65◆ゴーレム作成の続き&亜人での実験開始と私の油断
朝が来た。
実家に戻ってからは恒例となっているルナと一緒の寝具なので、浅くなった眠りの為にモゾモゾと寝返りをうつ小さな存在が隣で蠢いている。
朝に強くなったとはいえ、私の方が早く起きるのは珍しかった。
完全に寝具の中に埋もれているので、ゆっくりと中を覗き込んでみる。
その際に触れた外気の為だろうか?
何らかの変化を受けてルナの瞳がパッチリと開いた。
「おはよう、ルナ」
「おはよう! お姉ちゃん!」
今日もルナは朝から元気そうだ。
☆ ☆ ☆
恒例の魔送石を作成し、昨日の続きでゴーレム作りを再開する。
昨日は小型ゴーレム全てと、大型ゴーレムの上半身を三体作成で終了しているので残りを作っていく。
小型なら一回の簡易錬金窯に入るのだが、大型の方は大きすぎて無理な為に数回に分けて作成していく必要がある。
元々の素材がゴーレムである為に、加工自体は容易に出来た。
素材同士も簡単に融合するので、回数が分かれても品質や強度に影響は無い。
しかし、素材の量だけで小型の九倍も使用しているだけに、手間も消費MPも相当厳しいのだ。
結論から言って、今日中に全て完成は無理だと判断した。
大型は一日二体が限度だな、これは。
☆ ☆ ☆
本日も昼前位にMPの大半を消費しているが、この段階で大型が三体完成している。
最後となる予定の四体目に着手してもどうせ完成しないので、残りのMPは師匠に手伝って貰って起動の方をしておく事にした。
先程師匠には声を掛けておいたので、そろそろ来るはずだ。
まずは小型の方を順次起動させていく予定なので、そちらの準備を行っていると師匠が現れた。
「小さい方は昨日少し見たけど、この大きい方は何というか……独特なフォルムをしたゴーレムね」
大型を見た師匠が、そう感想を漏らした。
まぁ……普通のゴーレムと違い、戦車を基本としてキャタピラの代わりに多脚を取り付け、人型の上半身をケンタウロスの様に乗っけた姿をしている。
こちらの世界には無い発想を使用しているので、異質に感じるのは当然と言えた。
消費量が少ないとはいえ、師匠のMPの限界までは小型十体が限度だったので今日はここまでで。
また明日も宜しくとお願いして、本日の作成は終わった。
☆ ☆ ☆
この後の予定は、ジムルの家から王都へ移動する方向で考えている。
ルークに二つ目の迷宮を作らせるには、まずは《迷宮創造》の熟練度を上げる必要がある。
その為に魔送石をルークの迷宮に設置し、取り敢えず二つ目が作れるようにするのだ。
結果、魔送石の設置をするのに一度会っておく必要がある。
魔送石だけ送れば良いというのが理想だったが、残念ながら設置時にも少しだけだが《魔法付与》を使用しながらの作業が必要な為、ルークの手には負えないので直接行く事にした。
まずは、こちらで様子を見る物を確認してから移動かな。
☆ ☆ ☆
移動をする前に、まずは移動迷宮の最下層を確認した。
順調に亜人が増えて種類も豊富になる一方、魔獣は殆ど駆逐されている。
近いうちにとある実験をする予定だったが……不味い! 我慢出来なくなってきました!!
……折角なのでやる気になった時にやってしまおう! うん!!
と、いう訳で実行します。
さて、やりたい事というのは……魔法物質蓄積型の魔物に魔素を供給したらどうなるのか? という事である。
何故このような事をするのかと言えば、私以外の人間に対して魔素の供給と活用が出来るかを調べるテストの前段階だ。
人間でいきなり行うのは危険なので、多少は形状が人間に近くて、魔法物質に耐性がある亜人で実験しておきたいという話である。
使用している分も含めて現在魔送石は六個。
毎日作成しているお陰ですぐに増えるので、一時的に全て使ってもいいかな。
それでは早速、亜人達を選んでいくとしましょうか。
☆ ☆ ☆
取り敢えず、実験の為に必要な個体を選ぶのだが、出来るだけ色々なバリエーションを揃えようと思う。
まず興味を引いたのは、二匹のミノタウロスだった。
斧を持った奴と、素手に見える奴だ。
体力があるのが居た方が良いので、どっちかを連れて行こう。
選ぶのは……素手っぽい奴の方だな。
こいつは面白そうだ。
素手に見えるが、実際の戦い方は飛び道具と暗器の様だ。
私の前世の記憶にある牛とは種類が違うのだろう、かなり毛が長い。
その毛の中に角か何かから削りだした投げナイフや、魔物の骨をすり潰した粉が入った袋が隠されている。
腕には魔獣の鉤爪を加工した暗器が飛び出す仕掛けがあり、足の蹄には痺れ薬が塗られた針まで仕込んでいた。
亜人って、ここまで頭がいい奴も居るの……?
