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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
幕間一
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幕間一の3◆亜人2(オガ吉)

 自分の名前はオガキチ。

マスターより頂いた、大切な名前であります。


 現在、自分は訓練の最中です。

内容は短い距離を全力で走る事であり、瞬発力を伸ばす訓練となっております。

この方向性に関しては、


「……オガ吉の役割は遊撃。それに加えて、相手の数が多い時には後衛に向かわせない為の障害物になる必要がある。その為には相手を翻弄するスピードが重要」


という、隊長の方針による物です。


 本来、自分の種族に多い戦い方としては、パワー型の格闘戦を好む傾向があります。

しかし、


「……当たらない相手には全く歯が立たない。ママは以前、同じレベルのグリーンオーガ相手に完封した事もある。後、遊撃にスピードは重要」


と言われ、更にこの方針は基本的に部隊全てに適用されています。


 スピード重視の訓練を始めて感じた事は、恐ろしい速度で身体が作り変えられている感覚でした。

正直な所、この感覚は自分の少ない表現力では表す事が出来ないものです。


 ここに居る、隊長を含む全員がマスターから送られてくる魔素の恩恵で身体が急速に変化しているらしく、自分の場合は腕の太さが半分になりました。

こう言うと弱くなった感じを受けると思いますが、逆に二倍の重さを持てるようになっています。

即ち、シャープな動きに加えて、恐ろしい程の破壊力も手に入れているのです。


 この異常な程の変化は全員に見られ、ミノタは筋肉が五割増しで肉の壁として恐ろしいパワーアップをしていながらも、全体的なスピードが五割程上昇しています。

ミノタの役割はパーティーの剣にして盾役なので、破壊力&耐久力と敏捷性を両立した結果がこの状態のようです。


 ゴブスケは元々使用出来た《火魔法》の威力が元の十倍まで跳ね上がり、《光魔法》を習得すると同時に肉体も既にゴブリンの域を超えた強靭さを得ています。

元々が弱すぎると言われていた《火魔法》も流石に十倍というのは凄まじい威力であり、本気で撃った最大火力の魔法でレベル35の魔物が一撃死しました。


 マツリは蛇の下半身の強化が進み、敏捷性や耐久性が共に高く、上半身の弱さをカバーして余りある強さを身に付けつつあります。

装備も面白いと言える改良を加え、後衛としての役割を立派に果たしながらも十分な能力を発揮しています。


 その改良された装備とは、ミノタや自分が使う為にマスターが置いていったと思われる強弓を使用した物です。

蛇の下半身の境目付近に強靭なベルトを巻き、そこに多少の遊びを持たせた強弓を取り付け、尻尾の先で矢と弦を器用に引き、放っています。

あまり力が強くない人型の手は方向の調整にだけ使う事で、本来の非力さを補っている点に関しては見事と言えるでしょう。


 隊長は始めから自分らとは格の違う強さを持っていましたが、


「……私の強さはママの模造品。このままじゃ駄目。ママに私を必要だと思って貰う為には……独自で理想的な進化を遂げる必要がある……」


と言って、日夜努力を惜しまずに試行錯誤していらっしゃいます。

その弛(たゆ)まぬ努力が実を結び、マスターに満足して頂けるように……私も共に努力して行きたい所存です。




 ☆ ☆ ☆




 前回マスターがお越しになってから五回の睡眠を取って居る事から、五日程度が経過していると思われます。

正直な所、自分達は迷宮で生まれ、一度も太陽や月といった物を見ていません。

隊長から教えて頂いた知識だけなのです。

隊長は時間が正確に分かるとの事なので日数の感覚もある様ですが、正直な所……自分には何となくと言う感じでしかありません。


 さて、この期間が短いのか長いのかは自分の認識では良く判らないのですが、急激な肉体改造もそろそろ落ち着いて来ております。

しかも、この期間に頑張って会話の練習を行った結果、遂に全員が人に聞かせられる程度には声が出せるようになりました。


「……みんな、頑張った。ママにもこれだけ話せる様になれば、褒めて貰えると思う」


隊長からもこの様に認められ、一安心出来ました。

まだまだこれからも練習と更なる勉強が必要だとは思いますが、頑張って行きたいと思います。




 ☆ ☆ ☆




 自分が練習している《風魔法》も、ようやく実用レベルまで到達出来ました。

もっとも、まだまだ熟練度というものが低いらしく、使用できる魔法の数は少ないのですが。


 正直な所、この《風魔法》の習得には結構苦労しました。

自分の持つ特殊能力である、《闇の魔手》との発動時における感覚の違いが中々掴めなかったのです。

その為、マツリだけでなくミノタにすら後れを取って居ましたが、感覚が掴めてからは《闇の魔手》でMPを吸収しながら練習を続ける事でようやく追いつきました。


 因みに、マスターや隊長が使用するという《フルブースト》には到底及びませんが、《風魔法》の《ウィンドブースト》を使用した敏捷度上昇を魔素で維持する事は出来る様になりました。

この状態なら、ミノタを何とか翻弄する位までは到達しており、隊長からも及第点を頂いております。


 一応付け加えておきますと、隊長には四体全員でも勝てて居ません。

まだまだこれからも……精進あるのみです。


「……四人でも勝てないのは魔素の供給量が少ない事が大きい。前回ママが来た時にも少し供給量を増やしてくれていた。今の実力を見て貰えれば、次回にはもっと増やしても大丈夫だと判断して貰えると思う」


それでも隊長による評価は悪くないらしく、この様なお言葉を頂いてはいました。

有難い事です。




 ☆ ☆ ☆




 隊長の睡眠にあわせて寝ている為、おそらく翌日になっているはずですが、眼を覚ますと隊長の姿が人型では無くなって居ました。

隊長の現在における種族名は粘人族であり、《形状変化》の能力で元のカオススライム形態にもなれる事は勿論知っております。


 ただ、現在まででこの形態になった事は二回だけです。

様々なスキルの確認をしている最中に腕と脚が切断された事があり、修復する為にはカオススライム形態だとすぐに治ると言う事で変化して居ました。


 しかし、今回は特に何も聞かされていない状態での変化であり、修復して居た時よりも明らかに長い時間が経過しているのも関わらず、カオススライム形態から戻らないのです。


 隊長に触れ、呼びかけてもみましたが返答がありません。

魔素の流れには異常が無く、消費もされているので活動に支障をきたしている感じでは無い様です。


「隊長……大丈夫なのでしょうか?」


マツリが心配そうに全員の顔を見渡しました。


「オレの予想では、問題無いと思う。いつもより魔素の消費が激しいが流れに異常な感じは受けない」


ゴブスケは元から魔法が使えただけに魔法物質の流れをこの中では一番感じる事ができ、濃密な魔法物質である魔素の動きならばハッキリと理解できるようです。


「俺、よくわからない」


うむ……ミノタ。

もう少し頑張ろう。




 ☆ ☆ ☆




 正確な時間経過は不明ではありますが、それまでの流れに従って食事の時間と睡眠の時間を普通通りに行いました。

マツリだけは隊長に付きっきりで居ましたが、自分達は予定された時間毎に各自で訓練を継続しています。


 おそらくこの状態で半日は過ぎているはずなのですが……いまだに変化はありません。

隊長は自分達よりも完全に上位の存在となっているので、大丈夫だとは思うのですが……やはり心配ではあります。

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