練の前日に色々と二日分やっておく必要があるんです。

 まあ今の俺なら結構余裕でこなせちゃいますよ。家事手伝いもかなり慣れたし。


「はー。気持ちいいなあ」


 さて、それはさておき今は全力で休憩っすなー。

 体の力ぜーんぶ抜いて、葉っぱのかすれる音とか、鳥の声だとか、そういったものに囲まれながら、リラックス。

 実はこれも訓練なんすよね。静と動、緩急をつけた体力の使い方を学ぶ為に必要らしいです。俺にゃようわからんけどね。

 ただ、疲れた体に冷たい地面が心地いいっす。

 たぶん今、季節は春先か、もしかしたらそろそろ春になってるんじゃないっすかね。

 この世界に初めて落っこちて着た時、湖にボッチャンしたわけですが、あの時は気が動転してて気にもとめてなかったけど、水がクソ冷たっかたよ。


「風呂入りたいなー……」


 シャワーでもいいよ。

 温かいお湯をゆーっくり浴びたいなー気持ちいいんだろうなー……。

 ……でもまぁ無理だね。高望みはしないっす。湖でおっけー。

 だけど出来れば体をシャンプーやらボディソープで綺麗にしたいのう。

 もしどこかに売ってるんだったら買っておきたいなあ……洗濯にも使えるし、きっとアルシラさん達がもっといい匂いの女の子になるんじゃないかな。


「はあ……」


 でも売ってないんだろうね……。

 だってこの世界の文明レベルそんな高くないし、化学技術なんてう○こだもの。

 牛乳石鹸ぐらいなら小学生の時とかに理科の実験で作った事あるし、材料さえあれば作れるんだけどなあ……そんな事に牛乳使ったらエクセリカちゃんに怒られちゃいそうだし、今んとこ保留ですな。

 何せ牛乳はあの小さなお胸を育てる為には重要な――


「うお!?」


 殺気を感じたからすかさすローリング回避!

 ま、まさかエクセリカちゃん、もう狩りから帰ってきたんすか!?


「お、おかえりエクセリカちゃん、今日もご苦労さ――誰だお前は!?」


 振り返ると目の前に可愛らしくて牛っぽい女の子が立っていました。

 ここにきてまた新キャラかよ!? って感じだけど、エロゲーだとかのヒロインにするにはちょっと魅力不足かなーって感じっすな。

 ボーイッシュな茶色の短髪にカーキー色のキュロットパンツ。上着は真っ白なワイシャツみたいな感じで襟が大きいっす。ただ、ボーイッシュではあるけどおっぱいはかなりでかくて――あれ? お腹ん所ティクビみたいのがツンツンしてない……? ワイシャツの下からティクビみたいな……まさか、複乳か!?


「誰だっていい! お前には関係ない!」


 何か無骨な鉄の塊が先にくっついたみたいな斧――ツーハンドアックス構えて前かがみになりながら全力で突進してくるんですけど!? あ、あれは角!? 牛の角っすよあれ! それに足に茶色っぽい毛がふっさり生えてて、その先は靴なんか履いてなくて、黒っぽい蹄……って事は! み、みの……ミノタウロスってやつですかい!? 牛娘ちゃんってやつですかい!?


「死ね! 死なないなら、出ていけ!」


「危ね!?」


 全力でバックステップ!

 彼女すごい剣幕で怒りながら、ツーハンドアックスを右斜め上から左下に振り落してきましたよ!? 本当に死んじゃいますよそれ!?


「出ていけ! この村から、出ていけ!」


 牛娘ちゃんはでかくて重そうなツーハンドアックスをぶんぶん振り回して、こ、殺そうとしてきますよ!? 完璧に殺意ありますよ!?


「で、出てけって言われたってっ! お、俺っち! なんか! しましたかねえ!?」


 上段、避け! 中段、避け!

 体が自然に動くぞ……やっぱり訓練は無駄じゃなかった! 確実に成長してますよ俺!


「うるさい! 口を開くな! お前なんて嫌いだ!」


 またもや中段攻撃を避け!

 ふ、ふおー! 避けれる! 避けれるぞ!


「このぉ!」


 ツーハンドアックスを突き出しての突進!? さすが牛娘ちゃんだよ!

 どうする!? 俺がとれる回避行動の候補はバックステップ、サイドステップ、ローリング回避、蹴りで武器を叩き落とすか、跳ね上げるか! ええい! 面倒くせえ! ケースバイケース! 臨機応変だ!


