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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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89◆エルナリア邸からの避難に関するあれこれ3

 私とリーナは黙々と作業を続けている。

先程出て行ったルークの準備の方が少し気になったが、流石にこれ以上口を出すのはどうかと思ってやめておいた。


 何故、これ以上なのかと言えば、今回の件では目的が二つある。

一つはヴァルツァー五爵関係の殲滅。

もう一つが、何故か暴走してルークの命を狙っている第三王女とやらの襲撃を防ぐ事だ。


 ヴァルツァー五爵に関しては、手伝いや派遣されてくる予定の人員に加え、私やリーナ、ゲルボドやミラが対応するから負けは無い……と言うより、ほぼ損害は無いと考えている。


 しかし、第三王女はルーク個人を狙っている為、最悪一人で対処出来なくてはならない。

そこで私が先に多少口を出したのが、《迷宮の虜》達の件だ。


 ルークの《迷宮の虜》達は汎用性に富みながらタフな連中を厳選してある。

あの従魔達を上手く活用出来れば、ルークだけでも王女一人なら遅れをとる事は無い。


 しかし、その王女は様々な魔法具を持ち去り、老魔術師(じじい)を傀儡(かいらい)と化して連れて行っているらしいので用心が必要なのだ。


 そこで色々とアドバイスをして、従魔達にも連携を学ばせたほうが良いとは伝えてある。

今の所、《迷宮の虜》達の実力自体をあまり把握していないだろうから、まずはそれらをしっかり把握してから特徴に合わせた連携を編みだす努力をして貰いたいのだ。


 まぁ、ハッキリ言えば私は過保護なのだろう。

子供の頃からルークの面倒を見てきたという気持ちが強いしね。

それ故、私が気になるからと言ってこれ以上口出しするのは、一人前の男になる為には流石にそろそろ不味い……と言う訳だ。


 ルークは十分に成長しているのだ。

ルークならやれると信じて……私は私の仕事を完成させなければ!

中途半端な物を作ったりして、他が危険に晒されたりしたら本末転倒だしね!!




 ☆ ☆ ☆




 しばらく加工作業を続けていると、マツリから連絡が入った。


『マスター! 現在マスターの迷宮に居ますが、部屋から少し進んだ所で人間三人と魔獣三体のパーティーと遭遇しております。どう対処すれば宜しいでしょうか?』


との事。


 場所は亜人達が暮らしている部屋のすぐ前らしいのだが……あそこは冒険者が入れるような場所では無い。

考えられるのはルークなのだが…………アッ!!


 すぐにマツリの視覚に《侵蝕共有》で同調して確認する。

そこにはルークと五体の従魔が見えた。


 やっぱり!

ルーク配下のゴールドゴーレムのエースとシルバーゴーレムのオシリスには、フルプレートタイプの鎧を装備した上に顔を隠す為にマスクも付けている。

その為にルーク+五体ではなく、三人+三体に見えたのであろう。


 私は即指示を出した。


『総員退避! 向こうは既に戦闘準備を始めているけど、刺激しない様に部屋に戻って! あと、顔を出しているのが私の弟のルークだから覚えておいてね』



 流石にルーク相手は不味い。

亜人部隊は、正直な所ルークの従魔達よりも明らかに強い。

数で負けてはいるが余裕で勝利できるだろう……戦う気は無いけど。

しかし、問題となるのはルーク。

ルークの瞬間火力は、亜人達にとっても恐ろしく危険なのだ。


 ルークは私やゲルボドと自身を比べてしまう傾向があり、自分の評価を低めに考えているがそれは間違いと言える。

《ショートカット》から使用する魔法や技を無詠唱や予備動作無しで連発される恐ろしさを、ルークは当然だと感じてあまり実感出来ていないせいだろう。

確かに敵対してみないと実感出来ないとは思うのだが、本来はパーティーで戦う同レベルの魔物を単独撃破出来る事自体がおかしいのだ。

そこを自覚して欲しいとは思うのだが……私やゲルボドが原因なのでちょっと言いづらい……。


 そんな訳で、ステップ系の移動補助技を使用して後衛位置まで移動し、ゴブ助やマツリを狙われたりしたら流石に不味い。

ゴブ助は単純にHP的に、マツリの場合は蛇系の特性として蛇身の耐久性は高いものの人型である上半身は比較的弱点と言える程度には打たれ弱い……ルーク相手じゃ無ければ普通なんだけどねぇ。




 ☆ ☆ ☆




 まぁ、結果としては無事戦闘は回避できた!

