↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/15

1

「お前との婚約を破棄する」


王宮の大広間に、冷たい声が響いた。


リリアーナ・フォン・エルメリアは、静かに顔を上げた。


目の前にいるのは、婚約者だった王太子アルベルト。


その隣には、学院でも有名な魔法使い、セレネが立っている。


「理由は分かっているな?」


「……魔法が使えないから、でしょうか」


「そうだ」


アルベルトは迷いなく言い切った。


「王太子妃となる者が、初級生活魔法すらまともに使えないなど話にならない」


周囲から、くすくすと笑い声が漏れる。


「魔力が少なすぎるんだ」


「魔法学院でもずっと最下位だったらしいわ」


「本当に役立たずね」


リリアーナは何も言わなかった。


火を灯せない。


水を動かせない。


風を起こせない。


魔法を使うことができない。


それは、紛れもない事実だったからだ。


「お前との婚約は今日をもって破棄する」


アルベルトは続けた。


「そして王都に置いておく理由もない。辺境のノルド村へ行け」


「……追放、ということですか?」


「ああ」


リリアーナはしばらく黙っていた。


そして、小さく頭を下げた。


「承知しました」


「悔しくないのか?」


「……何を悔しがればいいのでしょう?」


「お前は王太子妃になれなくなるんだぞ」


「ですが」


リリアーナは首を傾げた。


「私は、もともと王太子妃に向いていなかったのでしょう?」


「……」


「それなら、仕方ありません」


そう言って、彼女は一礼した。


「今までありがとうございました」


その日、リリアーナはすべてを失った。


婚約者も。家での立場も。王都での居場所も。




けれど、彼女はまだ知らなかった。


自分がこれから向かう場所で、自分自身の才能を、初めて必要としてもらえることを。


◇


追放から三日後。


リリアーナはノルド村へ到着した。


人口三百人ほど。


古い木造家屋。


舗装されていない道。


小さな畑。


そして、村の中央に一本の井戸。


それが村のほとんどすべてだった。


「……ここが、これから私の住む場所」


王都から最後まで付き添ってくれた侍女が、不安そうに尋ねる。


「お嬢様。本当にここで暮らすんですか?」


「はい」


「王都へ戻ることは?」


リリアーナは少しだけ考えてから、首を横に振った。


「ありません」


その声には、不思議なくらい迷いがなかった。


「もう、私には関係のない場所ですから」


ところが、翌朝、リリアーナは井戸の前で立ち尽くすことになる。


まだ朝日が昇る前だというのに、村人たちが列を作っていた。


女性。


老人。


子供。


誰もが重い桶を抱えている。


一人が水を汲み上げる。


次の人が待つ。


その後ろにも、さらに人が並ぶ。


「……毎朝、こんなに?」


「そうだよ」


村長が苦笑する。


「川が遠いからな。飲み水も畑の水も、全部この井戸頼みだ」


「何往復するんですか?」


「人によるが、三往復、四往復は当たり前だ」


リリアーナは黙って井戸を見た。


古い滑車。


擦り切れかけた縄。


木桶。


そして、井戸の脇に転がっている小さな魔力石。


「これは?」


「捨てる予定のものだよ」


「なぜ?」


「魔力が少なすぎる。魔法使いが使うには価値がない」


リリアーナは魔力石を拾った。


指先でくるりと回す。


小さい。弱い。けれど、一定の魔力を持っている。


「……これなら」


「ん?」


「水を汲めます」


村長が目を瞬いた。


「これで?」


「はい」


リリアーナは井戸の滑車を見る。


それから魔力石を見る。


「魔力そのものが弱いなら、力を使う場所を限定すればいいんです」


「……?」


「人間が一度に重いものを持ち上げるのではなく、少しずつ歯車を動かせばいい」


リリアーナは地面に枝を使って絵を描き始めた。


歯車。


滑車。


魔力石。


「この三つを組み合わせれば――」


村長はしばらく図を見つめていた。


「……作れるのか?」


「分かりません」


