4◆長い様で短かった八年間の出来事と私達の旅立ち
ゼンさんが一通り仕事で回ってきてから、ルークの作った木製の剣を使って二人で振り方の練習を始めた。
最初の一振りを見せて貰った段階で浮かんだルークの驚きの表情、そして今浮かべている笑顔。
これは《簒奪の聖眼》があったと見た!
予想通りありました。
この《紅の剣》というゲームのシステムは、相手からコピーしたスキル熟練度まで簡単に上がるようになる。
正直な所、ゲームの時は奪っている事が前提のスキル上昇速度だったようだ。
三千時間かけて《簒奪の聖眼》抜きで裏ボスまでクリアした強者も居たらしいがそれはどうでも良い。
ゼンさんの片手剣スキルは熟練度3だったらしい。
意外と低いなと思ったが、実はメインスキルはヘヴィアクスだそうだ。
この周辺の魔物にはそこまでの装備は必要無いから、持ち歩いて居ないらしい。
残念だ。
使うかどうかは別として、どうせなら欲しかった。
☆ ☆ ☆
私達は八歳になった。
ルークはあれからずっと剣の練習をしていた。
相手が居ないからなのかスキル上昇は遅い気はしたが、身体の出来て居ない子供の練習と考えれば十分だと言えた。
最近は村で唯一の狩人さんの所に入り浸っている。
弓や罠等を教えて貰っているらしい。
《簒奪の聖眼》によりスキルを得ているので、子供のくせに筋が良いと褒められて喜んでいた。
私はと言えば最近は家で手伝いをする事が多い。
最近、私達に妹が生まれたからだ。
母さんに無理をさせない為に、私が率先して家事や妹の面倒を見ている。
ちなみに妹の名前はルナと言う。
小さい……本当に小さい……。
この小さな命を守る為にも私やルークは頑張る必要がある。
そう、再認識させられる出来事だった。
☆ ☆ ☆
十二歳になった。
今日は悲しい出来事があった……。
最近はお婆ちゃんと一緒に寝ているルナが大声で泣き出した事で目が覚めた。
まだ陽が昇るには少し時間があるので普段なら寝ている時間だ。
ルナはどちらかと言えば手の掛からない大人しい子だったし、こんな時間に泣き出したことは無かった。
何事かと皆が起きて様子を見に行くと、
「お婆ちゃんが変なの! 手が冷たいし返事をしてくれないの!」
ルナがそう言ってきた。
お婆ちゃんは微笑んでいる様に見えた……。
もう少し……もう少しで私達が冒険者として家族の生活を楽にしてあげられると思っていたのに……。
それが悔しかった。
私は戦闘面ではやはり役には立たないみたいだけど、その他の分野で役に立てる様に採取をメインに色々学んできた。
冒険者の仕事には採取系の仕事も多数あると聞いているからだ。
そして、実際に冒険者になれたら魔法も覚えてみたい。
それが昔からの希望であり、この世界に来てからの楽しみでもある。
魔素を身体に馴染ませる事も順調に進んでいる。
恐らくすでに前世より大量の魔素を身体に流し込んでいるはずだが、全く問題は無い。
優しかったお婆ちゃんに苦労の無い生活をさせてあげられなかった事は悔しいが、やる事自体に変更は無い。
後二~三年、街へ行く為の下準備は進めておこう。
……さようなら、お婆ちゃん……。
☆ ☆ ☆
十四歳。
昨年は若干程度だが豊作と言えた。
しかし、今年はまた不作になりそうだ。
どの程度かはまだ正確には判らないようだが、家族五人が満足に冬を越せるか微妙な所だろう。
ルークはこの国の成人である十五歳で冒険者になる為に街へ行くと私だけに告げていた。
しかし、この現状を考えたのだろう、
「父さん、相談があるんだけど……」
そう切り出して、街へ行って冒険者になりたいと言った。
父さんもその事は予想していたのだろう。
ルークは剣の練習を毎日繰り返していたし、明らかにこの村で生活するには必要無い事を学ぶ為にも時間を割いて頑張っていた。