マツリの視覚で見ていたのだが、ルークも深追いせずに用心深く対応していたようなので、私の採点的には十分及第点と言える感じだったかな。

 

 亜人達が部屋の扉を閉めた後でルークが扉を開けようとした気配は感じたのだが、中に居る私達以外はルークを含めて誰が頑張っても開ける事は出来ないので放置しておこう。

開かなければ、その内諦めるだろう。




 ☆ ☆ ☆




 亜人達にはしばらく扉を開けない様に指示し、私とリーナは作業に戻った。

今日の午前中には今回協力してくれる王都の部隊が来る予定なので、防衛用の仕掛けは今のうちに出来るだけ作っておきたい。


 先程ルークと遭遇したオガ吉なのだが、実の所MPに余裕が出来た段階で一時休憩して貰っており、そろそろMP吸収と素材集めを再開しようとした所で遭遇してしまったという訳だ。

即ち、まだ余裕があるとはいえ私のMPがある程度削れており、しばらく扉を開けないという事は今回大量に使っている蜘蛛の素材を追加で確保は断念するしかない。


 立てこもっている側にはリーナの迷宮へのマスター用扉がある為、MPの吸収自体には困らないのでそちらへ移動して貰う事にした。

リーナの迷宮ならルークと会う事も無いしね。


 こうしてMPの供給が再開されたのだが、すぐにマツリから面白い報告がやってきた。


『マスター、隊長の迷宮内で見た事の無い魔物を発見しました。オガ吉の《闇の魔手》が効きません。逆に、触れた部分からMPを吸収されていくそうです。どう致しましょう?』


との事。


 《闇の魔手》が効かないって事は、おそらくだが闇属性攻撃を無効。

そして、闇耐性が高いオガ吉からMPを吸収しているという事も凄い事だ。

面白そうな魔物なので、当然確認しておかなくてはならないだろう!


 すぐにマツリに《侵蝕共有》で視覚を同調して、《識別》により魔物を特定した。


夢幻族:ダークストーカー:男 LV34

特殊情報:《接触吸収》《闇移動》《半実体化》


だ、そうだ。


 ふ~む。

私は文献なんかも含めて見た事が無い種族名だな。


 MPを吸収するのは《接触吸収》かな?

スキルだったら覚えられるかも? と思っていたのだが、残念ながら種族特性っぽいな。


 さて、大体はどんな感じか理解できたので、実際にどうするかを考えるとしましょう。

リーナの迷宮にいるので、《迷宮の虜》を使って貰うかどうかなのだが……《侵蝕共有》の有無で話が全く変わる相手な気がする。

現状は《浸食共有》状態に出来る上限が不明だから、無理に増やしたくはないんだよね。

万一上限があって、リーナが耐えられずに被害を被(こうむ)る状況になったりしたら不味い。

そこは慎重に確認して行く必要があると考えている。


 まぁ結局の所、予想だけでは決められないので、何かの役に立つかどうかは実際に確認してみるしかないだろう。

スキル構成は不明だが、今の所は接触によるMPの吸収以外は行って来ていないとの事。

こちらからの攻撃は、オガ吉の《闇の魔手》によるMP吸収のみ。

となれば、他の属性なんかも試してから考えよう。


 まずは順当に、火で行ってみた。

ダメージ系の魔法や能力では、ダントツで使われる頻度が高いからだ。


 結果!

見た目が人型をした黒い霧(きり)や靄(もや)の様な感じなのだが、着弾した右手部分が消え去っている。

少し様子を見たのだが、再生はしない様だ。


 次に光魔法。

闇属性が高い場合、光にも相応の耐性を持つのがこの世界の仕様だからだ。


 結果!!

左手部分が消滅。

しかもジリジリと消滅が進んでいく。

慌てて消滅が進んでいく部分に火魔法を当てて効果を消し飛ばしたよ……。


 これはあれだな。

種族的に闇を無効化しているのであって、属性耐性では無い様だ!

しかも、下手すると光属性に弱い。


 結論!!!

仲間にはいらないな……。


 と言う訳で、今度は素材的にどうなのかを検証しよう。

闇に強いのは魅力的なのだが、この見た目(め)的(てき)にも普通に倒して素材は手に入りそうもない。

そもそもが《半実体化》している様ではあるのだが、基本的には魔法物質の塊に近い性質なのだ。


 これは……取り敢えず魔石にしてみる方向で良いかな?