そう疑問に感じたが、まぁいいや。
サクッと《迷宮の虜》で使役する。
こいつの名前はミノ太でいいや。
次に居たのはゴブリンだった。
ハイゴブリンですらない、ただのゴブリンかぁ。
まぁ、肉体的に弱い種族も試しておいた方が良いかな。
そう思って十二匹居る中から面白そうな個体を探す。
……居た!
こいつは面白いかもしれない。
ゴブリンはあまり魔法を使わない。
ハッキリ言えば、頭が悪いから使えないのだ。
しかし、凄い貧相な体型をしたゴブリンが一体いるが、こいつは魔法使いのようだ。
はい、使役。
名前は……ゴブ助。
次に私の餌食となったのはブラックオーガと言う、オーガの中でも珍しい奴だ。
オーガは属性を持ちやすい種族だが、闇属性持ちは人間と同じで滅多に現れないらしい。
面白そうだから使役する。
そうだなぁ、オガ吉でいいや。
もう一体、行っておくか。
そうして見つけたのがラミアだった。
五体居る。
結構、見た目年齢に差があるなぁ。
ちょっとおばさんっぽい奴。
髪がストレートロングの微笑み美人。
美人だけど冷酷そうなタイプ。
ボーイッシュな元気少女風。
どこのアマゾネス? と突っ込みたくなる筋肉女。
ここは……微笑み美人さん、宜しく。
名前は……マツリでいいや。
由来は敢えて言うまい。
☆ ☆ ☆
さて、面子は揃ったので、足りない分の魔送石を移動迷宮から回収した。
長さを調節しながら用意してあった魔法具を装着させる。
私の腕輪から魔素を流せる出口用の魔法具だ。
私の方を作り直して複数の出口に対応させてある。
シルバーゴーレムの素材が優秀で、それを使用したお陰で小型化も出来ていた。
全員に装備させ、少しづつ魔素を送り込んでみた。
亜人は元々が身体に魔法物質を貯め込む魔物なので、ある程度は大丈夫だろうが無理はしない程度にしておく。
実験とは言え、折角仲間にしたのに使い捨てにして次々というのは好きでは無い。
どうせなら、この面子のまま強くなっていって欲しい物だ。
さて、この作業が終わった段階で一つ思い出した事がある。
私達が倒し、《アイテム》に入れてある、とある生物? の存在。
強敵とは呼びたくないレベルで嫌がらせな敵だった、カオススライムだ。
ここは私の迷宮だ。
ここならば、私の《迷宮の虜》が効くんじゃないのか?
そう思いついてしまった。
もし駄目ならば、再び昏倒させて《アイテム》行きにすればいい。
あの無敵の能力の謎を解明したい。
そして、それが有効活用出来るとしたら最高だ。
もし魔法具に込められるのなら、戦闘がどれ程有利になる事だろう。
その誘惑に耐えられ……いや、耐える気は無かった。
《アイテム》から【活動停止中のカオススライム】を出した。
少し様子を見る。
相変わらず外側は黒っぽい半透明の寒天だ。
中で動いていたカオスな色の部分は現在停止している。
チョットだけ……棒でつついてみる。
反応なし。
指先で少しだけ触れる。
……MPと魔素が少しだけ吸われた気がした。
その段階になって、急に《危険感知》が働いたので慌てて手を離す。
しかし遅かった!
食虫植物にありそうな形に表面を変化させ、私の手を咥えこんだ。
次の瞬間……私の手首から先が消えていた……。
……う~む。
本当に綺麗さっぱり消えてしまった。
切り口であるはずの場所には傷跡はなく、滑らかな皮膚で覆われた状態だ。
しかし、手首から先は完全になくなっているのだ。
まぁ、こうなったらどっちにしても再生させないといけないので、切り口でもう一度触れてみる。
反応が無い……。
流石に反対の手まで出して確かめる気は無いので、おそらくさっきの分で満足したのだろうと納得しておく。
さて、現状としては、カオススライムが活動状態になって居る。
内部のカオスな感じも復活している。
そうなると、ここでまず試すべき事……それは当然《迷宮の虜》だろう。
効かないなら、即《アイテム》へ逆戻りだ。
結果として、《迷宮の虜》は効いた。
《迷宮の主》による配下の確認でもしっかりと使役して居る事になって居る。
まずは一安心か。
取り敢えず、ちょっとしたアクシデントはあったが結果オーライって事で……。
まぁ、あれだ……不用意だった事は認める!
しかし、手の事は気にしちゃ駄目だ!!
そう自分に言い聞かせておく。
どうせ王都には戻るし、私はまだ《快癒》が使えないから手の事はゲルボドに治してもらう。
……ルークには内緒でね!




