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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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88◆エルナリア邸からの避難に関するあれこれ2

 私とリーナは亜人達との迷宮探索を切り上げ、まだ皆が寝静まっている頃から制作作業を始めた。

最初に手を付けたのはメイド役が着る服だ。


 敵であるヴァルツァー五爵は間違いなくこの屋敷の情報を持っている為、見た目だけでは見分けが付かない様にほぼ同じ型を再現している。


 これを使用するのは王宮から来る予定の魔法使い達なので、安全性を高めると同時に魔法を使う為の利便性も考える必要がある。

それ故に色々細工はしておきたい所なので、材料自体から作成する事にしていた。


 まず、《魔法付与》を行う際に素材の影響はとても大きい。

魔法物質を多く含む素材の方が、圧倒的に効果は大きくなるからだ。

その為に魔物由来の素材は効果が大きく、当然高価であるのだが……ぶっちゃけ今となっては捕ってくる手間が多少増えるだけなので派手に使う事にしている。


 今回使用するのは、私の迷宮に発生した巨大な蜘蛛系の魔物から採った糸だ。

純白に輝く美しい糸を、これでもかと言わんばかりに用意してあった。


 領主の所で使用されているメイド服は、白い内布に紺色の外布を張り合わせた形となっている。

内布の白い部分は襟や袖先の部分だけが見える構造になっていた。


 外布用に紺色に染める事自体は錬金術で可能だが、今回の場合スパイダーシルクと呼ばれる蜘蛛の糸を使用している為に光沢に相当な違いが出てしまう為、敢えて外布は元から使っている布と同じ物を使用する事にした。

内布だけでも十分な魔法効果を付与出来るとの判断からだ。


 因みに襟や袖先の部分から見える白い布の質感も変わっているのだが、今回使用する土の属性付与を使用すると違和感が無い程度には上手い具合にくすんだ色になってくれたので、ギリギリだが問題は無くなってくれていた。


 そして、その付与する土の属性なのだが、防御力と土の耐性が上がって風に対してもある程度耐性がつく。

これまでは素材の関係と私の好みで《アースシールド》を直接付与する事が多かったのだが、こちらの方が一般に流通している標準的なタイプらしく、直接個別の魔法が付与される事はあまりないと先生から先日教えて貰っていた。


 効果の違いとしては、《アースシールド》の方が純粋なダメージカットが出来る代わりに持久力が無い為、私の魔素を供給する方法でも無い限りはどう考えても属性だけの方が汎用性が高い。


 なので、服自体の付与はそんな感じにするのだが、ポケットの中には《アースシールド》を発生させる魔送石付きの魔法具も別で各自へ一時的に支給する予定。

その支給する魔法具なのだが、もう一つの機能として《危険感知》のスキルも付与する方向だ。

これによって自動的に発動し、即私から魔素の供給を開始する様になっている。

その際には、本人にも感知できるようになる予定だ。


 因みに、《アースシールド》等の魔法は結構簡単なのだが、スキルの付与は結構面倒な仕様となっている。

スキルを反映させる土台となる基本回路を作成し、実際にスキルを使用出来る《付与魔法》使いがそれに対して封入する必要がある。

師匠クレリアさんの《付与魔法》の流派は直接的な攻撃に使用する魔法具は好まない代わり、こういったタイプの物は得意なので大半のスキルが封入可能だった。


 もっとも、得意と言っても結構な手間はかかる。

例えば、私が《危険感知》スキルの封入を安定させるのには、六十八回の試行で二十二個分の素材をゴミにしている。

売り物にする気なら、結構な販売数を見込める物以外はどう考えても大赤字になる可能性が大だ。

それ故、スキルが封入された魔法具はあまり出回らないし、オーダーメイドだとおそろしい金額になってしまうとの事。

まぁ、私の場合は一度確立した封入法は《ショートカット》を使用する事で安定する為、現在ではとても簡単に《危険感知》を封入できる様になっている。


 そういえば、とても便利なスキルなので重宝しているこの《危険感知》なのだが、実の所それほど簡単には手に入らないスキルだという事が判明していた。


 ルークが昔から使っていたし、私も《ウィンドウ》の取得と同時に使えるようになった為、そこまで難しい物だとは思っていなかった。

しかしこのスキルの取得条件は思った以上に厳しく、殆どの取得者は一人で行動して居る時に強敵から与えられる極限の緊張感を克服する事で得られているらしい。

それ故にこのスキルを持つ者は一人で活動する狩人や裏稼業で単独行動する者に多く、集団戦を行う騎士や兵士、冒険者等に持っている人は殆ど居ないとの事。


 その御多分ごたぶんにもれず、今の所この《危険感知》と言うスキルを持っている人が今回の参加メンバーに居ない事が判明して居る為、便利なのと安全面を考えて、今回の作戦に参加する人には任務期間の間は自動発動型の魔法具を渡す事にした訳だ。


 因みに、先に述べた理由によってスキルを封入した魔法具自体があまり無い為に有名ではないらしいのだが、それらの物を使用し続けると装備者が感覚を覚え、上手く行くとそのスキルに目覚めるケースがあるとの事。

となれば、今回の件では短期間でも覚える事が出来るかのテストに丁度良いと思う訳だ。

人数が多いのでサンプルをとるのに都合が良いしね。

正直、結果がちょっと楽しみだ。


 まぁ、取り敢えずそれは置いておいて……と。

私とリーナは用意してあった糸から、内布の襟や袖先等の外部に出る部分だけはメイド服と同じ形状にしながら《魔法付与》と《錬金術》で作り上げていく。

それらが完成した後は、普通は剥がれないのだが《錬金術》を使う事で簡単に分離できる素材を使って外布を貼っていった。


 何故、剥がれる事を意識して作っているのか?

