60◆魔石と魔素石、そして私の身体の変化について
まずは一組目になる魔送流の腕輪(仮)改め、魔送石(決定)を作った。
名称の変更は、今まで使っていたのが腕輪タイプだった為にそう呼んでいたが、今回からは魔石に直接回路を刻み込んだ対になる魔石だけを作成している。
これは私が複数の場所に魔素を供給する為に、土台となる部分と切り離した方が間違いなく便利という事から行った変更だ。
私の予定では最低でも十ヶ所以上には送りたいと考えて居る為、大きな装飾品を十個以上もつけるのは勘弁して貰いたいからだ。
そういえば、魔石の正確な大きさについてもそろそろ説明しておこう。
原魔石は川で角が削られた、角が無く出来るだけ丸に近い物を使用する。
原魔石に加工された物は、特定の魔物に存在する魔法物質に反応して吸収と凝縮を行う。
特定の魔物に限定するのは質の安定の為に行っていることで、種族毎に取り込んだ魔法物質の性質が微妙に変化してしまっている事が原因だ。
原魔石に吸収された魔法物質は、一定方向に指定された流れに乗って回り続ける事で徐々に勢いを殺され、勢いの弱まった物から中心部にある魔石となる部分に集積していく。
魔石とは集積された魔法物質の塊である。
その大きさは、九級で大体一cm程度の小さな珠となっている。
魔石が完成すると、周囲にある原魔石の残骸が崩れて中から出てくるのだ。
これ等は等級が上がると徐々に大きくなり、色も変わる。
この色や大きさによって見ただけでも大体の等級がわかるのだが、個体差や種族差で若干の違いがあるので、ランクの境界線辺りの品は色々と取引も難しい事になっている。
また、複数匹を材料に使う場合には個体差の為に若干のマーブル模様になるが、これが無い方が良い魔石として取引されている為、下位クラスの魔石以外は複数匹で作る事は好まれてはいない。
因みに、私が魔素で魔石の質を上げるとどうなるのかと言うと、魔石の色は若干白くなる。
これは、下位であるほど黒や濃い緑の色合いとなり、上位になる程赤や白に近くなって行く魔石の色合いの法則と合致する。
どうも私が魔素で品質の向上をさせる行為を行う事で中心部付近に魔素が封入され、見た目とは別の物に変化してしまっているらしい。
魔石と言うより、劣化魔素石と名称を変えた方が良いレベルだとの事。
この魔素石というのは今作られた名称では無く、普通に存在する物らしい。
極々稀にではあるが、世界の壁が薄くなったり穴が開いた場所から流れ込んだ魔素の海からの超高濃度魔法物質、魔素が凝縮された塊が地中から発掘される事がある。
これらは真っ白い鉱石で、魔石の上位に位置する物質との事。
因みに、私が作った様な魔石と魔素石の中間に位置するような物は見つかった事がないらしい。
普通は存在しない、劣化魔素石を使った魔法具を大量に売り捌いた領主の所へ、主に出荷した王都の方から当然の様に問い合わせがあったらしい。
師匠ですら魔素石は名称位しか聞いた事が無かった為、私が作っている物が劣化した魔素石に当たるとは考えていなかった様で、王都からの問い合わせで初めて知ったとの事。
持ち込んだ冒険者が現在は所在不明との返答で誤魔化しているらしく、あれを作ったのが私だと知っているのは師匠と領主、後は領主付きの執事だけなのでバレる事は無い様だ。
売り払った魔法具は、私が作れる程度なのでMPさえあれば師匠も簡単に作れる。
私が色々と小屋の設計等に関わって居たのは周囲にも知られているが、基本的な立ち位置は師匠の弟子だとの認識しかされていない為、あれらを私が作ったとは思われていないのだ。
☆ ☆ ☆
魔石の大きさは私が魔素で浸食した方が小さくて質が良くなるので、当然それを使用して魔送石を作成した。
予想通り一組作った段階で師匠のMPはほぼ無くなってしまったので、今日の作業は終了。
そして、その後は色々と雑談や相談をした。
まずは迷宮を置くに当たって、街を魔法物質低下エリアに含めるかどうか。
ここを含めた場合、師匠の作業が行えなくなる。
三割の魔法物質では流石に簡易錬金窯の作成だけで周囲の魔法物質が枯渇して、まともな作業が出来ないはずだ。
ただ、師匠だけに関してなら現状ではそれ程問題とはならない。
迷宮のマスタールーム経由で、扉だけを置く予定であるジムルの家付近に工房を立ててしまえば問題は無いのだ。
問題は、これを師匠には許可出来ても、これから増えるはずの弟子や関係者全てに知らせる事や使用の許可は出来ない。
そこら辺を考えると、街からは離して作成した方が良いのかもしれない。
迷宮の規模で魔法物質低下エリアの大きさが変わるのだが、最大で十km程度だ。
作ったばかりなら精々二~三kmだろうから、正直色々と悩んでいた。
後々を考えると十kmは離した方が良い。
しかし、この区間をシェリー達が馬車で移動するのだ。
弱いとはいえ、魔物が出る区間を通る事はお勧め出来ない。
少し考えたり試した後の結論としては……強引に効果範囲を最大にしてしまうという事だった!
