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戦国大掾家繁盛記 ~戦国時代に転生した姉の未来知識を弟が形にしていたら、常陸の大勢力になっていました~  作者: 社長


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七話

 府中を出てから半日ほどで、俺達は高浜へ辿り着いた。


 海賊どもの根城については、先に高浜へ送っていた者達がある程度の情報を集めており、それによれば高浜から霞ヶ浦沿いに南東へ進んだ先、葦原と湿地に囲まれた小高い土地を根城にしているらしい。


 元々は漁師や船頭達が舟を留めるために使っていた場所だったようだが、周囲には細い水路が幾筋も走り、陸から近づくための道も湿地の間を縫うような細いものが一本あるだけだという。


「面倒な場所じゃな」


 高浜の者が描いた粗い見取り図を眺めながら俺が言うと、隣に座る常陸介も難しい顔で頷いた。


「左様にございます。正面から大人数で押し寄せれば、相手の思う壺となりましょう」


「では舟で回り込むか?」


「それも容易ではございませぬ。この辺りは浅瀬が多く、葦も深うございますから、地形を知らぬ我らが舟を出せば、座礁するか狭い水路へ誘い込まれる恐れがございます」


 陸から進めば狭い道を使わされ、水から向かえば海賊どもの方が地形を熟知している。


 話を聞けば聞くほど、相手がこの場所を根城に選んだ理由がよく分かった。


「ならば、どうする?」


「まずは近くまで進み、相手の出方を見るのがよろしいかと。ただし若殿、くれぐれも先へ出られませぬよう」


「分かっておる」


「本当に?」


「爺まで姉上のようなことを申すな」


「綾姫様がおられれば、某よりさらに厳しく申されましょうな」


「……それは否定できぬ」


 姉上なら『絶対に前へ出るな』と何度も念を押してくる姿が容易に想像できるし、出陣前にも同じようなことを散々言われていた。


 そこへ母上や琴の顔まで思い浮かべてしまえば、さすがの俺も無茶はできない。


 少なくとも、その時は本気でそう思っていた。


     


 高浜を出た後は馬を置き、全員が徒歩で進むことになった。


 湿地では馬の脚を取られる危険があるうえ、いざ戦になった際にも動きづらいからだ。


 先頭にはこの辺りを知る案内役を置き、その後ろを常陸介と数人の古参武士が進み、俺はさらにその後ろで残りの兵に囲まれるように歩いていた。


 連れてきた兵は四十余りと大軍ではないが、その大半は父上の代から幾度も戦場へ出てきた者達であり、若い兵もいるとはいえ、前を進む者達などは身体のあちらこちらに古傷を残した歴戦の武士ばかりだった。


