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伝説の武具には蘊蓄が付き物だが。


 暗くなるのを待ってからダンジョンを出て、おれの家に戻った。明るいうちだと人目につく。大仰な宝箱を見とがめられなくなかった。小心者よと笑わば笑え。冒険者の世界は甘くない。


「これ……すごすぎだわ」

「なんか、伝説の法具クラスが混じってそうなんだけど……」


 あらためてお宝を広げてみて、リアノンとアシュリンは息を呑んで見入っていた。

 おれですら、鳥肌が立つのを押さえられなかった。二人の言う通り、すごそうなものばかりだ。


「こりゃあ、思った以上にすごいな」


 剣士であるおれは、まず目についた剣を手に取った。それだけでもの凄い力を感じる。間違いなく聖剣の類いだ。抜いたら最後、魂を吸い取られかねないほどのものだ。


「これは……エルフの弓だね」


 リアノンが手にしたのは弓。傍から見ているおれにまで力が伝わってくるようだ。リアノンが軽く弦を引いて弾く。たったそれだけでも、たえなる響きが聞こえてきそうだ。


「やったな、リア。すごい掘り出し物だ」

「うん」


 リアノンは嬉しそうに弓を抱く。


 弓の中でもエルフの弓は霊力を込めた木から削り出している逸品だ。ただ矢を射るだけで普通の弓をはるかに超える威力を誇る。もちろん使い手を選ぶし技量も要るしでなにかと面倒だが、優れものであることは疑いない。


「そんで、これは……賢者の杖ね」


 アシュリンが拾い出したのは身の丈ほどの杖だ。持ち主のマナの流れを制御して一点に集中させる力を持つ。魔法を強化するブースターというより、効率よく魔法を使える補助品と言える。

 だが「賢者の杖」の機能はそれだけではない。この杖は魔法石や宝玉をはめ込んで使うことができる。つまりやり方によっては魔法を倍加したり、自分では使えない魔法を使えたりもするのだ。

 持ち主の使い方次第で、いくらでも用途が広がるアイテムである。


 宝箱には他にも、荷物を異空間にしまっておけるマジックポーチや霊薬エリクサー、瞬間移動ができる転移石など、貴重な品がごろごろと詰めこまれていた。福袋と言ったのもあながち間違いではない。


「こんなお宝があったとはな。そりゃあブルードラゴンが守護しているわけだ」

「そりゃそうだね。誰だってこんなすごいもの、盗られたくないもの」


 ほくほく顔のリアノンに、


「ドラゴンに守らせていたなんて、いったい誰なんだろうね?」


 おなじくほくほく顔のアシュリンのひと言に、おれははっとなった。


「どうしたの、ハナル?」

「……いや、まさかな」


 今までのアイテムの隠し場所には守護者がいて、それぞれのアイテムを守っていた。

 それは神さまだったり精霊だったり、いわば守り主がいたわけだが、今回はいなかった。

 するとブルードラゴンは、いったい誰の命令であの場所を守っていたのだろう?