「せい! はっ! ふん! ホッ! ハッ!」


 飛んでくる攻撃を避ける! 躱す! 叩き落とす! 全っ然負ける気しません! 

 俺、あれっすかね、戦いに関しては才能あるほうなんすかね? 毎日朝の薪割りを終えてから夜寝るまでの間に、エクセリカちゃんがいる時はエクセリカちゃんに、そして誰も居ない時はずっと木偶人形打ちを一度も休まずに続けてきたんだけど、普通こんなに体が動くなんてちょっと異常だと思います。

 ……ハッ!?

 もしかして俺ってば某戦闘民族サ○ヤ人のような努力系最強主人公なのかな!?

 ……いや、でも悟○って最初から結構強かったよね……?

 赤ん坊時で戦闘力2って結構ヤバくね……?

 ――バカな事考えてないで戦いに集中しろよ! 俺まだそこまで強くねーだろ! 気を抜いたらまだまだ危ねーんだから!


「くぅ……! エクセリカ様に訓練を受けているって話、やっぱり本当だったんだ……!」


 苦々しい顔をしながらツーハンドアックスを下段に構えてじんわり下がる牛娘ちゃん。

 そうっす、おいらはこんな時の為にずーっとエクセリカちゃんに戦闘訓練受けてきてたんすよ!

 エクセリカちゃんの超人じみた攻撃を何度もさばいて、さばき切れなくて、ケツひっぱたかれて、何度も何度も繰り返し繰り返しや訓練してきんす!

 だからこんなのろい攻撃なんか完璧に見切れるね! だってエクセリカちゃんの本気の一撃は見えないもの! 不可視っすよ不可視! 物理法則仕事してよ!


「……あ、あんたのせいで、あんたのせいで二人共変わってしまったんだ! アルシラ様は若い衆から『人間を家に住まわせるなんて!』っていっぱい怒られているし、毎日頭を下げてるんだ! あたしは、すごく悲しい! それになんだか情けないよ! アルシラ様はこの村を背負う人なのに! あんたのせいで若い衆から『この村はもう終わりかもしれない』なんて言われてるんだ! じいちゃん達はもう力もそれほど強くないし、殴って叱りつける事もできやしない! だから誰も、庇ってくれないんだ! ……なのにアルシラ様はあんたの事、庇い続けてる! 毎日説得してる!」


 牛娘ちゃんが喉の奥から、絞り出すように声を上げて俺を睨んでくる……。

 あ、アルシラさんとエクセリカちゃん……そんな事言われてたんすか……?


「お、俺の……せいで……?」


 ちょくちょく村の集会場に出かけて、俺の事を説得してくれたりしてるって……もちろん知ってたけど……。まさかそんな事になってるなんて、俺……全然知らないし、知ろうとも、してなかった……。


「みんな迷惑してるんだ! エクセリカ様だって狩りをする若い衆から『このままじゃ人間と訓練するだけで、一緒に狩りに出てくれなくなるんじゃないか』って事を陰で言われてるんだから! みんな不安でしょうがないし、混乱だってしてる! 全部あんたが来てからだ! 全部人間が! あんたが!」


 斜めに振り上げ、一瞬の溜めからの回転斬り。

 ……だけど、俺はそれを苦も無く避けれる。

 そう、それはエクセリカちゃんが、村の仕事をお休みしてまで、一生懸命教えてくれたからだったんだ……。


「なんで! なんで当たってくれないの! この! この!」


 縦に、横に、斜めに。

 牛娘ちゃんはツーハンドアックスを振り回して俺に突進してくるけど、全く当たる気がしてこない。


「ふっ……はっ……ふんっ!」


 でも、だんだんと牛娘ちゃんの攻撃が遅くなってきてる……?

 さっきは一撃一撃にキレがあったし、一撃の後にすぐさま一撃、って感じで矢継ぎ早に斬撃飛んできたってのに、今じゃ『ブン……ブン……』って感じで、まるでF○XIV並みの攻撃速度だな……。いや、それでも十分早いんだけど……。


「はぁ……はぁ……。なんなんだ……あんた一体、何なんだっていうんだ……」


 とうとうツーハンドアックスを地面に下ろして、攻撃の手を止めて、肩で息をする牛娘ちゃん。スタミナ切れ……かな?