 海賊討伐にこれほどの者達を連れてきたのは少し大げさだったのではないかとも思ったが、常陸介は最初から精兵を選ぶと言っていたので、今さら口を挟むつもりもない。


「若殿」


「何じゃ」


「先ほどから随分と周りを見ておられますな」


「初めて来る場所ゆえな。こうまで葦ばかりとは思わなんだ」


 右を見ても左を見ても背丈ほどの葦が茂り、少し離れれば人の姿さえ見えなくなる。


 足元も乾いた場所ばかりではなく、ところどころに水が溜まり、地面が柔らかく沈む場所もあった。


「これでは大勢で一度に戦えぬな」


「左様です。十人、二十人ずつに分けられれば厄介でございましょう」


「だから前に出るな、と申すのであろう?」


「よくお分かりで」


「何度も聞かされたからな」


 俺が苦笑した、その直後だった。


 前を進んでいた常陸介の表情が変わり、片手を上げて兵を止める。


「止まれ」


 低い声だったが、前方の古参達は即座に足を止め、その合図が後ろへ伝わると大掾勢全体が静かに動きを止めた。


「どうした?」


「……静かすぎまする」


 言われて耳を澄ませると、風が葦を擦る音と遠くの鳥の声ばかりが聞こえ、人の気配らしいものがほとんどない。


「海賊どもの根城が近いのであろう? ならば人の声や舟の音くらい聞こえてもよさそうじゃな」


「それだけではございませぬ」


 常陸介は足元へ視線を落とした。


「先ほどから人が行き来した跡が妙に少ない。根城へ続く道ならば、もっと足跡が残っておるはずにございます」


 俺も地面を見てみたものの、正直なところ、どの跡が古くてどれが新しいのかまでは分からなかった。


「別の道があるのか?」


「その可能性もございます。しかし、我らがこちらから来ることを知ったうえで、わざと道を空けておるとも考えられます」


「つまり罠か」


「恐らくは」


 そこへ後ろから一人の武士が近づいてきた。


「常陸介殿、先ほどの分かれ道まで人を戻しますか?」


「いや。相手がこちらの数を見ておるならば、今さら兵を分ける方が危うい」


「では、引き返すか?」


 俺が尋ねると、常陸介はすぐには答えず、しばらく前方の葦原を睨んだ。


「……進みまする」


「罠と分かっておるのにか?」


「罠の全てが、外から眺めただけで分かるものではございませぬ。こちらが警戒しておると知られれば、向こうも簡単には仕掛けてこぬでしょうし、根城へ行かねば討伐にもなりませぬ」


「爺、それを俺が言えば怒るのではないか?」


「若殿が申されれば怒ります」


「理不尽じゃ」


「某は若殿より五十年ほど長く戦を見ておりますゆえ」


 それでも常陸介は慎重だった。


 先頭をさらに経験のある者へ入れ替え、兵と兵の間を少し広げると、弓を扱える者を左右へ配置し直し、俺については何の相談もなく部隊の真ん中へ押し込めた。


「若殿はここに」


「分かっておる」


「何かあっても某より前には出られぬよう」


「分かった」


「お約束くだされ」


「……分かったと言っておる」


 まったく、姉上よりしつこい。


 そう思いながらも、俺達は先ほどよりさらに警戒しつつ、ゆっくりと根城へ向かって進んでいった。


     


