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無謀な竜退治に仲間と挑むのだが。


 魔族が攻めてきた。最強のドラゴンを連れて。

 しかもドラゴンは一頭ではなかった。後ろからゆっくりと這い出してきたのは。


「あれは……黒竜じゃねぇか……」


 赤や青のさらに上位と言われる文字通りの生ける伝説だ。最上位と言うより、規格外。

 動きが緩やかなのは、のろいのではない。慌てる必要がないのだ。


 青竜が大関クラスなら、黒竜は横綱といえる。青竜だって角竜を片足で蹴とばせるほどだが、その青竜をうっちゃるくらい朝めし前なのが黒竜。天敵なんているわけもない。


 そのものすごいドラゴンどもを引き連れた魔族は、


「おれたちは人間に虐げられるだけの存在じゃない! 魔族の底力を見せてやる!」


「な、なんだかずいぶんお怒りのようだねえ」


 アシュリンの声も震えている。魔族の青年は怒り心頭、その原因に心当たりがありすぎるおれたちは途方に暮れた。どうしよう? なんと言って収めようか。


 そうこうするうち、青竜が太い腕を振り上げ、繰り出す。辺りの地面や人間が木っ端のように吹っ飛んだ。

 それを見た瞬間、おれは思わず走り出していた。


「待ってナハル! どこ行くの?」

「決まってる! ドラゴンを止めるんだ!」


 リアノンに答えながら、おれは青竜を見返した。

 でかい。

 強い。

 ものすごくこわい。

 でも行かなければ。


「無理だよ! あんなのに敵うわけない! 死んじゃうよナハル!!」


 わかってる。

 だが今広場には村人や観光客、戦う術を持たない人たちがたくさんいる。その人たちを逃がさなければ。

 もちろんおれなんかがドラゴンの前に飛び出したところで鎧袖一触がいしゅういっしょく、一撃でお終いだろう。それでも戦わなきゃならない。ほかの戦士と協力してほんのわずかでも時間を稼ぎ、人々を一人でも多く逃がさなければならない。

 それが剣を持つ者の義務であり、誇りだ。それができなければたとえ生き残ったって前を向いて生きられない。


 今も振り回された極太の腕が、盾を構えた衛士を三人まとめてふっ飛ばした。

 青竜は身の丈五メートルくらい、それほど大きなドラゴンではない。だが葉ぶりのいい大木みたいな身体の天辺の、敵意に満ち満ちた目ん玉にぎろりと睥睨される恐ろしさを想像してみてほしい。そしてその横から丸太ん棒みたいな腕が自分めがけて吹っ飛んでくるのを感じてみてほしい。


 冗談じゃない。逃げるしかない。逃げたい。


 それでも。


(逃げちゃだめだ)


 おれは剣の鞘を払って構えた。

 伝説の聖剣、フラガラッハ。


 すごい剣だ。だがおれを相棒と認めてくれるかわからない。それでも。


「たのむぜ相棒。おまえだけが頼りだ」


 振り回される青竜の腕を、地べたに這いつくばってかいくぐり、足もとに駆け寄った。腱の一本もぶった斬れば少しは動きを止められるはず。


 そう思って剣を振りかぶった瞬間、後ろからもの凄い衝撃で吹き飛ばされた。おれは地面を石ころみたいに転がっていく。


「……痛え」


 やっとのことで身を起こす。そこで何が起こったか、やっと確認できた。


 尻尾だ。青竜の身の丈にも匹敵する長い尾。その根元は大木の幹のようであり、全体が自在にたゆたって、ドラゴンの本体を守っている。まるでもう一匹竜がいるようだ。厄介な。


