43◆ミルロード六爵との出会い……今後とも宜しくと言っておこう
ゲルボド達の冒険者登録も無事終わった。
面倒事がまとめて終わらせられたので、順調と言えるかな。
この後は約束通り、シェリー達の居る屋敷へ向かう。
流石にマップなんて描いてないので、またウロウロする事を覚悟していたが、予想外にミラが覚えていた!
ミラは一度通ると道や建物を大体記憶して、二回目にはほぼ迷わなくなるらしい。
そのお陰で、屋敷にはほぼ迷わずに着いた。
当然だが、ゲルボドもルークも役には立たなかったのは言うまでもない。
再度訪れた屋敷には、当然門番が立って居る。
この門番は先ほども居た人らしく、すぐに案内の人を呼んで中へ入れてくれた。
ここは、シェリーがしばらくお世話になると言うミルロード六爵邸だ。
とりあえずゲルボドの姿はあまり目立たない様に、旅の移動で使っていたフード付きのローブを着せて居る。
さて、ここの主はゲルボドを見て、なんと言うことやら……。
外からでも綺麗な建物や手入れされた庭などは見えていたが、内装全体がとても豪華で……成金趣味ではないが、相当金が掛かって居るのが見て取れた。
シェリーの家は、客が立ち入らない部分にはそれほど金をかけていなかった。
この屋敷はその何倍、何十倍も費用がかかっている事だろう……。
こりゃ、ゲルボドに対して何て言うか今から怪しい感じがするかな。
見栄と固定観念で生きてきた奴なら、受け入れることは厳しいかもしれない。
逆に、物珍しい物が好きなら何とかなるかな。
さて、どうなる事やら。
ルークも少し難しい顔をしている。
ミラはちょっとオドオドしながら歩いているし、ゲルボドは……何か考えてるんだろうか……。
窓の外の蝶々を見ている気はするが、あの顔は食物扱いで見てないか?
……まぁいいや。
しばらく廊下を歩いた先に、これでもかと言う程の装飾がなされたあからさまに金のかかった扉があった。
その扉を案内の人がノックをする。
中からは威厳のある、年齢的には青年にも聞こえる声で入室を許可された。
開かれた扉の奥にシェリーが座っていた。
その後ろにラナとルルが控えており、部屋の奥の方にもう一人、男が座っている。
おそらくこの屋敷の主である、ミルロード六爵だと思われる男性が私達の入室に合わせて立ち上がった。
歳は三十台の前半といったところかな?
綺麗で豪華な服を着ており、成金にありがちな下品な感じは無い。
優雅な所作で立ち回りも綺麗、顔自体の造形も文句のつけ様がない美男子と言える男だ。
そのミルロード六爵がこちらへ歩いて来て、
「はじめまして、みなさん。私がこの屋敷の主、クリス=ヴェリエル=ミルロードです。宜しく」
そう言って私達の挨拶に対応しながら、ルークには握手を、私とミラには優雅に美しい動作で手の甲に軽く口づけを、そして問題のゲルボドに対して、
「おお、本当にリザードマンみたいな人だね! 宜しく、ゲルボド君!」
ブンブンと音が聞こえる位のハイテンションな握手をしていた……。
あ、この人はあれだな。
こちら側の人だ。
この時点で私の警戒心は消え失せた。
シェリーが立ち上がり、ルークの方へ歩み寄りながら、
「お待ちしておりました、皆様。ゲルボド様の件はどうなりましたか?」
そう聞いていた。
「まぁ……、何も無かった訳では無いのですが……ゲルボドの人としての認定は完了しました。その後、冒険者登録もしてきました」
「無事終ったのですね。それは良かった。これで一安心ですね」
シェリーはルークへ、優しくそう言ってほほ笑んだ。
そんな二人の世界に関して、今はどうでもいい。
今はゲルボドと、この六爵だ。
ハイテンションな六爵が色々質問しながら、ボルテージは最高潮と言った感じだ。
放置しておくと不味いタイプの人っぽいので、適当に私も会話に混ざって暴走を食い止めておく。
そんな私達をルークが諦めた眼でこちらを見ていた……。
ルーク……今回だけは私も犠牲者だ。
もう一度言おう!
”今回は”私も犠牲者だ!!