 異変が起きたのは、それから四半刻も経たぬ頃だった。


 最初に聞こえたのは、左手の葦原から響いた小さな水音だった。


 何かが水を掻き分けるような音に気づいた瞬間、先頭の武士が鋭く叫ぶ。


「来るぞ!」


 ほとんど同時に葦の向こうから矢が飛び込み、常陸介の怒声が響いた。


「伏せろ! 左じゃ!」


 俺も反射的に身を低くすると、頭上を矢が通り過ぎ、その後にも何本もの矢が続いて飛んでくる。


 大掾勢の武士達は慌てることなく簡素な盾を左へ向け、弓を持つ者達も即座に射返す準備へ入った。


 葦の間から見えたのは、小舟に乗った海賊達だった。


 俺達の進む道と平行する細い水路へ舟を入れ、そこから一方的に矢を浴びせるつもりらしい。


「なるほど。陸から来た者を、横から射られるようになっておるのか」


「感心しておる場合ではございませぬ!」


「分かっておる!」


 そう答えた直後、今度は前方から怒声が上がった。


「敵、前方!」


 見れば道の先に十数人の男達が姿を現しており、槍や弓を構えながら徐々にこちらへ近づいてくる。


 さらに後方からも敵が現れたという報せが届き、前後を塞がれたうえ、左から舟に乗った射手に狙われる形になった。


 右側にはぬかるんだ湿地と深い葦原が広がり、まともに兵を動かす余地はほとんどない。


「狭い道へ入れたところで前後を塞ぎ、横から弓で削るつもりであろうな」


 常陸介の表情は険しかったが、声にはまだ余裕があった。


「ならば、どこか一つを崩さねばならぬ」


「左の舟はどうじゃ?」


「追えば水路へ逃げられまする。こちらには土地勘がございませぬから、深追いはできませぬ」


「後ろは?」


「今から全軍の向きを変えれば、その間に前から押されましょう」


「なら前を抜くしかないな」


「左様にございます」


 常陸介は即座に前方突破を選び、盾を持つ者を前へ、槍兵をその後ろへ置き、弓を使える者には左の舟へ射返して敵の射撃を抑えるよう命じた。


 俺は当然のように中央へ残される。


「若殿はここに!」


「……分かっておる」


 本音を言えば、俺も前へ出たかった。


 自分が行った方が早いと思ってしまう。


 だが、出陣前に母上や姉上、常陸介へ無茶はしないと約束したばかりだ。


 ここは我慢するしかない。


「押せぇ!」


 常陸介の号令とともに前方の武士達が押し出し、海賊達も槍を揃えて迎え撃った。


 正面からぶつかればこちらの武士の方が明らかに強い。


 しかし道が狭いため、一度に戦える人数は限られており、横から飛んでくる矢にも気を配らなければならないため、思うように前へ進めない。


「ぐっ!」


 一人の武士が肩に矢を受けてよろめく。


「下がれ!」


「まだ動ける!」


「下がれと申しておる!」


 すぐに別の武士が前へ入り、負傷した者を後ろへ下げる。


 その入れ替わりは見事だったが、それでも戦線そのものはほとんど動かなかった。


 俺は前方を睨みながら、歯を食いしばった。


 個々の技量はこちらが上だ。


 槍の使い方を見ても、足運びを見ても、大掾家の武士達の方が明らかに慣れている。


 それでも地形と横からの矢が、その差を埋めていた。


「爺」


「何でございます!」


「俺も前へ出てよいか」


「駄目にございます!」


 予想通りの即答だった。


「されど進んでおらぬぞ」


「だからといって若殿が———」


 常陸介が言い終える前に、左から飛んできた矢が俺のすぐ横にいた若い武士の兜へ当たり、甲高い音を立てた。


「うわっ!」


 男が身体をよろめかせる。


 幸い矢は兜に弾かれたようだったが、俺はその瞬間、反射的に左を見た。


 葦の切れ間から小舟が見え、その上では一人の男がこちらへ次の矢を向けようとしている。


「弓を貸せ」


「若殿?」


「早う」


 近くにいた武士から弓を受け取り、矢を番える。


「若殿、何を———」


 常陸介の制止が聞こえた時には、すでに弦を引いていた。


 小舟は揺れているものの、距離はそれほど遠くない。


 狙いを定めて放つと、矢は男の肩へ突き刺さり、相手は声を上げて弓を取り落とした。