魔石に封じた魔法物質は、ある程度その魔物の属性による影響を受ける。

今回の種族的な無効属性も影響する可能性が高い。


 そして、普通はやらないだけで作り方次第では属性や特性自体をそのまま封入できるのだ。

普通やらない理由は、汎用性が無くなる事と加工時の難易度が飛躍的に上がる事、加工する人は内包する属性全てを持っている必要がある事等があげられる。

ぶっちゃけると、目的も無しに属性や特性を残しても使い道が無くなる為、しっかりと目的をもった時以外に作られる事は無いと言う訳だ。


 そんな訳で、過去に私が行った例で言えば、MPの受け渡しに使用している魔石がその典型的なものかな。

あれは闇属性に極端に弱い魔物から作られた魔石と、同じ魔物から得られた素材を使って作ってある。


 まぁ、金銭や素材に困っていない現状、無駄になってもいいから特殊な素材が欲しいと言うのが現在の状況である為、闇耐性が異常に高い事が上手く働いてくれる可能性がある今回の件なら魔石にして色々実験してみるのも良いだろう。

うん、楽しみだね!




 ☆ ☆ ☆




 当然だが、魔石にするなら初見の相手なので原魔石から作る必要がある。

相手が直接見れる状況ならば、原魔石の調整は簡単だ。

《錬金術》スキルを持つと、魔物を見た時に感覚で原魔石作成に必要とする情報がある程度理解できる様になる為、その相手の情報を元にして大雑把に作るだけでいいのだから。

自分の実力に見合った相手と言う制限はあるけどね。


 因みにその情報は街で錬金術師達に集積され、その情報を使う事で実際に見た事が無い錬金術師でも原魔石が製作可能になっていると言う訳だ。

余談だが、原魔石作成に関しては熟練度30を超えると一気に調整が楽になった感じがしたので、その辺りが熟練者となる為のボーダーラインなのだと思う。


 実際に作る場合の手順なのだが、普通は種族に合わせて大まかな属性値を設定してからそれを打ち消す様に調整して作る為、決まった種族しか魔石に出来ない仕様になる。

この作業は魔石の品質安定化と言うか、汎用性のある無属性&無特性に近い形にする事で条件をできるだけ統一しようというものだ。

もっとも、実際にはそれでもある程度は残ってしまう為、同じ魔物の素材と相性が良いという状況が生まれるという訳だ。


 さて、そこで今回の件になる訳だが、私が欲しいのは尖った性質を持つ魔石の方だ。

思いっきり設定した条件のままで、打ち消し方向の処理はせずにサックリと作り、私とリーナは《侵蝕共有》ではなく、本体のまま現場へ向かった。


 現場に着くとダークストーカーは近くに敵がいると判断している為に延々とオガ吉に攻撃している様なのだが、残念ながら全く当たらずにその攻撃は空を切り続けていた。

まぁ、基本的な能力が違いすぎるので当然か。


 そんな訳で原魔石に魔法物質を吸収する事にした訳だが、普通は倒した後に死体から吸収する。

しかし、こいつは……死=消滅な気がしてならない。

ここは安全策で行こう。




 ☆ ☆ ☆




 少し時間がかかったが、魔石は完成した。

やり方は単純で、私が半実体化しているダークストーカーの黒い魔法物質内部に原魔石を持ったまま手を突っ込んでいたのだ。

迷宮の主であるリーナが現場へ到着した為、攻撃をしてこなくなったので簡単に実行できた。


 ただ、MPの吸収はどうやら自動発動らしく、手を突っこんだままだとずっとMPが吸収されていた。

その際に判ったのだが、これはMPだけじゃなくてHPなんかも吸い取る能力っぽいな。

最初の方はHPも吸われたから間違いないだろう。


 まぁ、魔石にしてしまうと耐性や一部の特殊な物以外の特殊能力なんかは消えてしまうので、惜しいなぁと思いつつも気にしない事にする。


 そして、面白いのはこのダークストーカーと言う魔物の現状だ。

魔石を作成したにもかかわらず、現在は全て完治しています。

先程の実験で与えた両腕の欠損も含めてだ。


 理由は簡単で、原魔石に吸収される魔法物質よりも多い魔素を私から吸収していたからだ。

これ、この一体で魔石製造の永久機関になるよね?


 そんな訳で方針変更、リーナに《迷宮の虜》状態にして貰う事にした。

ハッキリ言えば、他の魔物に狩られないようにする保護の目的だ。

迷宮外へ従魔として連れ出す可能性は低いが、この魔石から役に立つ品が出来た場合はお世話になる為、気がついたら居なくなっていたという可能性を回避する為だ。


 ぶっちゃけ家畜の様な扱いなのだが、今後は割り切ってそういう扱いの魔物を増やす方向でも良いだろう。

何となく仲間意識を持ってしまう可能性を気にして今までは出来るだけしてこなかったが、元々迷宮を食糧庫や素材庫扱いはしていたのだ、客観的に見れば今更だろうしね。


 さて、面白そうな素材が手に入ったので試して見たいが今は我慢だ!

まずは対ヴァルツァー五爵に集中した製作作業を再開するとしよう。

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