ルークはこちらを放置して、さりげない感じを装ってシェリーに質問した。
「この御屋敷は凄く立派ですよね。ミルロード卿は……その、相当な資産をお持ちなのですか?」
その質問が聞こえた瞬間、一瞬だが六爵の口の端に笑みが浮かんだ。
その表情には、余裕とルークに対する興味の色が現れている。
ああ……この男、意外に優秀なタイプっぽいな。
今までの態度が作り物とは思えない。
しかし、周りが見えなくなったりせず、周囲の情報はしっかりと把握し、それで居て正確に判断して行動するタイプだ。
これは余程の事が無い限りは、味方になってもらう方が何かと今後が楽になるかな。
「ルーク君が気にして居る点は理解できるよ。要は、民に対して圧制を敷いて居ないかが気になるのだろう? 私はエルナリア六爵を尊敬しているのでね。自分で言うのも何だが、理想的な領主の一人だと自負しているよ」
ルークは突然本人から答えが返って来た事に若干驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静な態度に戻った。
「ルーク様、おじ様のおっしゃっている事は事実ですわ。この御屋敷が立派なのは、単にミルロード領が豊かなお陰なのです」
シェリーがそう付け加える。
その後にミルロード領について聞いた所、エルナリア領より温暖で農作地も豊か、加えて各種鉱山を有しており、税収も安定して高い状態を維持しているとの事。
「言わせて貰うと、この豪華な屋敷は僕の趣味では無いよ。王都に屋敷を構えるに当たって、他家に軽く見られない為には仕方が無い事なのだよ。自分の領地に見合った屋敷も持てないとは高が知れている……って、すぐに陰口が飛び交うのが、暇なパーティ好きの奴らの常だしね」
ワザとらしい仕草で、ウンザリした顔をしながら六爵が言った。
その後もしばらく、持ってきて貰ったお茶を飲みながら各々で会話を続けた。
因みに、当然の様に全員で好きなだけ滞在して欲しいと言われたので、しばらくはここで厄介になる事した。
☆ ☆ ☆
時間が限られている以上、遊んでいる暇はそれ程無い。
まずは王都についてざっと調べる事から始めた。
ミルロード卿やその右腕を担っている、執事のエクトにも色々と王都の行事等について聞く事ができている。
年に一度行われる騎士団主催の演舞大会や、四年に一度の武闘大会。
不定期ではあるが、魔法使い達がパトロンの依頼により行われる、魔法の披露を目的とした試技会等もあるらしい。
実際にそれらが行われる事になったら教えて貰える事にして、どう潜り込むかはその時相談しよう。
後は、拠点として活動できるのかを確認する為に冒険者ギルドの依頼を日々確認したり、実力者が指南している道場等の場所の確認をする。
加えて、冒険者が使用する宿等も調べておく。
私達はようやく成年程度の年齢だし、ゲルボドは完全に異端な姿だ。
そんな私達が、自分達より明らかに活躍した場合どうなるか?
こないだ話したギルドのオッチャン達は大丈夫だろうが、それより下の年齢層から反発を受ける可能性は大きい。
環境を確認して、慎重に動かなくては面倒が増えるだけだ。
この期間を利用しながら同時に行って居る事は、ルークに毎日《迷宮創造》を使用して貰っている。
ルークのMPだと結構な日数がかかるらしいので、まずは完成まで一緒に下調べをしてしまう。
それが終わったら、私は一度故郷に戻って自分の迷宮を作る予定だ。
ルークが動けない期間に戻ってしまう事も考えたが、ルークの迷宮を作る際の魔法物質はこの周辺から集められる。
迷宮周辺は魔法物質が三割程度まで落ちるが、作成中だと五割と言った所の様だ。
この魔法物質低下は、判る人間にはすぐにバレてしまうレベルとなって居る。
そこで、私が魔法物質低下の中心であるルークと一緒に行動して、減った分の魔法物質とほぼ同量の魔素を周囲に撒き散らしている。
収支が合って居るので、まず気が付く人間は居ないだろう。
そして、私は私でこの期間に色々なタイプの移動迷宮を試しに作っている。
完成時に熟練度が大きく上がるので、毎回次に作る時に破棄する事で徐々に《迷宮創造》の熟練度も上がってきている。
ルークは事前に決めてあった通りに、転移系の迷宮にした。
主を自動で追うタイプにしたようだ。
メリットとデメリットはそれぞれにあるが、このタイプなら比較的デメリットは少ない。
配置する高さは任意で変えられるので、雲の上に配置する事で迷宮内に入られる可能性はほぼ無くなるし、魔法物質低下の影響は地上に影響しない。
いざと言う時に迷宮の扉を動かす際は、近くに居た方が移動にかかる時間も短いらしい。
これは世界の壁にも距離の概念が有るのかは不明だが、穴を開ける位置を確定するのにかかる時間が近くに居た方が短いと言う経験談が、例の爺の資料の中に残って居た。
因みに、迷宮のレベルが上がると常時自分にくっ付いて来るようだが、最初は一日一回程度の自動転移程度で、主が任意で動かす用に毎日一回分、これに加えて緊急時用に三回分の魔法物質を保持している。
自動転移は、迷宮自体のレベル上昇に伴って転移間隔の半減を繰り返す。
魔法物質が正常に供給される状況だと、《迷宮創造》スキルが六十位で常時移動するようになるらしい。
そこまで行くと迷宮を次の段階に進化させられるらしいが、詳しい事は分からないと本には書かれていた。
進化かぁ……。
……どんな事になるか楽しみだ!
何故なら!!
魔素を注ぎ込んだら一気に成長する事が判明しているからだ!!!
帰り際に師匠の所で、馬車でも大活躍した魔送流の腕輪(仮)を幾つか作ろうと決心している。
あれは強制帰還の魔法具の失敗作ではあるが、今となっては私にとって失敗作ではなくなってしまっている。
使い道も色々考えてある。
楽しくなりそうだ!