「……浅いな」


「若殿?」


「舟が揺れた」


 続けて次の矢を番え、今度は別の射手の腕を狙う。


 矢は狙い通りに当たり、その男も弓を使えなくなった。


 殺す必要はない。


 弓を引けなくすれば、それで十分だった。


 もう一人、さらにもう一人と、舟の上から矢を射ようとする者を順に狙っていくうち、海賊側もこちらに射手がいることへ気づいたらしい。


「中央の若造だ!」


「あいつを射て!」


 今度はこちらへ向かって矢が集中した。


 一本目を半歩横へずれて避け、二本目は身を沈めてやり過ごす。


「若殿!」


「大丈夫じゃ!」


「大丈夫ではございませぬ!」


 常陸介の怒声が飛んでくるが、左からの矢はすでに明らかに減っている。


 その機を前方の古参達が見逃すはずもなかった。


「押せぇ!」


 大掾勢の武士達が一気に踏み込み、正面の海賊達へ強く圧力をかける。


 横からの援護が弱まったことで、今まで地形に助けられていた海賊側の陣形が少しずつ崩れ始めた。


「そのまま押せ!」


 常陸介の声が響く。


 俺も弓を近くの者へ返し、槍を握り直した。


「若殿、中央におられよ」


「分かっておる」


 そう答えた直後、前方で大柄な海賊がこちらの武士の槍を強引に弾き、肩からぶつかって一人を地面へ倒した。


「どけぇ!」


 男はその勢いのままこちらへ突っ込んでくる。


 狙いが俺であることは、わざわざ考えるまでもなかった。


「若殿!」


「分かっておる!」


 常陸介が動くより先に、俺も槍を構えて踏み出した。


 相手の槍が真っ直ぐこちらへ伸びてくる。


 速い。


 だが、見える。


 俺は半身になって穂先を外し、その槍を自分の柄で強く払った。


「な———」


 男の体勢が崩れたところへ槍の石突を脇腹へ叩き込み、身体が折れたところで柄を返して顎を打ち上げる。


 大柄な身体が、そのまま地面へ崩れ落ちた。


 周囲の空気が一瞬止まった。


 俺は倒れた男の様子を見て、まだ息があることを確かめる。


「よし」


「若殿!」


「うわっ」


 直後、常陸介に肩を掴まれ、乱暴に後ろへ引き戻された。


「何をしておられる!」


「襲ってきたゆえ、倒しただけじゃ」


「前へ出るなと申したでしょう!」


「向こうから来たのじゃ!」


「若殿も前へ出られました!」


「一歩だけじゃ!」


「三歩は出ておりました!」


「見ていたのか!」


「見ておりまする!」


 戦の最中とは思えぬ勢いで怒鳴られたが、こちらとしては敵を倒しただけなので、どうにも納得しづらい。


 しかし前方を見ると、海賊達の間には明らかな動揺が広がっていた。


「……何だ、あの餓鬼」


「十三だろ?」


「嘘だろ……」


 そんな声まで聞こえてくる。


 俺は再び槍を構えた。


「爺」


「何でございます」


「ここで止まれば、また向こうが立て直す。今のうちに押し切ろう」


 常陸介は一瞬だけ俺を見たが、すぐに頷いた。


「……左様ですな。皆の者、前を破れ! 後ろは押さえるだけでよい! 道を抜けるぞ!」


「おおっ!」


 大掾勢が再び前へ動く。


 今度は横から飛んでくる矢も少なく、正面の海賊達も先ほどの動揺を立て直せていない。


 こうなれば、純粋な戦場での経験の差がそのまま出た。


 父上の代から何度も戦を潜り抜けてきた武士達は、敵の槍を受ければ隣が踏み込み、一人が下がれば別の者が前へ出る。


 海賊達も必死に抵抗したが、罠や地形による優位が崩れた後では、正面から彼らを押し止めることはできなかった。


「押されるぞ!」


「下がれ!」


「退け!」


 前方の海賊達がついに崩れ、道が開く。


「抜けるぞ!」


 常陸介の号令で俺達はその隙を一気に突破した。


 左手の水路にいた舟も、大掾勢の弓に牽制されながら後退しており、後ろを塞いでいた者達も追撃まではしてこなかった。


 こうして、海賊どもが用意していた罠を完全に見抜いたわけでも、巧みな策で破ったわけでもないまま、俺達は正面からその包囲を強引に突き破った。


     