元々の考えでは、今回の迷宮は魔素による成長をさせない方向だった。
何故なら、他の迷宮は冒険者を侵入させる気が無いので魔物が強くても問題ないのだが、ここに設置するのは弱い冒険者でも探索でき、徐々に冒険者を育てる様にしなくてはならない。
それ故、余計な手を加えるのは危険だと考えていたのだ。
しかし、《迷宮の主》の能力を改めて確認した所、出現する魔物のレベルを故意に弱く設定し直す事が可能だった。
それならば、作成してから一気に成長させて、その後に迷宮の事を発表すれば問題は無いとの結論に至ったのだ。
その他にも話を続けたが、そこまで重要な事は無かったので割愛。
屋敷か師匠の工房に泊まる事を勧められたが、早く第三迷宮を作れるようになる為に辞退した。
裏庭に場所を借りて、まずは移動迷宮を呼ぶ。
そこからジムルの所にある迷宮へ移動。
そして、まずはここに先程作った魔送石を設置した。
私自身は移動迷宮へ戻り、迷宮内で魔素を放出する。
これでどちらの迷宮にも魔素の供給が出来るようになり、第三迷宮取得が早まるだろう!
さて、明日は早めに動きたいので寝るとしますか。
☆ ☆ ☆
最近は本当におかしい。
朝、起きれてしまうのだ!
キッカリ六時間で目が覚める。
……これは、もう歳のせい……?
まぁ、冗談はともかく、おそらくだがこれには魔素が絡んでいる。
肉体に魔素が充満する事で、肉体に対する負荷が減っているのだろう。
簡単に言えば、高位エネルギーである魔法物質を使用して肉体を強化している魔物と同じ様に、魔素を消費出来る身体へと変化してきていると考えられる。
この予想には根拠がある。
前世で唯一の異世界人だった男、ラス=ニールは生命活動のほぼ全てを魔素で補えると言っていた。
食事は必要だが、食べた物全てを分解吸収する為、トイレにすら行かない身体だったとか。
「何それ! ズルい!!」
と、女性陣全員から非難されていた事は言うまでも無い。
「君達ももっと魔素に馴染めばそうなるんだから、まぁ頑張るしかないね」
涼しげな顔でラスはそう言って居たが、あの世界には魔法物質が無い為、魔素を男性《魔素の泉》所有者から供給して貰っていたので余り偉そうな態度は取れない状態だった。
私の現状としては、確かにあまりトイレには行かなくても良くなった。
無くなった訳ではないが、頻度が減っている感じだ。
これは良い傾向と言える。
最低でも、ラスと同じ条件にならないと魔素の海を渡れない可能性も考えてはいた。
このまま肉体を、強化と言うか進化させる事が出来れば……もしかしたら私は先に進めるかもしれない。
☆ ☆ ☆
領主館の中へ入るとまだまだ陽も昇り始めたばかりだと言うのに、すでに使用人達は働き出していた。
師匠の所へ真っ直ぐに向かうと、当然の様に師匠も起きていた。
早速師匠と一組の魔送石を作成する。
後で移動迷宮に置いて来る予定だ。
その後は、ジムルの所にある迷宮への扉を街にある師匠の工房内へ設置した。
これですぐに戻って来れるので、師匠のMPが回復したらその都度作っていけるのだ!
さて、それでは久しぶりの故郷へ向かうとしましょうかね。
私は例の不審者姿で街から少し離れた段階から爆走を始めるのだった。