 ◇


 すごそうなものをしこたまゲットしたおれたちだが、正直なところ正確な由緒はわからない。

 せっかくの武器だ。その力を正しく引き出すためにも、おれたちは例によって雑貨屋サリヴァンのところへ向かった。


 予想通り、サリヴァンは目を剥いて驚いてくれた。いやいや、期待通りの反応でおれは嬉しくなる。


「おまえら一体、なんてものを手に入れてきやがった?! これだけあれば一生遊んで暮らせそうなもんばかりだぞ」

「過分のお褒めにあずかって嬉しい限りだが、売り払うつもりはないよ。おれたちだって冒険者の端くれだ。上を目指すのを諦めたわけじゃない」

「それもそうだな」


 サリヴァンはカウンターの上に並べた武具のひとつを手に取って、


「これなんか、もしかしてゲイ・ボルグの槍じゃねえのか?」

「まじか?!」

「いや、冗談だ」

「ばかやろう」


 今、そういう冗談は寿命が縮む。


「だが、ゲイ・ボルグと言って売り出しても充分通用すると思うぞ」


 残念ながらおれたちの仲間に槍遣いはいない。実に残念だ。槍遣いがいたら子供みたいに喜んだに違いない。


「ほかに、ブリューナクにカラドボルグ……」

「ほんとかよ?!」


 カラドボルグと言ったら、あのエクスカリバーの原型とも言われる伝説の聖剣だ。


「……とまではいかないが、この剣は……『フラガラッハ』だな。ひとたび抜けばひとりでに敵を倒し、その傷は癒えることはないといわれている。これまた伝説の聖剣のひとつだよ。いやまったく、すげえもんを手に入れたもんだ」


 そこまで手放しで褒められると鞘から抜くことさえ気後れしてしまう。小者ゆえの哀しさ、本当にこんな逸品を自分のものにしてしまっていいのか、という気になる。というか、あまりに分不相応なチートなんじゃねえの、神さま?


「おれに扱えるかな?」

「大丈夫。ナハルならうまくやれるよ」


 リアノンが笑いかけてくれる。掛け値なしの信頼を寄せてくれるのは嬉しいが、そりゃ買い被りも過ぎるってものだろう。


「そんなことより、この弓は?」


 おれはリアノンの弓をサリヴァンに見せる。


「これは『フェイルノートの弓』じゃないか? やっぱり伝説級の弓だな」


 リアノンは嬉しそうに再び弓を抱き締めた。「必中の弓」と呼ばれる名弓。もう上級者と言ってもいいかも知れない。


「じゃ、この杖は?」

「多分『アスクレピオスの杖』だ。蛇が一匹巻き付いてるだろ」


 なるほど、杖にぐるりと巻き付くように、一匹の蛇の意匠が施されている。


「これは医療のシンボルとされている杖なんだ」

「ふんふん、なるほどね。いかにもアタシらしいわ」


 にこにこ顔のアシュリンだったが、


「でも残念ながら、今はこれじゃ足りないのよね」


 のんびりした口調と違い、物色する眼つきは真剣だった。アシュリンは来るべき戦いを予感しているのかも知れない。

 それはどんな戦いになるかまだわからない。だがもしかしたら、あのブルードラゴンが追いかけてくることだって考えられる。


「もっと攻撃力の高いの、ないかしらね?」

「そうさな。例えばこのダグダの棍棒だが」


 サリヴァンは脇の棍棒を振り上げる。いかにもごつい。トロールくらいなら互角に戦えそうだ。しかもダグダの棍棒にも命にまつわる権能がある。逆さにして振れば、死者をよみがえらせることができると言われている。

 だが今回使うのはアシュリンだ。女の細腕でトロールがぶん回すような棍棒は扱えない。


「いいわよ。じゃ、このふたつを貰うわ」

「どうするんだ? こんな極太の棍棒じゃ振り回せないだろう?」


 おれが訊くとアシュリンはふふんと笑って、


「魔女の腕をなめないでよ。これを合体させて、新しいもん作ってみせるわ」

「「おお~」」


 おれとリアノンは声を揃えて感じ入ってしまった。最近のアシュリンの能力を思えば、本当にやってのけてしまうかも知れない。


 ほかにもいろいろなものがある。どれも売りに出せば途方もない値段がつくのは確実だが、


「せっかくの逸品だ。おまえらが持っとけ」

「いいのか? それじゃ、おまえの儲けがないじゃないか」


 問い返したおれに、サリヴァンはあごひげをなでながら答えた。


「確かに惜しいよ、商売人としてはな。だがこれはおまえらが見つけてきたお宝だ。おまえらのために使え」


 サリヴァンが示してくれた友誼に、思わず胸が熱くなった。この親父はこういう所で義理堅い。


「今は借りとく。必ず返すよ」


 おれが言うと、サリヴァンはにやりと笑って「期待してるぜ」と言った。


 この時、おれたちはまだ気づいていなかった。

 相応の武器を手にするということは、相応の責任を受け持つことになるのだと。




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