リリアーナは素直に答えた。


「でも、試してみる価値はあります」


こうして。


ノルド村で、最初の魔道具作りが始まった。


◇


最初の一か月は、失敗の連続だった。


一号機、歯車が動かない。


二号機、動いたと思った瞬間、縄が切れた。


三号機、桶を持ち上げる前に歯車が飛んだ。


四号機、水は汲めた。

だが、魔力石が三時間も持たなかった。


「……また失敗です」


リリアーナは壊れた装置を前にして呟いた。


その隣で、村の鍛冶屋が腕を組む。


「魔力を使いすぎなんじゃないか?」


「そうですね」


「なら、歯車を一つ増やしたらどうだ」


「……なるほど」


大工も口を挟む。


「ここの軸、木じゃなくて鉄にしたほうがいい」


「お願いします」


「俺は?」


「では、この部分の寸法を測ってください」


「分かった」


最初はリリアーナ一人だった工房に、いつの間にか、村人たちが集まるようになっていた。


「次は成功するか?」


「さあ」


「さあって……」


「でも、今までよりは成功に近づいています」


リリアーナが笑う。


そして、六号機。


カチッ。


魔力石が淡く光った。


ギギギギ……。


歯車が回る。


桶がゆっくりと井戸の中へ降りていく。


水に沈む。


そして。


ギギ……ギギギ……。


桶が上がってくる。


誰も喋らなかった。


やがて、桶が地上へ戻った。


たっぷりの水が入っている。


「…………」


村長が呆然とする。


リリアーナは装置を確認した。


「動いています」


鍛冶屋が目を見開いた。


「本当に……動いたのか?」


「はい」


「魔力石一個で?」


「はい」


「……人間が回さなくても?」


「はい」


数秒の沈黙。


そして。


「できたぞおおおお!」


誰かが叫んだ。


村中に歓声が響いた。


その日の夕方。


村人たちは、何度も装置を見に来た。


「本当に勝手に水を汲んでる」


「信じられん」


「明日から、あの列に並ばなくていいのか?」


リリアーナは笑った。


「はい」


その夜。


彼女は久しぶりに、誰かに必要とされた気がした。


◇


水汲み装置が完成すると、村人たちの生活は目に見えて変わった。


朝の井戸には、もう長い列がない。子供たちは学校へ行ける。老人は重い桶を持たなくていい。女性たちは畑へ早く向かえる。


ある日、リリアーナは畑の端で立ち止まった。


井戸から汲み上げた水を、村人たちが桶で運んでいる。


一往復。


二往復。


三往復。


「…………」


リリアーナは腕を組んだ。


「どうしたんですか?」


村長が尋ねる。


「いえ」


彼女は畑を見ながら言った。


「せっかく井戸から水を自動で汲めるようになったのに」


「うん?」


「どうして人が水を運んでいるんでしょう?」


村長は黙った。


「……そこに気づいたか」


「はい」


その日から、新しい設計が始まった。


井戸から畑へ伸びる水路。


水を押し出す小型の魔力装置。


一定量になると自動で止まる弁。


「水が多すぎると根が腐ります」


「じゃあ、ここで止める?」


「はい。ここに弁をつけます」


何度も調整を繰り返し、ようやく水が流れた。


さらさらと、乾いた畑へ。


「……水が来た」


農夫が呟く。


土に水が染み込んでいく。


一週間。


二週間。


やがて。


小さかった麦が伸びた。


野菜の葉が大きくなった。


枯れかけていた畑に、緑が戻ってきた。


「こんなに違うのか……」


農夫が土を握りしめる。


「今年は……」


彼は震える声で言った。


「今年は、ちゃんと収穫できるかもしれない」


その言葉を聞いて。


リリアーナは胸の奥が熱くなるのを感じた。


魔法が使えない。役立たず。

そう言われてきた。


けれど、自分の考えたものが、誰かの明日の食事を作っている。

その事実が嬉しかった。


◇


秋が近づく。


畑には麦が実り始めた。


村人たちは喜んだ。


しかし、新しい問題が発生した。


「……粉にするのに時間がかかりすぎる」


村の古い石臼。


二人がかりで回さなければならない。