父さんにも思う所はあるのだろうが、反対しなかった。
母さんも不安そうな様子は見せたがそれに従った。
さて、それじゃ私もこの流れに乗っておかないと後になる程面倒になる。
「私もルークと一緒に行くわ」
流石にこれは予想外だったらしく、母さんが難色を示した。
「エル……ルークについては子供の頃から一生懸命頑張って来た姿を見てきました。何故こんなにも頑張れるのかと思う位毎日剣を振るったり。それに男の子ですもの、どこまで出来るのかを一度確かめて見るのも良いとは思うの」
「確かに私には自分の身すら守れるか怪しい程度しか戦う事は出来ないわ。でも、冒険者って言うのはそれだけじゃないの。様々な薬草なんかを採取する仕事等もある。ルークとそれらを補って行く方が安定して収入が得られると思うわ」
私の考えを伝えてからも色々と話し合いが続いたが、結局私が冒険者になる事は条件付きで許された。
条件は冬になる前までに満足な収入が得られないようなら私は村へ戻ると言う物だ。
一人だけなら戻っても何とかなるだろうからと。
「……お兄ちゃんもお姉ちゃんも村を出て行くの……?」
ルナには寂しい思いをさせる事になるのは理解してはいる……。
しかし、これだけは譲れないのだ……。
敢えてルナを宥める役目はルークに押し付けた。
私は後で落ち着いてからフォローする事にした……頑張れルーク!
☆ ☆ ☆
ある程度事前に用意はしていたが、いざ実際に準備をすると意外と手間はかかった。
まぁ、ルークの《紅の剣》……面倒なので《ウィンドウ》と呼んでいるルークに見える画面の中の、《アイテム》コマンドには二百五十六種類のアイテムが入る。
これには時間停止の効果もあるらしく、事前にある程度の食糧等も保管してある。
街までは三日程度の旅なのでそこまでの準備は必要では無いとは思うが、行ってすぐにお金を稼げるのかと言うと絶対の自信はない。
その為につい余分に確保しようと欲が出てしまい……色々奔走する事になった。
それらの作業やお世話になった人達に挨拶等をして、一週間が過ぎた。
これから行くのはこの領地の中心地、エルナリア第六爵が直接納める街。
爵位は九段階、領地を持つのは一~七爵まで、領地を持たない場合もあり、その場合は爵位の前に準とつく。
第八爵は騎士、第九爵は跡継ぎ等の爵位持ちの子弟が一時的に与えられるものだ。
街へは歩きでも片道三日、そこまで遠い距離ではないが、裕福では無い私達の村からは滅多に行く人はいない。
ゼンさんが月に一度の周期で幾つかの村を回って生計が立てられているのは、往復六日以上もかける事が出来ない村人達にとってそれだけ重要な役割を担っているという事だ。
私達の村には何故か殆ど魔物は出ない。
しかし一日位歩いた場所から徐々に出現し、街の辺りでは偶に街道にも出るようだ。
街から一時間程歩いた場所にある森の中には、多数の動植物と同時に魔物も存在するとの事。
そんなやや危険な位置にあるのは、魔物から得られる素材との兼ね合いがあるのだろう。
魔物の素材は魔法物質の影響で強化されている為に様々な使い道があり、加工する事で生活の利便性や冒険の助けになる品を作り出せる魔石の供給量にも係わってくる。
生活の向上の為、危険との天秤にかけられた結果が今の街の位置なのだ。
冬になる前には一度経過を伝えに来る事や、無理をしない程度に稼いで食べ物を沢山持って帰るから楽しみにしている様にと大口を叩いてから別れを告げて旅立った。
無理だけはするなと念を押されたが、ついつい無理をしてしまう性分なので気を付けよう。
魔法……覚えられるかなぁ……そこだけが楽しみでもあり不安でもあるのだが、まぁ頑張っていきましょう!




