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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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90◆エルナリア邸からの避難に関するあれこれ4

 ダークストーカーの魔石入手以降の作業は順調に進み、ルークが居なくなった事を確認したオガ吉が蜘蛛の糸とアイアンゴーレムを狩りまくったお陰で材料の確保も滞りなく進んだ。

まだ素材に余裕はあるとはいえ、全て作り終えるには足りなくなる可能性があるので有り難い事である。


 因みにルークは少ししてから戻ってきたので一緒に食事をしたのだが、


「姉さんの迷宮内に完全武装をした亜人の集団を見つけたんだ。おそらく階層のボスだとは思うんだけど、妙に知性が高い感じがしたし、複数の種族が一緒にいる様子には違和感があったんだけど……もう一度様子を見に行った方が良いかな?」


と聞いてきた。

勿論、


「危険が無いなら放置しておきなさい」


と、興味の無い振りをしながらスルーしておいた。

その横では、リーナがモグモグとパンを頬張りながらこちらを見ている……。

私が何と答えるのかを確認していたのだろうけど、ルークの勘が良ければ違和感を感じてもおかしくない挙動だった。

リーナもまだまだ要修行と言ったところかな。




☆ ☆ ☆




 ルークは食後に王城へ行く事になっていたので、食事が終わるとすぐに別れた。

協力者の迎えに行くそうなのだが、私とリーナは少しでも作業を進めておきたかったので即工房へ移動だ。


 しばらく製作していると、まだ遠くではあるが話し声が聞こえてくるようになった。

おそらくルーク達が着いたのだろう。


 声が扉の前まで来ると、ルークがノックをしてから扉を開けた。

パッと見で戦士風が四人、魔法使いが二十弱といったところかな。


 軽く挨拶をした段階で、


「あら、思ってたよりも随分協力して貰える方が多かったみたいね。それじゃ、早速準備しましょうか」


と言って、個別での紹介は後回しにして作業を開始した。

どうせ全員分の服を作る訳だし、名前を聞くのは作業中で問題は無いだろう。


 そんな訳で、早速メイド服から作業を始める。

先に作ってあったサイズを着れる人の確認からなのだが、基本的に体型的な問題がある人は居なかった。

因みに、体型的な問題とは……横幅的な方向の事だ。


 どちらにしても作ってあるのは十人分なので、これから作成する分の候補者を確認しておく。

身長的に若干厳しかった人が四人。

胸のサイズ的に厳しい人が三人……どちら側に厳しいのかは言及を避ける方向で!




 ☆ ☆ ☆




 まずは、ほとんど準備が出来ていた分を微調整しながら仕上げていった。

現在は六人分が出来あがっている。

その間に自己紹介を順次済ませて、一部隊十八人全員と挨拶をしておいた。


 作業をしながらでそんなに余裕があるのかと言えば……今回の場合はあった。

熟練度ごとスキルをコピーしているので似たような実力のはずのリーナなのだが、慣れが甘い為か若干精度にブレがある。

そこで、練習を兼ねて今回の仕上げに関してメインで作業をやって貰っている為、私の方は話をしている余裕があると言う訳だ。

そんな訳で、私は自己紹介後も部隊長を務めるリリアーナという女性と色々と話をしていた。


 今回来てくれた魔導部隊のメンバーは、どうやら一般市民から実力で選ばれた部隊との事。

流石に自分からは実力者云々とは言わないのだが、結構な人数が候補に挙がる選抜試験をクリアしたらしいので間違いは無いだろう。


 ただ、やはり差別意識というか……貴族関係や代々魔法使いとして名を馳せている、代々優先的に魔導部隊入りしている家柄の同僚からは下に見られているらしく、今回の件に関しても第一王子からの要請なので無視は出来ない……要は、誰かは送らなければならないという流れで押しつけられたとの事。

