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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
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3◆私の前世と六歳になった私達

 ルークには六歳になるまでの二年間の間にやる事を指示しておいた。

目標も無く二年は長いだろうし、予想通りに行っても行かなくても役に立つ事ではある。

指示した内容は、視線を動かす事無く視界に入るもの全てを認識する練習。

そして、その状態のままで『コマンド』を『押す』練習である。

理想としては、視線がどこを向いていても即押せる事が望ましいかな。

ちなみにあの後確認したのだが、右上に ▼ という表示が存在して、これを『押す』と画面がこれ以外消える。

何が隠されているかまだわかって無い以上、下手に余計な場所を押してしまうのも不味いので、このボタンだけを押す練習に使用させている。


 ルークだけに頑張らせるのは、私としては気が済まない所がある。

では、自分で出来る事はと考えた。

四歳の子供では肉体的な鍛錬は難しいだろう。

本格的な魔法はこの村では学ぶ事が出来ず、簡易版の生活魔法もまだ早いと言われている。

そこで考えたのは、私が持つ能力である《魔素の泉》によって肉体に魔素を馴染ませる訓練を始める事だった。

赤ん坊の頃は諦めたが、そろそろ少しづつならば始めてもいいかもしれない、と思えてきた。

魔素とは濃密な魔法物質である。

もし魔法が使えるようになったら何かの役に立つかもしれない…………そんな淡い期待も込められている。

まぁ正直な所、役に立たなくてもいいのだ。

これは私の未練というか、後悔に繋がっている想い。

私の前世の死因が、この魔素によってもたらされた結果だからだ。


 世界に選ばれた戦士として戦っていた私にとっての運命の戦い。

その日は二体の襲来者が同時に出現した。

二人の男性能力所有者が一体を、残り四人の女性能力所有者がもう一体と戦い、男性陣は即撃破したが女性陣は敗戦色が濃厚だった。

男性陣がこの戦場まで辿り着くまではどうにか持ちこたえてみせる!

そう意気込んで戦い続けた結果、女性陣に死者が出る事なく救援は間に合った。

しかし私には解っていた。

私の身体がもう耐えられない事を。

魔素によって硬化した肉体にヒビが入るのが見えた。

痛みは無い。

それどころか何の感覚もない。

それなのに徐々に自分の身体が壊れていくのを不思議と感じた。

戦闘が終わった時、自分では笑えていたと思う。


「……頑張って……」


仲間にそう言った瞬間、私は崩れ去った……。

死因は魔素の過剰供給。

限界を超えて能力を使うしか、あの時の私には選択肢は無かった。

後悔はしていない。

しかし、同じ過ちは犯したくは無い。

その思いがあるから……この世界では無意味かもしれないが、肉体に魔素を馴染ませる事は絶対にやるべき事と決めている。




 ☆ ☆ ☆




 今日は六歳の誕生日だ。

私の身体もそれなりに魔素に馴染んできているが、この世界ではどんな反動が起こるかが判らないので本当にゆっくり、と言う感じで進めている。

ルークはこの二年間、特に文句も言わずに黙々と言っておいた練習をしていた。

少し時間が出来るとすぐに視線を真っ直ぐ向けたまま動きが止まる。

視線にはとても力が感じられる事から、今も頑張っている事がわかった。


 この二年、私もルークについてや女神の事を色々な仮説を立てながら考えてきた。

ルークに見える模様は間違い無くゲームの影響を受けている。

そしてそのゲームのシステムは御伽話おとぎばなしに聞く勇者の能力に酷似している部分が多い。

私の期待も多分に込められた仮説だが、ルークに流れ込んだ勇者の力は完全では無かった為、類似するゲームをもとにする事で再構築する事が出来たのではないか、という可能性だ。

もしそうであれば、あのゲームのメインシステムである、《簒奪さんだつの聖眼》の力もあるはずだ。

敵のスキルを奪うというか、コピーする能力、それが《簒奪の聖眼》である。

この世界の力を逸脱している訳では無いからチートとまでは言えないが、十分卑怯な位の能力と言えるはずだ。

正直、試すのが楽しみっ!

でもそんな様子は一切見せないのが落ち着いたイメージの姉としての意地なので、ルークには見せないけどね!




 ☆ ☆ ☆




 ルークと一緒に人の居ない草原の中に一本だけ生えた大樹の下で話をしている。


「ルーク、約束だからあなたに見える物や知らないはずの知識について教えるけど、条件があるわ……私が許可した場合以外は絶対に人に話しては駄目。それが守れるなら教えてあげる」


「うん、わかった」


こうして私はルークに前世の話や女神や勇者の力の事、前世でやった事があるゲームの画面がルークに見える様になってしまっている事、ルークが日本語が読めたり文字検索する事が出来るのも私の記憶の一部が残っているからであろう事、それらを話して聞かせた。

その話の最中に意外な事もわかった。

私が覚えて無い記憶もある様なのだ。

前世の記憶は映像の様に見る事が出来るのだが、ルークに残る文字としての情報を検索してもヒットしない項目がある様だ。

本などで得た情報がイメージとして残っていない為、私では検索出来ない情報になって居るのかもしれない。

必要がある場合はルークに聞く事になるのだが……ルークは意味自体がわからない事が多いので苦労しそうだ。

必要になる情報が無い事を祈ろう。




 ☆ ☆ ☆




 この村にはたまにだが行商人がやって来る。

小規模な商いをしているゼンさん(四十歳位)と言う人だ。

月に一度程度来てくれるのだが、この人は昔冒険者をやっていたらしい。

期間は短くて、その後は行商で生計を立てているらしい。

この近辺はあまり魔物も出ないが、今も護身用の片手剣を持っている。

最も、この近辺だけ何故かほとんど魔物が居ないらしいので、道中では使う機会もあるのだろう。


「ゼンさん、こんにちは」


「おや、エルちゃんこんにちは」


「今日はエラファムの種と乾燥させたルルデ草を持ってきました」


この二品は私とルークだけでも探せる上、ゼンさんがこれから行く先の村で売れるらしくて喜ばれる。


「エルちゃんとこのは処理が完璧でお客さんからとても喜ばれるから助かるよ。本当は買い取りに色を付けてあげたいんだけど今年はあまり余裕がなくてねぇ、普段の値段でしか買えないんだがいいかい?」


この処理についてだが、実は上手く処理出来るようになるまで結構苦労した。

教えられた方法だと厚みに違いがあるせいか乾きのムラが出来る。

その乾きにかかる時間の違いのせいか、場所によって質に違いが出てしまうのだ。

前世の記憶の中で使えそうな加工法が無いか調べて、色々と試した結果が今ここに! という感じである。

まぁ、余程余裕が有る時以外は同じ値段での買い取りなので完全に自己満足だ。

だが悔いは無い、満足だ。


「はい、今年もあまり天候が良くなかったせいでどこも余裕がありませんから仕方がありませんよ」


数年前まではあまり無かった天候不良による微妙な不作はここ数年続いている。

魔王の復活が近いせいではと言う話も囁かれてもいるが……事実なのかは不明だ。


「そう言って貰えると助かるよ」


「あの、その代わりと言う訳ではありませんが少しお願いがあるのですが……」


「俺に出来る事だったら相談に乗るぜ?」


「弟のルークに少しだけ剣の手ほどきをお願いできないでしょうか?」


「あまり長居も出来ないからほんとに少しだけになるけどいいかい?」


「はい、少しだけでいいのでお願いします」


上手く交渉がまとまった。

さて、《簒奪の聖眼》は実際にあるのか?

楽しみです。

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