それは、この件が終わった後で、各自が使用していた物を贈呈する方向で考えているからだ。

その為に襟や袖等の外部から見える部分以外はオリジナルと全く違う意匠が施され、シンプルながら結構綺麗な感じになるようにデザインしてある。


 贈呈する理由は支給する当人の体格に合わせてある事も理由の一つではあるが、今回作っている服の価値は流通価格から考えても結構な代物になっている事が大きい。

これは、付与される魔法の強度が封入した魔法や製作者の《魔法付与》や《錬金術》の熟練度に影響される事が大きい。

私の実力は現状で師匠クレリアさんを余裕で抜き、達人レベルと呼ばれる域である熟練度四十台に突入している。


 覚えてから一年足らずでその領域に達する事は当然有り得ない事なのだが、《簒奪の聖眼》による熟練度上昇の補正、有り余る素材、そして何より桁違いに多いMP……これらが揃っている私だからこそ到達出来た事である事は間違いない。


 その能力を容赦なく発揮して作られた魔法具達が相当な価値となるのは当然と言える。

特に今回の品は、土属性を単純に付与した物である為に熟練度の影響をモロに受ける事となっていた。

因みに、王城に居る《付与魔法》持ちは先生が四十台後半、片手で数えられる数人がなんとか四十越え、その他は三十台である事を考えると、私の熟練度の希少性は理解できると思う。


 今回来てくれる宮廷魔道部隊の人達がどの程度の装備を持つのかは不明だが、先生が製作した物で無い限りは同等かそれ以上となるだろう。

そして、MPの関係で先生の付与した装備は月に数個しか作られない為、隊長クラスで持っている人はほとんど居ない。

即ち、まず間違いなく現状より装備の質は上がる人が多い。

それ故、感謝の意味を込めたボーナスとして、十分な価値になると予想している。


 もっとも、現状だと何人来てくれるのかが判らない上、サイズの問題もあるので取り敢えずは私が着れるサイズで十着程作成し、後は実際に来てから作る方向で。

これまでの作業によってスムーズな流れを既に確立していくので、この後に作る分は半分以下の時間で済むはずだ。




 ☆ ☆ ☆



 

 リーナと一緒に制作行程を試行錯誤しながら試していると、


「おはよう。二人共、随分と早くから作業をしているみたいだけど大丈夫?」


そう、ルークが声を掛けてきた。

少し前に部屋に入ってきていたのだが、私達が作業中だったのでひと段落するまで大人しく待っていたのだ。


「必要な分は寝てるから大丈夫。MPは《自動MP回復(極大)》のお陰で二時間かからずに全快するようになってしまっているから問題無いしね」


と、返しておく。

うん、嘘は言ってない。


 私とルークがそう話している最中、リーナがルークの所へにトコトコと寄っていき、


「……おはよう、おじちゃん」


そう言いながら、キュッっと軽く絞める様に抱きついた。


 ……おじちゃんかぁ。

私をママと呼んでいる以上、叔父さん扱いは仕方ないのかな……?

……イヤイヤイヤ!

流石にそれは無い!!!


「リーナ。流石にルークは叔父さんと言うには若すぎるから、今度からはお兄ちゃんと呼ぶ事にしようか」


と、取り敢えずは当たり障りの無さそうな名称を上げておいた。


「……うん、分かった。今度からお兄ちゃんね」


リーナがそう言いながら、再びキュッと抱きついていた。




 ☆ ☆ ☆




 メイド服の残りを片づけて、次に作るのは同じ蜘蛛の糸から作る網にした。

この網は構築している紐が細いのに強靭な対刃性能を誇る優秀な品で、使い捨ての魔素を封入した魔石を使用した《アースシールド》発生魔法具を付けている。

攻撃等の負荷を与えると効果時間は減るのだが、一流と言われる30レベルの六人パーティー相手に最低三分拘束出来る事を目標に作った事もあり、今回の場合でも十分な効果を得られると考えている。


 まぁ、もし蜘蛛の網を抜ける事が出来たとしても、その後には更なる網が待っているだけなんだけどね。

その網とは、老魔術師じじいの迷宮でも活躍した例の金属製の網だ。

こちらはただでさえ硬い素材が《アースシールド》で一時的にだがダメージを吸収してしまう為、抜け出すのに更なる時間を要する。


 この二つは各部屋にセットで設置し、状況によって使い分ける&連続で使用する方向だ。

最近は素材とMPに余裕があるので、時間があるようなら容赦無く大量生産する予定。


 リーナがいるお陰でとんでもない勢いで作成されていく魔法具制作現場をしばらく見ていたルークが、自分の準備があるのでと辞去した。


 リーナと二人になったのでここまでのMPの減りを確認し、オガ吉へ連絡。

すぐにMPが補充が開始され、今回の制作に必要な素材もどんどん追加される予定。

亜人達に同行しているドールを使う事で《アイテム》を使用できる為、時々《侵蝕共有》を使う事で回収する事ができるからだ。


 これは楽で良いね!

そんな事を考えながらも、延々と作成は続く。

私もリーナも単純作業が苦にならない為、作成は本当にいつまでも続いていったのだった……。

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