彼女はちょっと申し訳無さそうにしながら、そう教えてくれた。


 まぁ、その後の話で厄介事扱いされていた理由は判明した。

ルークの対応に間違いはなかったのだが……確かに相手からすれば情報が足りな過ぎて貧乏くじを引かされていると感じてしまうだろう。

その理由とは、移動経路の説明が全くされて居なかったという事なのだから。


 エルナリア領へ行く為には馬を使っても二週間、強行軍で進んだとしても十日は欲しい所だ。

どう考えてもヴァルツァー五爵の襲撃があった場合は間に合わないし、無かった場合は逆にいつまで拘束されるか不明になってしまう。

多少は臨時手当が付くらしいので経済面的に助かる面もあったようだが、それでも割に合わない危険と労力に不満の声は少なからず出ていたとの事。


 因みに、現在はその不満が間違いであった事が判明し、今回の仕事は好意的に受け止められている様だ。

私の方から追加報酬として、幾つかの魔法具を提示した事も大きいとは思う。

メイド服として使う布製の魔法防具を始め、腕輪型の魔法発動具等の幾つかの装飾品系魔法具も今回の件で使用した後にそのまま渡すつもりだ。

その事を伝えた時は、全員が飛び上がりながら歓声を上げていたので満足してくれているのだろう。




 ☆ ☆ ☆




 七人目も終わり、八人目の作業中にルークが帰ってきたようだ。

ここまでの作業でリーナが結構安定してきたので、私は調整はリーナに任せて新規で作る方の作業を行っている最中だった。


 ルークと先程一緒に居た隊長達は、自分達の部下を迎えに一旦ここから離れていた。

流石に四部隊全員で王都の道をゾロゾロ歩いて居れば何かあったのかと目を引く事になってしまう為、面倒なので目立たない様にルークの移動迷宮にまとめて入って貰いながらこちらへやって来たのだ。

要は、ルークだけが王都にある仮のエルナリア領主館と部隊の詰所を移動していたという訳である。


 リリアーナ達は服の完成したメンバーを中心にメイドとしての作法や所作等の練習を始めていたのだが、ルーク達が帰って来たので近寄っていって話をし始めているようだ。

内容的には先程私と話をした貧乏くじ云々の話に近い内容だったのだが、この女性はどこかオドオドした感じを受ける態度なのに、裏表が無い上に歯にきぬを着せない言動が面白い。

他のメンバーも問題のありそうな人が居ない様なので、取り敢えずは一安心かな。




 ☆ ☆ ☆




 ルークと一緒に来たメンバーの装備製作は取り敢えずメイド服の後になる為、まずは屋敷の案内や既に設置してある警報や行動阻害&捕縛用の魔法具に関する説明に行って貰っている。


リーナも更に作業に慣れて来た為、私の作業で手伝って欲しい所だけサポートしてくれつつも自分の仕事もしっかりこなしていく。

そのお陰で効率良く仕上げられ、ルーク達が辺境の六爵の屋敷とはいえ結構な大きさがある建物内を隈なく見てきた事で結構な時間がかかった事もあり、彼らが工房に戻って来た頃には魔導部隊の分は完成させる事が出来ていた。


何日かかるかは不明なので予備も作る予定なのだが、まずは全員分作る方が先決なのでそちらは後回しにして次に移ろう。

と言う訳で、


「ルーク、取り敢えずは全員分揃ったわ。一通り作る物が出来上がったら予備でもう一着作る予定だけど、まずは一段落したから執事用にとりかかれるわ」


と伝える。


 今後の予定として、こちらに三部隊を残し、王都に移動して貰った領主の所にも念の為に一部隊詰めて貰うとの事なので、すぐに必要な分は三部隊分の偽装服かな。


 女性は全員メイド服で統一してあるのだが、男性は数種類必要なので希望を聞きつつ振り分けていく必要がある。

用意するのは執事役が六割、下働きが三割、厨房のコックやその他で一割といった感じになる予定。

本当は女性も二~三割は下働きの女性が居たのだが、この屋敷に居た下働きの女性はは最低でも私の母親以上の年齢だったので違和感を持たれない様に敢えて削った。


 ここまでの作業で私もリーナも相当慣れてきた為、多少作る物が変わっても順調に製作出来る様になっているのでどんどん作成して行く。


 まずは色々と指示する為に動く事が多い部隊長の三人用を作ったのだが、女性隊長であるミルファはメイド服、ふざけた事を言ってそのミルファによく殴られているレックスは下働き用、レックスと違って執事の真似をしても問題ない所作を身に付けているロイドは必然的に執事役になった。


