あれから
あれから司はすぐに退院することが出来た。しかし女性に対しての殺意は消すことは出来ず、いや正しくは視界に入れたり覚悟を決めて触れる場合は今まで通りに生活が送れるようになった。
まだ出来ないことは不意に触れる時と口に入れるものは拒否反応を出してしまう。
出来ると言った上述のことでさえ、長時間は厳しく殺意を血が滲む程噛み締めて耐える事でやっとというものだ。
「しっかしーすんげえデカい包帯だな。けど固定をしているわけじゃ無いんだな」
「うぐっ!右腕が疼くぜ・・・!」
「解いたら炎でも出るんかね?」
「出たら草原・・・いや森が生えるなこりゃ」
坂木と司はニヒヒと知らない人から見れば軽く引くレベルの笑い方で笑っていた。現にニアとカオルは離れた場所で引き気味に見ていた。
「師匠・・・こわいにゃ」
「関われる時間が減ったせいで余計に感じるようになったのかな?」
松長はそれを見るも特に何かいうこともなく教室を後にしそれを追うニアとカオル。
「まっちゃんはにゃにも思わにゃいの?」
「思って何か出来るわけじゃない」
「ちょっと冷たいんじゃない?」
「あいつの立場に立ってみろ。家族と暮らしたいのに暮らそうと思えば苦しまなきゃいけない。どんだけ辛いか分かるか?」
「だからってまっちゃんが責任に感じる必要はないでしょ。指のやつで責任を取ったわけだし」
拳を握りしめて近くの壁にそれを突きつける。
「まっちゃん・・・・・・」
「普通自我を出すのは家とかだけど、出せない。息を抜くところがないのはなぁ・・・見てて辛いよ」
くそぅ・・・くそぅ・・・と悔しさを滲ませる。
学校が終わると司は坂木とともに会社ではなく、ゲームセンターに通うことも多くなっていた。
「ごめんそっち行ったー逃げれるー?」
「分かった。先落ち譲ってくれりゃそれで良いよ」
2人は筐体に座って顔を合わせることもなく、だが筐体の画面の内容を伝えて状況を変えていく。
「こっちオバヒ吐いて」
「ういー」
言葉を時々言いゲームが終わるとナイスと手をぶつけあった。
「なかなか上手くなったんじゃね司。時間のわりに成長早いと思うぜ」
「坂木が強いだけだろ。おっ良い時間だな」
「仕事だっけか。この時間から始めるとなるとお前いつも何時間寝てんだよ」
「魔剤飲みゃあ幾らでも動けるぜ」
「やっぱ凄えよ司は」
「魔剤がヤバいだけ。んじゃあな」
外が暗くなり人が帰路につく頃に坂木と別れて会社へと向かう。
仕事場に入ると社員たちは荷物をまとめている所だった。
「あっ、主任お疲れ様です。今日の結果まとめておいたんで、確認お願いします」
「サンキューな。問題があれば追記しておくから明日来たら頼むな。本当は直接やったほうがいいのは分かってはいるんだが」
「効率面で言えば悪いかもしれないですけど結果は出てますし、それに今までだって主任が来るの遅かったですから、そんな変わりませんよ」
「そうっすよ。連絡すればちゃんと解答くれるし、この場にいないだけでちゃんとやってるんすから」
部下たちと軽い会釈を交わすと、自分の机に向かって資料に目を通していく。
「空冷式か水冷式かで悩んでたやつカートリッジ式の液冷で纏まったのか。確かにこれなら販売する時本体だけの売り上げ以外も出るな」
資料の中には自称オリジナルが使用していた武装まで記載されていた。ゼロツーたちが伝えたのだろう。そう言えばと司は思い出す。トリシュが奪われる時、自称オリジナルもいたことから木下たちも見ていた可能性がある。にしては内容が細かく書かれている。
「見ただけで性能判断が出来た。それともそれの同機種でも手に入ったか・・・。もしそうなら実物があるはずだ」
その武装の資料には書かれておらず、場所は分からない。そこについても追記しておこうか。
「カードリッジ式のやつを試してみるか」
席を立ちデータ回収用の部屋でその機具を足に取り付ける。その後機具の隣にあった容器に触れた瞬間、殺意が身体全身に走る。
「がっ!!!!!」
容器を落とし司も両膝をつき右腕を抑える。
「消毒・・・されてなかった・・・か」
だが、それが分かれば耐えられる。司は息を整えてまるで緊張している人のようにその容器を手に取り素早く脚部に差し込む。
「がはっ!!!!!はぁはぁはぁはぁ・・・・・・覚悟してもこれだもんなぁ・・・家になんて帰れないよ」
なんとか入れることは出来たが、ひとつひとつの行動でここまで悲鳴を上げているようでは完治とは言えない。
ダメだダメだと自分の頬を叩き喝を入れて立ち上がる。入り口にあるスイッチで状況を指定して足の機具のデータ回収を行い始めた