61◆思ったよりも実家の付近は面倒なエリアだった様です……
道中は特に何もなかった。
まぁ、当然か。
ルークと一緒にエルナリアの街へ行った時の事が……すでに懐かしく感じた。
村へ着いたらいくつかやる事はあるが、まずは迷宮を作る事から始める予定でいた。
その前に確認しておく事として、村周辺の魔法物質濃度と低下を始める場所の特定だ。
村に居た頃や、村から出た時には魔法が使えなかった。
その為、魔素が扱えるので魔法物質があるのは分かるのだが、その濃度の差などは実感出来ない状態だった。
魔法が扱えるようになってからは、その濃度差を鋭敏に感じる事が出来るようになっている。
それ故、この濃度差の境目を探し、エリアを特定してしまえば原因の場所が大体判明するはずだ。
☆ ☆ ☆
人とすれ違う事も無く、ようやく魔法物質が低下する境界線へ到着した。
本当に、面白いようにクッキリと差が分かった。
ここを基本のポイントとして、座標で位置を把握する事にする。
この魔法はゲルボドの使用する魔法、《魔術師魔法(異世界)》の中に存在した。
呪文名はそのまま《座標》といい、基本のポイント設定時に一ブロックの大きさを一m~十mで任意に決められる。
数字が膨大になる事を除けば、結構な遠くまで座標で示せるので便利なのだとか。
効果時間が一時間。
最下級の呪文なので私でも一日に六回は使えるから十分実用的な呪文だ。
直径で最大二十kmを記載する可能性もあるので、それなりに大きな紙を移動迷宮に用意した。
座標をメモしながら境界線に沿って移動し、特徴的な山や森林等を見つけると移動迷宮を呼んで地図に描き込んでいく。
まずは一時間が経過し、その後をどうするか悩んだが……このまま魔法回数が尽きるまで境界線を調べる事にした。
理由は、二つの迷宮に魔送石を常時設置した為、今までとは迷宮獲得ゲージの上昇速度が明らかに違って居る。
その上昇を見る限り、後一日程度でゲージがマックスになると予想された。
それなら……ここまで成長させた移動迷宮を破棄するのはどうなのか? と、チョット悩んでしまったのだ。
悩むなら、一日位待とう。
それが最終的な結論となった。
☆ ☆ ☆
結局、六時間程走り回った結果……この魔法物質低下範囲がおかしい事という事が分かった……。
グルリと円を描くように移動していたのだが、突然その方向が約90度変わる事があるのだ。
そこからは再び円を描く様に緩やかに弧を描いて居た……。
座標から割り出される、魔法物質低下エリアの一番長い距離は四十kmあった。
結論としては、これ……四つの円で構成されてない……?
これは……予想以上に面倒な可能性が出て来た……。
《座標》の魔法が尽きたので、そこからは村へ向かって移動する。
街道の基点から自分の移動した位置関係がわかるので、確実に街道に合流できる方向へ向かって走ったのだが、流石に村に着く前に夜が来たので移動迷宮を呼んで師匠の工房へ戻った。
因みにロウとクーは、現在ジムルの所で昼に仕事の手伝い、夜は移動迷宮に置いてある小屋で暮らしている。
私は迷宮に行っても魔素の放出の為に第二迷宮の方へ行く事が多かったので、一緒に過ごすのは精々食事時位となって居た。
それすらもエルナリアの街へ着いた辺りからは私が師匠の所に行く事が多くなったので、現在は食事もジムルの所で四人で作って食べている。
食材は私が適当に冷蔵用魔法具に突っ込んで行くので、最近は結構色々と今まで食べた事が無い物を作って居るとの事。
因みに、レシピは私が前世の物やミルロード邸で教えて貰った物を図解して置いて来てある。
ロウは字が読めるので何とかなっている様だ。
☆ ☆ ☆
翌日も朝から魔送石を作成してから、昨日の続きで村に向かって移動した。
この際にも《座標》の魔法を使用し、魔法物質低下エリア内の情報も記載して行く。
少し移動して、円が重複していると思われる部分に着いた。
魔法物質濃度は……多分一割程度だろう。
明らかに三割よりも低い……。