朝から晩まで回しても、十分な量を挽くのは難しい。


「水も解決したと思ったら、今度はこれですか」


リリアーナが苦笑する。


村長は肩をすくめた。


「問題ってのは、一つ解決すると次が出てくるもんさ」


リリアーナは石臼を見つめる。


それから、村の外で吹く風を見る。


「……風なら、ありますね」


「風?」


「はい」


数日後、村の高台に大きな風車が立った。


「これで石臼を回します」


「風で?」


「はい」


最初の試作品は速すぎた。


石臼が猛烈な勢いで回り、粉が飛び散った。


「失敗です」


「でも、回ったな」


「はい。次は回転を落とします」


二号機。今度は遅すぎた。


三号機。ちょうどいい。


ゴリ……ゴリゴリ……。


石臼がゆっくりと回り始める。


麦が粉になっていく。


「…………」


村人たちは顔を見合わせた。


「人が回してない」


「なのに、粉ができてる」


「ということは……」


農夫が笑った。


「俺たち、畑をもっと広げられるじゃないか!」


村に笑い声が広がった。

リリアーナも笑った。


問題を一つ解決すると、また新しい可能性が生まれる。


そのことが、少しずつ楽しくなっていた。


◇


冬を前にして、工房には人が集まるようになっていた。


大工は木枠を作る。


鍛冶屋は歯車を作る。


農家の若者は部品を磨く。


女性たちは図面を写す。


ある日、一人の青年が、リリアーナの前で立ち止まった。


「リリアーナ様」


「はい?」


「俺にも、魔道具の作り方を教えてください」


リリアーナは少し驚いた。


「あなたが?」


「はい」


「どうしてですか?」


青年は頭を掻いた。


「畑仕事しかできないと思ってたんです」


そして、完成した歯車を嬉しそうに見せる。


「でも、これを作るのが楽しくて」


リリアーナは微笑んだ。


「分かりました」


それから彼女は、村人たちに設計を教え始めた。


魔法陣の読み方。


歯車の比率。


力の伝わり方。


魔力の流れ。


「魔法が使えなくてもいいんです」


皆が顔を上げる。


「魔法を使うことと、魔法を設計することは違います」


リリアーナは図面を指した。


「必要なのは、考えることです」


その言葉に、村人たちの目が変わった。


「……俺にもできるかもしれない」


「私もやってみようかな」


「だったら、これを作ってみよう」


工房の空気が変わった。


リリアーナは気づいていなかった。


自分の才能だけではなく。


「自分には何もできない」と思っていた人たちの可能性まで、引き出し始めていることに。


◇


半年が過ぎた。


工房はもう、リリアーナ一人の場所ではなかった。


十数人の村人が働いている。


ある朝、一台の馬車が村へ入ってきた。


「ノルド村の魔道具工房はここか?」


「はい」


村長が出迎える。


「隣村の者です」


男は頭を下げた。


「水汲み装置を三台、お願いしたい」


リリアーナが目を丸くする。


「三台も?」


「うちの村も、水で困っているんだ」


リリアーナは村人たちを見る。


誰もが黙っていた。


やがて、鍛冶屋が笑った。


「作れるだろ?」


青年が頷く。


「作れる」


大工も言った。


「三台なら、俺たちで十分だ」


リリアーナは笑った。


「では、作りましょう」


一台目。


二台目。


三台目。


今度は、リリアーナがすべてを作る必要はなかった。


村人たちが図面を見て。


自分たちの手で作り上げた。


納品の日、隣村の男は何度も頭を下げた。


「ありがとう」


数日後。


一通の手紙が届いた。


『水汲みが楽になりました。本当にありがとう』


村人たちは、その手紙を囲んだ。


「……俺たちが作ったんだな」


「うん」


「俺たちの仕事が、誰かの役に立ったんだ」


誰も笑っていなかった。


ただ、みんな、誇らしそうだった。


◇


注文は増えた。


一件。


二件。


五件。


やがて。


「材料が足りません!」


工房の青年が叫んだ。


「鉄がありません」


「魔力石も残り少ないです」