 気が付くとおれの側に、例の若者たちが転がっていた。

 剣を持っているのがノーラン。

 ゴルビーの側にはメイスが転がっている。こいつの得物だろう。

 少し離れたところには魔法使いのローブをまとったニールが、青ざめた顔で突っ立っていた。


「おい! 起きろ小僧ども! もういっぺんだ、行くぞ!」

「む、無理だ。あんな化け物、かなうわけない」


 ノーランが震える声で答えるのを、おれは叱り飛ばした。


「当たり前だろ! まともにやったら、あんなのに勝てるわけねえだろうが! 頭を使え!」


 大声を張り上げたのはもちろん、自分への叱咤だった。


「おい、魔法使い! なんでもいいから正面から攻撃をぶち当てろ」

「え?」

「残りのふたりは右から回り込め。攻撃しなくていい。おまえらが気を引いている間におれが左から奴の足を止める」

「あんた、そんな無茶な……」

「死にたくなきゃ言う通りにしろ。行くぞ!」


 おれは走り出した。


 魔法使いのニールが巨大な火を出現させた。足は震えてびびっているみたいだが、おれの意図を正確に理解してくれたようだ。

 低級の火炎魔法。攻撃力はほとんどないが、広範囲に広がって目くらましになる。いい狙いだ。


 炎が青竜めがけて飛ぶ間に、残る二人も走り出した。喚声を上げて右側、青竜の左足の方へ駈けていく。頼むから敵さんの射程内には入るなよ。


 青竜の視界が左へ動いたのを見て、おれは死角から奴に近づいた。再び足の腱を狙うがそれより早く、うねる尻尾が殺到してきた。まずい。動きが不規則で予測できない。

 ちくしょう。せっかく小僧どもが作ってくれたチャンスなのに。歯噛みしながらおれは受け身の態勢をとる。


 その瞬間。


 高速で飛来した矢が青竜の左目を刺し貫いた。

 青竜はたまらず叫び声を上げる。痛みにもがいて尻尾の狙いがはずれ、俺の頭上を掠め過ぎた。


「ナハル! 今!」


 凛とした少女の声が、おれの手足に力を与える。


「リア! グッジョブ!」


 駆け寄って渾身の一撃を振り下ろす。聖剣は太い竜の足を確実に捉えた。

 よし。と快哉を叫ぶ間もなく、怒り狂った竜の尾がおれの視界いっぱいに迫る。


 だめだ。今度こそ終わった。


 と、目の前を黒い靄が瞬時に包み込んだ。

 次の瞬間には青竜から五歩以上離れた場所にいた。たった今までおれがいた地面は青竜の尾に叩き潰されて派手な土煙が上がっていた。


「まったく。弱っちいくせに無茶ばかりするんだから」

「うるせえ」


 アシュリンが杖を振ると、今までおれを包んでいた靄が杖に吸い込まれる。彼女が闇属性の隠蔽と感覚惑乱魔法を使っておれを瞬時に移動させてくれたのだ。


「でもそういうの、嫌いじゃないよ。アタシがあんたを男にしてやろうじゃないの」


 アシュリンがおれに背中を寄せて立つ。その反対側、おれの右側にはリアノンが寄り添うように立ってアシュリンをにらみつける。


「アーシュだけずるい! あたしだって役に立つんだから!」

「じゃああんたも存分に男にしてあげなさいよ、ベッドで」

「なっ?!」

「よかったわねえ、勇者さまぁ。ドラゴン戦のご褒美は美少女だってよお。胸が貧弱だけどそこは我慢なさい」

「あんたが言うかっ!!」

「……おまえら、真面目にやる気がないなら帰れ!」


 こんな奴らだけど、こいつらを守らなければな。男がすたる。

 おれはぐっと聖剣を握りしめる。

 そのおれの肩をリアノンとアシュリンが、ぽんぽんと立て続けに叩いた。


「頼りにしてるわよ、勇者さま」

「おう、まかせろ」


 おまえたちが後ろで支えてくれるなら、今のおれはドラゴンとだって戦ってやる。

 おれたちは最高のパーティだって、おまえたちは最高の戦士だって証明してやる。


 ただの凡人、脇役剣士の意地をなめるなよ。




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