 基本的には一部隊を構成する三小隊による十八人を、役割を変更しながら八時間毎にローテションして貰う方向でいる。

部隊長であるこの三人はバラバラに動く予定なので、正直に言って役割を変える意味は無い。

単に、レックスが執事役は面倒だからという理由でこうなったに過ぎないとだけ言っておこう。


 そして、その別れて担当する役割は三つ。

屋敷の使用人役。

武装した状態での待機。

そして、休憩だ。


 因みに、


「流石に八時間も寝られないぜ? なぁ、訓練も兼ねて睡眠時間以外は迷宮で狩りをしてもいいか? 素材を売ればみんなの助けにもなるし」


とのレックスからの要望もあり、好きにしていいとの許可をルークが出している様なのだが、自由な時間にそれ位の事は私的にも特に問題は無いので好きにさせる方向で。

あくまで無理はしないという条件は付けてあるらしいので、大丈夫だと信じよう。




 ☆ ☆ ☆




 ミルファのメイド服とロイドの執事服を完成させ、レックスの作業着の最終調整をしている最中にルークが戻ってきた。


 そのルークに対し、


「こんな……完全に作業着なのに、とんでもなく強力な《付与魔法》が掛かってると言うのは正直笑えてくるな」


と、若干ひきつるような顔で……笑いながら話かけていた。


 まぁ、レックスの言い分も分からないではない。

何故なら、私の《付与魔法》の実力は師匠クレリアさんを抜き、王都の中でも最高峰と言われている王城のお抱えとなっている人の中でも、ほぼ最上位の人達と同じ域まで達していた。

ぶっちゃけると、恐ろしいまでのMPと素材に物を言わせて最近作りまくっていた結果だ。


 その私とほぼ同じ実力を持つリーナが一緒に作った逸品である。

普通に作れる品の中では、相当上位に位置するのは間違いないはずだ。

普通にと言う以上は普通ではない品もある訳だが、それらは迷宮等から極々稀に発見される現在では製法も失われた魔法具の事を指す。

熟練度的に50を遥かに超える必要がありそうな物が多い為、再現する為の実力すら足りない為に試作品すら試す事が出来ていないのが現状との事。


 因みに、《錬金術》や《付与魔法》の熟練度は50が抜けられない壁と言われているらしい。

理由は簡単で、素材の入手が困難な為だ。

戦闘系は数が少ないとはいえ倒せない程の強大な魔物すら存在するのに対し、それらの強大な魔物素材を大量に入手出来なければ熟練を積むチャンスすら無い《錬金術》や《付与魔法》が更なる高みへ到達できる訳が無いのだ。


 竜すら殺す必要がある為に素材の確保は何とかなると思うので、私自身の熟練度上昇に関してはあまり心配はしていない。

到達者が居ない関係で、《簒奪の聖眼》による上昇補正が望めなくなるのは残念ではあるのだけどね。


 若干話は逸れたが、そんな訳で先生が作るレベルの魔法が付与された品が今回用に次々と作成される事にレックスは呆れを含んだ笑いを浮かべている。

この品と同等の物が王城関係者に与えられている量を考えれば、その反応は当然とは言えるものなのだけどね。


 何故なら、数千人の王城関係者、数万人の王国関係の兵全てに魔法が付与された装備が行き渡る事は有り得ない。

普通の付与魔法使いのMPでは一日で一~三個付与出来れば良い方だからだ。


 それに加えて素材の確保にも問題が有り、魔法物質を含んだ素材を必要とする為にそちら自体も集まらないだろうし金額も恐ろしい物になる。

しかも、多くの《付与魔法》使いは同時に《錬金術》も使う。

その結果、高価な素材で魔法の付与された少数の装備よりも魔法の回復薬などを大量に作る方を優先するのは当たり前であり、レックスの様な一部隊長クラスでは本当に少数だけが下級の品を貸し与えられ、先生が製作する様な上級の品は一つも貸与たいよされてはいないとの事。

要は、本当に限られた人しか私が作るクラスの品を持っていないのだ。


 その上、魔法使い系はメイド服の外布を外せば十分に仕事でも使える布製装備として使えるのだが、流石にレックス達では色々と使い勝手に問題が出る為、後で今仕事で使っている装備と同じ形状の物を別に作ると言ってある事も呆れられている要因であろう。


 だが、そんな事は気にしない!

ぶっちゃけると、迷宮の事を教えている時点で私達の協力者として取り込む気満々なのだ。

この程度の事を隠す意味はもはや無い。

というか、早めに教えておく必要がある事とすら言えた。


 そんな訳で、


「おう! それにしてもルーク、ミルファのこの姿を完全スルーとは……お前は大物だな!」


といった、調整が終わったレックスがルークに余計な事を言ってミルファにぶん殴られている事とかは放置し、この後も続く大量の執事服作製に入った。


 当然なのだが、この恐ろしい数を製作出来ている裏には亜人部隊の活躍がある。

魔素のお陰で疲労をほとんど感じないとはいえ、彼らの働きに感謝しながら延々と作業は続く……。

それこそ寝る時間になるまで…………。


 ぶっ続けでやりすぎだとルークに怒られたのは言うまでも無い!

集中し過ぎました!!

だが、反省はしていない!!!

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