 少し開けた場所まで進んだところで、ようやく足を止めた。


「怪我人は?」


「三人にございます!」


「重い者はおるか?」


「一人が肩に矢を受けましたが、命に別状はございませぬ」


「そうか」


 その報告を聞き、俺はようやく息を吐いた。


 こちらに死人はいない。


 それだけで十分だった。


 海賊側には何人か倒れている者がいたものの、こちらも最初から皆殺しにするつもりで戦っていたわけではなく、戦線が崩れたところで逃げた者も多い。


「若殿」


「何じゃ」


 常陸介がじっとこちらを見ている。


「何だ?」


「弓、お上手になられましたな」


「そこか?」


「そこでもございます」


「褒めてくれるのかと思ったぞ」


「褒めておりまする。ただし、怒ってもおります」


「どちらじゃ」


「両方にございます」


 相変わらず面倒な爺である。


「先ほどのように、敵の矢が飛び交う中で御自身を晒す真似は、今後おやめくだされ」


「されど俺が射手を止めたから、前を破れたであろう?」


「結果だけ見れば左様です」


「ならば———」


「結果が良ければ何をしてもよいわけではございませぬ」


 言いたいことは分からなくもない。


 だが、あのまま横から矢を浴び続ければ、もっと多くの兵が傷ついていたはずだ。


「俺がやるのが一番早かった」


 そう答えると、常陸介の表情がほんの少しだけ曇った。


「……若殿」


「何じゃ?」


「本当に、先代様に似てこられましたな」


 その言葉は、褒め言葉には聞こえなかった。


 むしろどこか悲しそうで、俺は思わず常陸介の顔を見返した。


「爺?」


「いえ。今は先を急ぎましょう。今の戦で、向こうもこちらをただの若殿の初陣とは思わなくなったはずにございます」


「うむ」


 前方へ視線を向けると、葦原の先に粗末な柵が見えた。


「あれが根城か」


「恐らくは」


 俺は槍を握り直した。


 罠にはかかった。


 味方も傷ついた。


 それでも突破することはできたし、ここまで来れば残るのは海賊どもの根城だけだ。


 政務のように複数の利害を考え、誰かを説得し、銭や人手まで気にする必要はない。


 目の前にある問題を一つずつ排除し、目的を果たせばよいという単純さが、不思議なほど俺の頭を静かにしていた。


「行こう」


 俺の言葉に兵達が頷き、再び根城へ向かって歩き始めた。


     


 その頃、海賊達の根城では、先ほどの戦いから逃げ帰ってきた男達が息を切らせながら頭領へ報告していた。


「破られた!?」


「へ、へい!」


「何をやってやがる! あそこなら侍が何十人来たところで足止めできるって話だったろうが!」


「それが……」


「何だ!」


 叱責された男は息を整えようと何度か大きく呼吸し、それでも青ざめた顔のまま言った。


「若殿が……大掾の若殿が、化け物みてえに強えんです」


 その場にいた男達が顔を見合わせる。


「十三の餓鬼だろ?」


「そう聞いてたぞ」


「餓鬼じゃねえ」


 逃げ帰った男は強く首を振った。


「舟から弓を射てば、こっちの射手だけ狙って潰してきやがった。前から突っ込んだ弥助だって、一合も持たなかった」


「弥助が?」


「ああ。それに……」


 男はそこで言葉を切り、先ほどの光景を思い出したのか、わずかに身体を震わせた。


「何だよ」


「……あいつ、全然怖がってねえ」


「は?」


「いや、違うな。怖がってねえっていうより、俺達を恨んでもいねえんだ」


「何言ってやがる」


「見てるんだよ。ちゃんと俺達のことを見てる。でも、殺してやるとか、許さねえとか、そういう顔じゃねえ。ただ自分の前にいるから倒す、それだけみてえな目でこっちを見やがる」


 誰も笑わなかった。


 戦場を知っている者ほど、怒り狂っている相手より、妙に冷静な相手の方が恐ろしいことを知っている。


 怒っている者ならば激情につけ込む余地があるし、怯えている者ならば押せば退く。


 しかし自分の目的へ向かうことに迷いがなく、その道を塞ぐ者をただ排除して進んでくる人間は、脅しても怒らせても止まらない。


「頭領」


 一人が部屋の奥へ目を向ける。


「どうします?」


 海賊衆をまとめる頭領は、すぐには答えなかった。


 四十を過ぎた日に焼けた男で、長年霞ヶ浦で舟を操り、漁をし、荷を運び、時には他人の荷を奪って生きてきた人物だった。


「……十三、か」


 低く呟く。


「へい」


「本当に十三なんだな?」


「間違いねえです」


「そうか」


 頭領はゆっくり立ち上がると、傍らに置いていた槍を手に取った。


「なら、この目で見てみるしかねえな」


 父を失ったばかりの十三歳の新当主。


 そう聞いていたからこそ、海賊衆は大掾家を侮った。


 しかし、その判断が間違いだったのではないかという疑念が、すでに根城の中へ広がり始めていた。

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