17◆護衛への採用と条件のすり合わせと私の要望
ん~、良く考えたらシェリー達も見ていたのを忘れてた……。
ちょっとやり過ぎかな!
正直な所、前世も含めて人間相手にここまでやった事は無かった。
こちらに来てからそこら辺が若干緩くなり、某スキルの影響でグロ耐性が付いてからは特に気にならなくなってきた……。
人間相手にはちょっと自重しよう……出来ればいいな……。
まぁ、そんな考えはあまり必要無かった様だ。
シェリーはさっきまで以上に瞳を輝かせながら興奮していたし、メイド達も尊敬の眼差しと言った感じだ。
こっちの人達、荒事に耐性有り過ぎじゃないの? と、言いたい。
ついでに呼ばれ方が『お姉様』になっていた。
まぁ、懐いてくれる方が今後もやり易いから問題は無い。
ギルド職員の二人はかなり唖然としていたが、領主は愉快そうに笑っていた。
「若干やりすぎてしまった感はありますが、問題はありませんよね?」
「うむ。あれほどの実力とは流石に思っていなかったので嬉しい誤算であった。是非とも旅の際にはエル殿にも同行をお願いしたい」
ルークの問いに、領主からも問題無しとの返事があった。
これで後の問題としては、色々な準備をして貰う交渉かな。
報酬的には馬車で二週間~三週間かかる行程なので、往復に最大かかる期間の六週間分報酬を出すとの事。
往復分の報酬を支給だが、そのままこちらへ戻る必要は無いとの事。
王都に残ったり、そのまま他の街へ移動してもいいようだ。
その後の詳細については、もう少し落ち着いた場所で話そうと言う事で屋敷へと移動する事になった。
応接室へ戻る時にシェリー達はとは別れた。
ガラエスさんは大切な面会があるとの事での退席。
今ここに居るのは領主、執事、ルヴェールさん、そして私とルーク。
金額的には問題は無かったので、その他の交渉に入る。
「私達にはあまり人に知られたくない能力が存在します。すでに《識別》で確認されているようですので説明は不要でしょうが《女神の加護》を持つ私達の能力の一つです。この能力を使用するならお嬢様の旅の安全と快適さが増します。この能力を使うのであれば、相応の対価と情報の規制をお願いする事になります」
今回の旅用に運んで来た魔法具の価値を考えれば、娘に対する本気度が分かる。
ルークが回収した魔法具は、二つの個人用シールド魔法とシールド魔法が破壊されそうになったら発動する強制帰還能力が付与されていた。
相当な金額じゃないと取引されない品のはずだ。
この話に食いつかないとは思えない。
「具体的にはどの程度安全度が上がるのかな?」
「夜に野営する際の危険度が段違いに下がります。ただし、用意して頂く物も増えますが」
「良いだろう。まずは能力の内容を聞く段階で二割アップ、それが有効であった場合には使用して貰う対価として更に三割上乗せでどうかな? もちろん私や同行する娘達には他言しない条件を徹底させ、契約として破った場合の罰則等もそちらが納得する内容でしっかりと決めるとしよう」
十分な条件提示だ。
正直、勇者の能力はどうしても異色すぎて、隠し切れない事はもう分かった。
出来るだけ隠すようにするが、重要な案件では交渉に使うようにしよう。
「ルヴェールさんはすでに知っている内容に付随する能力なのですが、他言無用でお願いします。この能力は勇者様の《無限倉庫》の劣化版……いえ、バージョン違いと言える能力です。この能力を使うと目に見えない場所へアイテムを保管できます。勇者様の場合、無制限に数は持てますが大きさに制限があるそうです。私達の場合、アイテム数に制限がありますが勇者様以上の大きさの物が仕舞えます」
「……成程、用意するのはとは小屋の様な物と言う訳か」
流石に理解力が高いな。
執事の爺さんが裏で操っている事も少しは考えていたが、そんな事は無いようだ。
正直、あの爺さんは只者じゃない気がしてならない。
《識別》を持ってる時点で、こんな辺境で執事やってる事がおかしいし。
まぁ、それはいいや。
話を進めよう。
