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第31章 二つ目の恋

第31章 二つ目の恋


アンドレイはついに、この世界の過去の真実を知った。

彼が生きている現在の世界は、6000年以上も前に存在した古代文明の“影”にすぎないのだと理解した。


当時の世界は高度に発展していた。人々は強大な技術を持ち、都市は想像を絶するほど繁栄し、魔法もまた現代の存在たちが夢見ることすらできないほど進んでいた。


しかし、それらはすべて消え去った。原因は謎の老人だった。

その力は、アンドレイがこれまで見てきたどんな存在よりも遥かに上だった。


英雄として語られるアンドレイですら、その老人の前では弱者にすぎないように感じられるほどだった。

その存在の伝説は謎に包まれていた。どこから来たのか、何を目的としていたのか、なぜ世界を終わらせたのか——誰も知らない。


確かなのは一つだけ。その老人は6000年以上前にすでにこの世界から消えているということだった。

痕跡も、名前も残っていない。まるで最初から存在しなかったかのように。


しかし、その力の記憶だけが世界そのものに深い傷を残していた。

アンドレイはそれをはっきりと感じ取っていた。もしその存在が再び目覚めるようなことがあれば、世界は再び計り知れない危機に直面するだろう。


アンドレイはほぼすべての魔力を使い切っており、転移を使うこともできなかった。


——風の主にて——


アンドレイは風の流れに乗りながら空を駆けていた。

世界が風と光の渦となって流れていく。空はどこまでも広かった。


そのとき、風の中にひとつの影が現れた。


アリサだった。彼女は自分のファミリアに乗ってこちらへ向かっていた。


一見すると馬のような姿だった。だが違う。翼はなく、ただ魔力によって空を滑るように移動していた。音もなく、思考だけで操られている存在だった。


ファミリアが地面に降り立つと、アンドレイはその背から伝わる軽い振動を感じた。アリサは飛び降り、怒りに満ちた目で彼を睨んだ。


「つまり、私をただ利用しただけなの?」

彼女は怒りを込めて一歩近づく。

「世界の情報を得るために?最低ね!」


しかしアンドレイの姿を見た瞬間、彼女の怒りは少しずつ揺らいだ。

そこにあったのは疲れ切った、しかし逃げない強さを持つ姿だった。


「……どうしたの?」とアリサは声を落とした。


「アリサ……」

アンドレイは一歩近づく。言葉は重く、しかし真実だった。

「過去を見た。限界まで……」


彼女の目が大きく見開かれる。驚きと興味が混ざり、空気が一瞬止まったように感じられた。


見た目上、アンドレイは変身しており普通の姿だったが、その内側は限界まで消耗していた。

過去への旅は精神を削り、失われた時代と存在の記憶が重くのしかかっていた。


アリサはその疲れを感じ取り、旅を止めて野営を作った。


二人は焚き火の前に座った。炎が柔らかく顔を照らす。


アンドレイは静かに彼女の膝へ頭を預けた。

アリサはそっと手を置き、優しく髪を撫でた。


「この世界は……」アンドレイが静かに言う。

「6000年以上前は、今とは違っていた。エルフは突然現れた存在じゃない。最初からそこにいたんだ」


彼は目を閉じた。


「世界の記憶は消された……誰も覚えていない。すべてが消えた。痕跡すらほとんど残っていない」


焚き火の音だけが静かに響いた。


やがて朝が来た。


アンドレイは目を覚まし、隣に眠るアリサを見た。

穏やかな寝顔に、彼は一瞬だけ動きを止める。


「おはよう……」彼は微笑む。

「ずっと、そばにいてくれたのか?」


アリサは眠たそうに目を開ける。


「うん……あなたが安心できると思って」


二人は火のそばに座った。


「昨日のこと、覚えてる?」とアリサ。


「うっすらだけど……覚えてる」


アンドレイは彼女の手に触れた。


「覚えてるよ……君の膝の温もりとか、声とか。全部、少し楽にしてくれた」


そして彼はそっとアリサに口づけした。


彼女は驚いて固まったが、やがて静かに応えた。


世界は止まったように静かになり、焚き火の音だけが残った。


離れたあと、アリサは小さく笑いながら言った。


「……あなた、意外と積極的ね」

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