何故こんな事になっているのかは不明だが、村周辺には四つの迷宮か、それと同等の魔法物質を消費する何かが存在するようだ。
まさかの結果ではあったが、いずれは円の中心部を探索しなくてはならない事には変わりは無い。
機会を作って近いうちに調べよう。
☆ ☆ ☆
しばらく移動して、私は久しぶりに故郷の村へ戻った。
村の様子はほぼ変わって居ない。
まぁ、私が出て行ってから一年も経っていないのだから当たり前か。
見知った道を通り、家へと真っすぐに向かう。
勿論、例の不審者姿では無く顔を出して歩いている為、何度か村人と会って挨拶しながら帰路についた。
「ただいま! 母さん、ルナ!」
家に帰ると父さんは居なかったが母さんは家事をしており、ルナがその手伝いをしていた。
「あら、お帰りなさい」
「おかえり! お姉ちゃん!」
私の方へ振り返った二人はそう返してくれた。
因みに、母さんには帰る事は知らせてあった。
母さんだけは《通話》で会話する事が出来るので、月に一~二回は話をしている。
母さんは《ウィンドウ》の操作が苦手なので、基本的に私とルークの方から連絡を入れていた。
久しぶりにあったルナは別れた時よりも栄養状態も良いせいか、すくすくと順調に育っている様だ。
母さんへは《アイテム》経由でいくらでも食材を供給出来るのだが、流石にその事が他の村人に知られるのは問題が起きる可能性もある為、余程の飢饉にでもならない限りはひっそりと使用する事にしている。
食べ過ぎて太る事もバレる原因になる為、あまり食べ過ぎない様にとは言ってあった。
どうやら母さんはその点をしっかり守ってくれているようだ。
さて、私としては迷宮をすぐに作成してしまいたいのだが、実に惜しい事に第三迷宮作成可能まであとほんのチョットだけ時間がかかる様だ。
そこで、まずはやれる事をやってしまう為にルナにお土産を渡してから村長宅へ移動した。
☆ ☆ ☆
村長宅へ来た理由は、ロウについての事がメインだ。
ロウには迷宮の入口を管理して貰う事と、領主と私が相談して決めた事を村へと伝える役割を担って貰う事になる。
私が直接色々やるのは避けたいので領主に一筆書いて貰い、ロウを派遣された領主の部下扱いで村の改革を行う。
実際には私が様々な魔法具を作成したり、ゴーレムを作成して労働力として使う予定だ。
これから作る迷宮から得られる素材や食材の管理も任せる事になるので、ロウには村人とは仲良くやって貰う必要がある。
まずは村長に事前の情報として知らせ、数日遅れで来るので宜しくお願いしたいと伝えた。
村長は突然の話に戸惑っていたが、
「村長様、この話は私が村の安定の為に領主様と話して決めてきました。村から何かを徴収する事はありませんし、得られた収益はあくまで今まで通りの税率で良いのです。安心して派遣されて来る人物を迎えてあげてください」
私がそう言うと、一応は納得してくれた。
それでもやはり有利過ぎる条件提示に困惑している感じがあったので、
「実は私とルークが領主様のお嬢様の護衛として、無事王都までお連れしたのです。その事もあり、領主様からは信頼を得る事が出来ました。加えて……お嬢様とは私もルークも良好な関係を築いています。それらの実績も加味されていると思ってください。要は、私やルークに対する友好の証の一環だと考えて貰って結構です」
「ふむ……わかった。村の衆へは儂から伝えておこう。村が暮らしやすくなるのならば、それに越した事は無いからのぅ」
こうして、ロウがこちらへ来る根回しは完了した。
後は実際にこちらへ迎える準備だ。
さて……それでは迷宮でも作りましょうかねぇ。
実は村長と話している最中に、例のゲージが最大になってリセットされていた。
《迷宮創造》から第三迷宮の作成可能な事も確認してある。
作成場所の予定地は、私の実家から少し離れた場所にある空き家だ。
ここの使用許可は先ほど村長から得ていた。
迷宮を作り、家を改修後に準備が出来次第ロウを呼ぶ事になる。
入念に準備をして行きましょう。