「はい。一つの物として認識できる場合には箱の中に収められている物ごと収納できました。大きさ自体は確認しながら決めて行く必要はありますが、現在確認している範囲でも寝るには困らない大きさの物も保管できます」
「食品等の必須物資も十分な量を持てる訳か」
「そうですね、食品は料理した物を暖かいまま保管できます。問題点としては数の制限があるのでそこまで多い種類は持てません。抜け道としては、同数のパンを入れた同じ容器の品という分類でなら九十九個までを同じ品として持つことが出来ます」
「ふむ。人数分を一纏めにしたパンやスープのセットを余裕も考えて六十三個は必須だろうな。万が一を考えると九十九個持っておいてもいい位か」
余分に持つ事は、何かあった時の保険になる。
余ったら私達が有難く貰うので、多めに用意してくれる方が有難いのは確かだ。
「メイン以外の品はいくつかの種類を各種セットにしておけば、旅の間に飽きる事無く、食事で不自由な思いをせずに済む可能性が高くなります」
制作する移動用の小屋や馬車の荷台等については、色々手を加えたいから立ち合いながらでという話でまとまった。
今日は取り敢えずこんな所で、詳しくは次回の打ち合わせとなった。
☆ ☆ ☆
帰りの馬車でルークが質問をしてきた。
いくら肉体強化の魔法が使える様になったとはいえ、どうしてあれほどの肉弾戦が出来たのかと言う点だった。
まぁ、答えは簡単だ。
「あれって前世の《魔素の泉》所有者の基本戦術とほぼ変わらない戦い方よ」
前世では魔素の供給だけで肉体に《フルブースト》以上の強化が起こった。
こちらの世界では魔法物質が普通に存在する為にある程度馴染んでしまっているらしくて、《フルブースト》で強化しないとほぼ同じ状態にはならない。
私が得意としていたのは弓状に形成した魔素での射撃と、肉弾戦だった。
今回再獲得した《格闘術(異世界)》のお陰で、その内本当に再現出来るかもしれない。
それどころか、魔法を組み込んだ新たな戦い方が出来るだろう。
これからが楽しみだ。
《アイテム》の事を言っても良かったのかを聞かれたが、執事が《識別》を使っているのを見たので隠す事を辞めた事を伝えた。
《女神の祝福》は基本的に勇者やその仲間が持つ特殊能力で、極々稀にその他の人に現れ、勇者やその仲間に与えられるスキルの劣化版を保有する事があるらしいので、持っている事がバレているなら隠すより有効に生かしつつ秘密にさせる方がいいのだ。
しかも、持ち運びできる小屋を用意させた方が圧倒的に護衛が楽になるので都合がいい。
隠す必要が無いのなら色々楽が出来る事も増えるので、事前準備を万端で旅に出れば有利になる点が増えると言う物だ。
《識別》がかなりレアなスキルである事も伝えた。
鑑定系のスキルを五~六種類、相当熟練度を上げた場合に覚える可能性が僅かに発生するという程度のものらしく、超大手の商人・王家・大貴族のお抱えでもない限りは持っていない事が殆どで、こんな場所で使用者が居るとは想定外だった事を。
《鑑定》以外では《特殊能力》がある事を知られる事はほぼ無いらしいので、正直甘く見ていたのは事実だ。
何故知って居たのかを聞かれたので、師匠の師匠が使用出来たらしい事を伝えた。
◇ ◇ ◇
翌日、師匠の今後の予定の確認と、春から護衛に同行する事を伝えた。
師匠の予定を確認した理由は、領主に依頼を出させて小屋等に様々な付与魔法を掛けて貰う為だ。
安全面では必須なので、結構なコストがかかるが出すだろう。
というか、出させる。
午後からは領主が手配した職人を交えて、大体の希望等を話し合う事になって居る。
ルークは春までそれ程関係する事は無いので、いつもの冒険者仲間と仕事を続けるそうだ。
用意の方は私が出来る限りの事をしておこう。
さぁ、楽しくなってきましたよ。
なんせ、領主の金で私の《付与魔法》の修行をする気なのだから!
素材が無いと練習も出来なくて困って居たので渡りに船とはこの事だね!!
ありがたや。