「木材も、村だけでは足りません」


リリアーナは帳簿を見る。


「……仕入れましょう」


「お金は?」


「あります」


魔道具を売った代金。


それを使って材料を買う。


商人が村へ来る。


鉄を売る。魔力石を売る。

木材を運ぶ。

その代わりに、ノルド村の魔道具を持って帰る。


それまで、村では余った作物を物々交換する程度だった。


けれど、今は違う。


「いくらです?」


「これだけだ」


「では、その値段で」


村人たちは少しずつ、「価値」というものを知っていった。


自分たちの作ったものが、お金になり。そのお金が、また新しいものを生む。


村の経済が、動き始めた。


◇


秋も深まった頃。


一人の商人が大きな馬車でやってきた。


「これを王都へ持っていきたい」


「王都へ?」


リリアーナが聞き返す。


「ああ」


商人は魔法灯を手に取った。


「王都では、魔道具は高価だからな」


「でも、これは特別なものでは……」


「だからいいんだ」


商人は笑った。


「高価な魔道具は、金持ちしか買えない」


魔法灯を掲げる。


「これは安い。壊れにくい。しかも魔力の少ない人でも使える」


「…………」


「王都の人間が、どう反応するか見てみたい」


荷馬車が村を出ていく。


リリアーナはその背中を見送った。


「私たちの魔道具が……王都へ」


村長が隣に立つ。


「戻りたいか?」


リリアーナは少し考えた。


「いいえ」


静かに笑った。


「今は、ここのほうが好きです」


◇


村は目に見えて大きくなった。


新しい家。


整備された道。


増えていく工房。


そして、宿屋まで建った。


商人たちが泊まるためだった。


ある日、一人の若者が村へ戻ってきた。


「……久しぶりだな」


村長が目を丸くする。


「お前、王都へ出ていっただろう」


「ああ」


若者は工房を眺めた。


「でも、ここで働きたい」


「仕事ならあるぞ」


「本当か?」


「むしろ、人手が足りない」


若者が笑った。


「じゃあ、帰ってくる」


その後も、村を出ていった若者たちが戻ってきた。


以前は、何もないから出ていく村だった。


今は、仕事があるから帰ってくる村になった。


リリアーナはそれを見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。


◇


冷たい風が吹き始めた。


工房では、新しい設計図が広げられている。


「これは何?」


子供が覗き込んだ。


「暖房魔道具です」


「暖房?」


「はい」


「これで家が暖かくなるの?」


「うまくいけば」


「じゃあ、作ろう!」


「一緒に作りますか?」


「うん!」


子供が目を輝かせる。


リリアーナは笑った。


以前なら、自分一人で設計図を書いていた。


今は、子供たちが部品を運び、青年たちが組み立て、鍛冶屋が金具を作り、大工が外装を作る。


冬の夜。


完成した暖房魔道具が、静かに光った。


「暖かい……」


村人が呟く。


リリアーナは炎を使わずに暖まる部屋を見渡した。


「成功です」


歓声が上がった。


その声を聞きながら、彼女はふと思った。


一年前、自分には何もできないと思っていた。


今は、一人ではできないことを、みんなと一緒ならできると思っている。


◇


冬を前に。


ノルド村の名は、王都まで届いていた。


「ノルド村の魔道具は安い」


「壊れにくい」


「魔法が使えなくても扱える」


工房には注文書が積まれていく。


ある日、隣町から使者が来た。


「お願いがあります」


「何でしょう?」


「魔道具の作り方を教えていただきたい」


リリアーナは目を丸くした。


「技術を?」


「はい」


「私たちだけで独占するつもりはありません」


リリアーナは答えた。


「必要とする人がいるなら、教えます」


村人たちが顔を見合わせる。


鍛冶屋が笑った。


「ずいぶん大きな話になったな」


「はい」


リリアーナも笑う。


「私も驚いています」


「最初は水汲みだったのにな」


「そうですね」


リリアーナは工房を見る。


