幕間一の2◆亜人1(ゴブ助)
オレはゴブスケ。
マスターや隊長からはそう呼ばれている。
オレは正直な所、ただでさえ弱いゴブリンの中でも特に身体が貧相だ。
しかし、生まれた時から魔法が使えたらしく、お陰で死ななかったのは幸運だったのだろう。
同じ種族の仲間……もっとも、今一緒に居る仲間達とは違う、生きる為に行動を共にするだけの仲間達。
その中からマスターはオレを選んだ。
「ゴブリンなのに魔法を使えるなんて珍しいわね」
そう言っていた。
もっとも、当時は言っている意味が判らなかったが。
オレにも魔法が使える理由はわからない。
魔法の制御に使う呪文も最初から知っていた。
隊長が言うには魔法を使えるようになると自然に理解させられるらしいので、魔法が使えるようになった時に覚えたのだろうとは思う。
現在、オレは隊長の指示でコンロのMPを維持する係に任命されている。
「……ゴブ助、魔法の威力は小さいけど……MPは意外と多い。ママが置いていったコンロの管理はゴブ助の仕事にするね」
そう言われ、オレは時間に余裕がある時にはMPをコンロという魔法具に付けられている魔石に貯めて、清掃や管理をしている。
隊長はオレ達亜人とは違う種族なのだが、マスターが居ない時は俺達の指揮を執り、立派に成長出来る様に教育してくれている。
まだまだまともに声を出す事は出来ないが、隊長がオレ達に触れながら教えてくれるとすぐに覚える事が出来たし、色々な事を学ぶのは楽しかった。
☆ ☆ ☆
現在、マスターが色々置いていった品々を整理しながら、用途によって配置しているところだ。
「……ミノ太、それこっち」
オレも含めて、全員が話を大体は理解できるようになっていた。
隊長も声に出して話をする練習がしたいという事で、現在の指示は声が基本になっている。
「たいちょ~、これは~?」
この、若干間延びした声はラミアのマツリだ。
現在、亜人の中でまともに声を出せるのはマツリだけしかいない。
その他の三体の場合……、
「ヴォレガルレオケヂュ、ダルゲリヴァルト?」
……うむ、オガキチよ……。
何言ってるのか全くわからない。
まぁオレも同じなのだが。
ただし、そのマツリにしてもまだまだだと言える。
何故なら、直接触れながら意志の疎通を行う接触伝達方法の場合、
『隊長、これはどう致しましょう?』
と言うのが本来のマツリの話し方なのだ。
現在の間延びした……隊長曰く、
「……マツリ、まだまだネジが緩い喋り方。もっと頑張る」
と言う状態で、まだまだなのだそうだ。
ネジと言うのがよく判らないが……緩いと駄目らしい事は分かった。
片付けを進めながら軽く説明を受けた品々は、とても便利な物が多かった。
問題は、半数がMPの供給を必要とする為、オレだけでは全て使う事は不可能な事だ。
しかし、結果はそうならなかった。
「……これと、あれと、それは私がMPを供給する。それはオガ吉、よろしく」
という隊長の決定。
隊長はそんなに多くても大丈夫なのかと疑問に思ったが、
「……大丈夫、ママのスキルに《自動MP回復》と《闇魔法:スティールMP》がある。熟練度自体もママから受け継いでいるから十分に役に立つ」
との事。
後はオガキチなのだが、特殊能力に珍しい物があるらしく、
「……オガ吉には《闇の魔手》という特殊能力がある。これは触れた相手からMPを吸収する闇属性攻撃」
というものらしい。
現在は手で触れた対象にしか効果は無いが、後に《闇の衣》という全身に効果があるものに変わるのだとか。
因みに、ブラックオーガの個体能力との事。
何故種族能力では無く、個体能力なのかには理由があるようだ。
オーガ族の名称には、属性に影響を受けた身体の色がそのまま冠せられる。
しかし、この属性は遺伝では無いのだ。
即ち、ブラックオーガ族と言うものがある訳では無く、オーガ族の特定の個体がブラックオーガという訳だ。
割合で言えば、ほぼ六割が無属性。
水と土属性を持つグリーン、水と風属性を持つブルー、火と光属性を持つレッド、水と光属性を持つホワイト……これらがほぼ一割づつ。
因みに、色と属性の関係に若干の違和感があるらしいが、これらは身体の色から来ているので気にしても意味が無い。