「なんで攻撃してこないんだ! あんた、強いんだろ! 人間なんだろ! そんなに強いならあたしも殺せよ! お母さんみたいに! 犯して! 嬲って! 殺せばいいんだ! うわああああ!!」


 牛娘ちゃんはツーハンドアックスを捨てて殴りかかってくる……。

 人間がよっぽど憎いのかもしれない……。

 確かに、俺がこの村にいる事を、快く思ってない人達がいっぱいいて、それを村の中で一番信頼されてたアルシラさんやエクセリカちゃんが庇うもんだから、村の人達が二人を不信に思ったりしてるんだろう。

 そして二人の事をちゃんと信じてる人にとっては、きっとすごく俺が邪魔くさいんだろうし、すげえムカついてんのかもしれない……。

 だけど……俺はこの世界で、この村で生きていかなきゃ、どうにもならない……迷惑かもしれないけど、俺はずっとここにいるつもりだし、絶対出ていきたくない!

 それに俺は魔族がどうだの亜族がこうだのつって差別なんかしないし! 牛娘ちゃんが言うような非道い人間でもねーぞ!

 ……でも、どうやったらわかってもらえるんだろう……。

 どう言ったら俺の気持ちが――ああ、そっか。


「ぐうっ!? ん……んぐっ……ぐぅ……!?」


 牛娘ちゃんの鉄拳を、顔面で受け止めた。


「うう……! お、俺は! そ、そんなつもり全然ないっす……! 亜族の人達、殺すなんて俺にゃ絶対無理っす! 女の子も殴りたくないっす! なんでそんな事しなきゃいけないんすか……! バカバカしいっすよ……!」


 奥歯食いしばって牛娘ちゃんの拳をまともに顔に受けて、その場に踏みとどまる!

 これが俺の出した答え――やっぱ痛いぃいいい!!!

 顔超痛いっすよ!? 口ん中切れたぞこれ!? ぢぐじょう! こんなに痛いなんて聞いてない! 聞いてないよお! めっちゃ痛いじゃないっすかあああ!? 殴ったね!? 父親にもぶたれた事ない――嘘です殴られました。ゲンコツはいっぱいもらった事あります。

 ぐぅううう! だけどすげぇ痛い! あれとは全然違う! いだいよぉッ!

 風の○のナ○シカばりに『大丈夫、怖くないよ』ってすればわかってもらえるんじゃねーかな、なんて思ったのが間違いだったよ! ちょっと威力殺せばよかったよ!

 ――でも、それじゃあ誠意が伝わらないんだろうなあ……。

 うう……損な役回りだなあ……全部悪い人間のせいだよ……クソース……。


「……なんで? 人間なんて、みんなあたし達を脅かす、害虫だ……。こんなの、意味がわかんない……。気持ち悪い……」


 うう……どうやらわかってもらえたのかな……?

 拳を収めてくれて、そのまま俯いて何か考えて――ねえ今『気持ち悪い』って聞こえたんだけど、ちょっとそれ酷くないっすか……? 俺、結構、傷付きますよ……?


「……」


 牛娘ちゃん俯いてずっとだんまり。たまに俺の方をちらっと見て『でも……』とかなんとかようわからん事を呟いて、それから目を逸らしてすぐに俯いてからまただんまり。

 ……うう、この間が辛い……。


「――あの……。とりあえず今日は帰ってくれませんかねぇ……? あんまり長居されると俺っち訓練の続きが出来ないわけで……」


 ずっとだんまりの牛娘ちゃんを見てるだけってのもバツが悪いし、正直このままだとお昼ご飯の時間過ぎちゃうし、訓練する時間もどんどんなくなっちゃうぞ……。

 だからこのまま何事も無く、穏便に帰っていただきたいわけなんだけど、素直に帰ってくれるかなあ……?


「……」


 むむ……? 何か無言で立ち上がって、どっかに――あ、牛乳の樽もって帰ってきた。


「……ミルク」


 あ、そういや氷室の牛乳切れてるつってたけど、ようやく新しいのが来たのね。なるほどなるほど、この子は牛乳配達の子だったんだね――なんと安直な……。


「ふいー……」


 んでもって牛娘ちゃんは、牛乳の樽置いたらとっとと帰っていってしまいました。


「嫌われてるんだぁね……俺……」


 牛娘ちゃんがいなくなってから、地面にごろん。

 殴られたとこが、じんわりと痛い……。

 嫌われてんのは、俺じゃなくて人間なんだろうけど、やっぱやるせないっす。


『みんな迷惑してるんだ! エクセリカ様だって狩りをする若い衆から『このままじゃ人間と訓練するだけで、一緒に狩りに出てくれなくなるんじゃないか』って事を陰で言われてるんだから! みんな不安でしょうがないし、混乱だってしてる! 全部あんたが来てからだ! 全部人間が! あんたが!』