一年前には何もなかった。


今は、人がいる。仕事がある。


笑い声がある。


◇


春。


追放から一年が経った。


リリアーナは村の高台に立っていた。


眼下に広がるノルド村。


井戸では、水汲み装置が動いている。


畑には自動灌水設備。


高台では風力式の粉挽き機が回っている。


道には魔法灯。中央には、大きな魔道具工房。その周囲には新しい家が並んでいる。


馬車が行き交う。商人が荷物を運ぶ。子供たちが走っている。


「……一年で、こんなに」


隣に立った村長が笑う。


「お嬢様のおかげですよ」


「いいえ」


リリアーナは首を横に振った。


「違います」


工房を見る。


そこには、自分が最初に作った水汲み装置を改良している若者たちがいた。


「私は最初の設計をしただけです」


「それだけじゃないでしょう」


「でも」


リリアーナは微笑んだ。


「みんなが改良してくれました」



水汲み装置を作った。

水を畑へ送った。

収穫が増えた。

粉挽きが必要になった。

風車を作った。

余った時間で魔道具を作った。

村の外から注文が来た。

商売が始まった。

人が戻ってきた。

そして、村が大きくなった。



一つの問題を解決するたびに、また次の問題が見えてきた。


そのたびにみんなで考えた。


「リリアーナ様」


工房から声がした。


「次の設計、見てもらえますか!」


「はい、今行きます!」


リリアーナは駆け出した。


その背中を村長は笑顔で見送った。


一年目の朝、彼女は井戸の前でただ考えた。


どうすれば、この人たちの暮らしを少しだけ楽にできるだろう、と。


それだけだった。


それが村を変えた。


「リリアーナ様!」


「はい!」


「ここ、もっと効率よくできませんか?」


「見せてください」


彼女は図面を覗き込む。


そして。


「……ここを変えましょう」


村人たちが集まる。


「なるほど」


「じゃあ、この歯車を」


「待ってください。その場合は――」


笑い声が響く。


もう、彼女は一人ではなかった。


その頃王都では。


「……これが、ノルド村の魔道具?」


アルベルトが書類をめくっていた。


水汲み装置。


自動灌水設備。


風力式粉挽き機。


魔法灯。


暖房魔道具。


どの設計図にも。


同じ名前が記されている。


「設計者は?」


アルベルトが尋ねた。


魔法技術局長が答える。


「リリアーナ・フォン・エルメリアです」


アルベルトの手が止まった。


「……あの女が?」


「はい」


「だが、彼女は魔法が使えなかったはずだ」


「その通りです」


局長は静かに続けた。


「だからこそ、彼女は魔法そのものではなく、魔法を組み合わせて仕組みにすることに長けていたのでしょう」


アルベルトは何も言えなかった。


机の上には、彼女が作った魔道具の設計図が並んでいる。


一年。


たった一年で、辺境の村を変え、王都にまで名を轟かせた。


「……私は」


アルベルトは設計図を見つめた。


「何をしていたんだ……」


誰も答えない。


アルベルトの脳裏に、あの日の言葉が蘇る。


――役立たず。


――魔法も使えない。


――王太子妃には相応しくない。


けれど、今王都に届いている魔道具の数々は、すべてあの令嬢が設計したものだった。


「……国で唯一の魔法設計士を」


アルベルトの声が震える。


「私は、自分から追放したのか……」


返事はなかった。


ただ、王都の外では今日も商人たちの荷馬車が走っている。


荷台に積まれているのは。


ノルド村で作られた魔道具。


そしてその先頭には、新しい注文書が積まれていた。


ノルド村は、もう、「何もない辺境の村」ではない。


そこには、


技術があり。


仕事があり。


人が集まり。


未来を自分たちで作ろうとする者たちがいる。


そしてその中心には、かつて「役立たず」と呼ばれた少女がいた。


リリアーナは今日も、新しい設計図を広げている。


「さて」


彼女は笑った。


「次は、何を作りましょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。