さて、先に述べた種類でほぼ十割になっている訳だが、要はそれ位の頻度でしか他の色は現れないらしい。
そして、ブラックオーガの属性は闇と光。
どう考えても相反する属性に感じるが、闇を自在に操る者であるが故に光にも精通する事で、より闇を濃くする事が出来るのだとか。
《闇の魔手》に関しては、隊長が使う《スティールMP》という闇魔法とあまり変わらない効果をほぼコスト無しで使える事は確かに有効だろう。
しかし、多くの物には利点もあれば欠点もある。
今回の場合、相手に触れる必要がある事がそれだ。
敵に触れる程の距離となると、当然だが常時危険が伴う事になる。
オーガは比較的敏捷性に欠ける為、当たれば強いが素早い敵に弱い傾向がある。
「……そこは重点的に改善させる」
との隊長の御言葉も頂いている程だ。
現在オレ達が行っている訓練のメニューは、
オレ……《光魔法》の習得と《火魔法》の熟練度上げに加えて全般的な肉体強化
ミノタ……《土魔法》の習得と敏捷性向上をメインとした肉体改造
オガキチ……《風魔法》の習得と敏捷性向上をメインにした肉体改造
マツリ……《水魔法》の習得と弓スキルの鍛錬
隊長……マスターの能力やスキルから、自分に合ったものを選別して感覚を馴染ませる
となっている。
当然、これらと知識を学ぶ勉強を休憩を挟みながら交互に行う。
魔法の習得に関して言えば、基本的にはすんなりとスキルは得られる。
これは、隊長から使用する感覚自体を伝達して貰える為、何回か挑戦するだけで習得する事が出来るお陰だ。
ただし、問題は実際に使う事が大変な事だった。
何というか……感覚は判るのだが上手くそこへ到達できないもどかしい感じのまま発動に失敗するのだ。
「……それでも、一から自分で感覚を掴むよりずっと早く覚えられる」
との隊長からの指示により、皆で頑張っている。
因みに、オレが一番上手く扱えている事は言うまでもないが、次がマツリだ。
オガキチは風魔法を発動させようとしているのに《闇の魔手》を出してる事を考えると、同じ様な感覚で操る物なのかもしれない。
ミノタは……まぁ、頑張れ。
☆ ☆ ☆
マスターが帰って来た。
隊長が歩み寄り、
「……ママ。お帰りなさい……」
そう言ってマスターに抱きついている。
ミノタは当番で狩りに出ているが、残りの三体で整列して立っている。
規律を守る事は部隊には必要なので、マスターが居る時にはこうする事になって居た。
その代わり、隊長にはそこまで畏まった対応はいらない事になって居る。
隊長はマスターが来てくれてとても嬉しいのだろう。
オレ達に教育してくれる時とは違って、とても甘えた雰囲気を纏っている。
今も、字の練習に書いた物を見せて自慢げにしていた。
マスターも、それを見て驚きを隠そうともしていない様だ。
しばらくマスターは隊長と話をしながらもオレ達の様子を見ていた。
特に何の注意も無い所を見ると、一応は及第点が貰えているのだろう。
「リーナ。ママは今度来るまで少し時間が開くと思うの。みんなとお留守番できる?」
「……うん、ママ。リーナ、いい子にしてるね……」
マスターがそう言うと、寂しそうな表情は隠しきれていないが……隊長がそう言った。
「それじゃ、みんなの事宜しくね」
隊長に対してマスターがそう続け、オレ達にも一緒に頑張ってね……と言って頂けた。
マスターに声を掛けて頂いたので、オレ達は全員で頭を下げる。
敬礼をするべきかを一瞬悩んだが、命令では無い様なのでこちらを選んだ。
全員同じ行動をとっているので間違いでは無かった様だ。
マスターは暫く来れないらしい。
だが、この機会はオレ達がやれば出来る所を見せられるチャンスだ。
隊長も同じ考えらしく、
「……ママが今度来てくれるまで、更に厳しくいくね」
と言っている。
勿論、望む所だ。
マスターから頂いた腕輪からは、先程までより多くの力が流れ込んでいる気がする。
これはマツリも感じているらしく、オレの勘違いでは無さそうだ。
おそらく、マスターがオレ達に更なる力を与えてくれているのだろう。
その期待に応える為、オレも頑張ろうと思う。