 これが人間に対した時の本来の態度。

 アルシラさんやエクセリカちゃんは、ちょっと変わり者なんだよな……。

 俺、そういう事すっかり忘れてたよ……。


「だけど――」


 俺は無理に戦闘訓練に付き合わせたり、無理やりアルシラさんにご飯作らせてるわけじゃないんすよ……? 二人とも嫌な事はちゃんと嫌って言える子だし、俺だって二人の為に家事やら何やら、一生懸命やってんすよ……? 完全な協力関係とは言わないけど、ちょっとぐらいいいじゃないのさ……。

 それに二人が変わってしまったって、村人さんの都合で二人を勝手に美化してるだけじゃないっすか……こんなん八つ当たりと変わんないよ……なんで人間だからってこんな扱いされなきゃならないんすか……酷いっすよ……不当っすよ……。


「ぐっ……うっ……」


 確かに俺は二人がどんな風に苦労して、俺の事を庇ってくれているかなんて知らなかったし、知ろうともしてなかった。

 それについては最低だと思うし、能天気だし、殴られても仕方ないって思う。

 だけど、村人達の勝手な理想を押し付けて、期待しまくって、二人がその通りじゃないからって悲観したり、不信感抱いたりするのってどうなの……?

 それで俺に怒りの矛先を向けて、あまつさえ殺そうとするなんて酷過ぎだよ!

 ……涙、出てくる。


『なんで攻撃してこないんだ! あんた、強いんだろ! 人間なんだろ! そんなに強いならあたしも殺せよ! お母さんみたいに! 犯して! 嬲って! 殺せばいいんだ! うわああああ!!』


 ……だけど、亜族の人もこんな気持ちで、痛い思いしてきたんですか?

 亜族ってだけで、魔物扱いされて、話も聞いてもらえずに殺されて、酷い事されてきたんですか……? きっと……されてきたんでしょうね……。

 でも、ね……だからって、それについては俺、なんも関係ないっすよ……。

 だって俺日本人なんだもの、この世界の人間じゃないんだし、ご先祖様が貴方達に何か悪い事したってわけでもないんですよ……?


「うっ……ううっ……」


 日本の生ぬるくて、平和な環境が懐かしい。

 ちょっとだけ今、家に帰りたくなってきた……。

 家に帰って、とーちゃんと、かーちゃん、それに社会に『いつも守ってくれてありがとうございましたって』お礼が言いたいよ……。


「――どうしたリッキ」


 涙流しながら鼻すすってたら、後ろから声かけられた。

 声の方に顔向けたら、でっかいシカを担いだエクセリカちゃんがぽかんとしながら俺を見てた。

 ……そうっすよね。

 鼻水すすりながら肩震わして泣きわめくの我慢してる25歳のお兄さんなんて不思議な生き物に見えるよね……。


「ちょ、ちょっとしたホームシック。気にしないで――ってでけぇええええ!?」


 いや普通に『ああ、シカね』みたいな感じでやり過ごしてたけど、普通のシカより一回りもでかいシカをエクセリカちゃん普通に担いでんよ!? すげぇ涼しい顔してんよ!?


「ふふっ! これぐらいお前もすぐに獲れるようになるさ! さて、それじゃあこいつを解体する前に、少し訓練でもするか?」


 シカをどさっと地面に置いて、ぐーっと伸びをして、肩をぐるぐる回してから、エクセリカちゃんはおいらに『ニッ!』って笑いかけてくれます。超空気読んでくれてます。


「……うん。だけど牛乳きてるから、それ氷室においてからでもいい? バターになっちまうからさ……」


 おいらが牛乳の樽を指さして言うと、エクセリカちゃんは『そっか、行って来い』なんて言って、そのまま切り株に腰かけて、足をぶらぶらさせて待っててくれる。


「あいよ! よい、しょっと!」


 牛乳の樽を担いで氷室まで走る。もうこんなの、全然重くない。心も、軽い。

 人間、亜族、俺にゃどっちの風当たりも冷たくて、まるで突風みたいに強いけど――


「すぐ戻る! 40秒ぐらいで!」


 ここだけはきっと、この二人だけはきっと――


「そんじゃ、いってくまー!」


 俺に温かくて、やわらかい風をくれてるんだと思う。

 季節は移り、寒い時期ももうすぐ終わる。

 もうすぐ本格的に、温かい季節にもなりそうだ。

 そうしたら二人に石鹸でも作ってあげようかな?

 ……材料、あるかな。

 ねえ、父さん、母さん、見てますか?

 俺今、ちょっと幸せです。

 ――なんつって……本当に!



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