(3)天空神トリシア
私は、天空を司る神のトリシアです。
当時の事を思い出せる範囲で思い出しますと、突然背後から何者かに襲い掛かられたのです。
神である私の領域に侵入できる程、そして私に気配を掴まれずにここまで近接できる事から、いくら私が神としては幼いとしても、同格以上の存在が襲ってきている事は分かります。
その相手がだれか分かった時は、既に私には制約がかけ始められていた所でした。
そう、相手は魔を司る魔神だったのです。
魔神の制約は、複数ありました。
10年に一度、数人の異世界人を、時空を超えて召喚する事。
その人達に、天空神の力の範囲内で三つ願いを叶える事。
魔王と名乗っている魔神討伐をさせる様に説明する事。
核心に繋がる真実を決して話してはいけない事。
天空から出てはいけない事。
天空は虚無の空間とし、範囲も狭くして過ごす事。
笑顔で対応する事。
この制約のせいで、あまりにも長い間三つの願いをかなえる事に慣れてしまい、原因はよくわかりませんが、あの空間では一人に三つ以上の願いを叶えられなくなっていたのです。
この神々の制約には必ず解除条件が必要な事くらいは、いくら幼い神である私でも知っています。
ですから、その解除条件として“真実を話さない事”に関連する事で交渉する事にしました。
ある程度の説明が終わった後に、召喚者側から願いとして真実を語る様に言われた場合が解除条件となる様にしたのです。
私は、何とか最後の砦だけは守れたと思っていましたが、そう甘くはありませんでした。
本当に嫌々ながらも契約には逆らえずに初めて召喚した人達は、貴族・王族になりたいと言う欲望を露わにし、あの世界で我儘放題のまま生涯を終えていました。
本当に一部の人は魔王討伐に向かったのですが、初めて得た力が周囲の冒険者と呼ばれる人々よりもはるかに強い力であった事から傲慢になり、碌に鍛錬もせずにいたため、あっという間に魔王の糧になってしまったのです。
これ以降、私は送還先の王都以外の観察を止めました。
無理に人々を召喚している立場であり、その方達がどうなるか……結果を見たくなかったのです。
神でなければ、神を消滅させる事が出来る可能性はあります。
私が召喚してしまった人達の中で誰かが魔神を討伐して下さればと願ってはいますが……魔神が消滅すれば私に課された制約は解除されるので、今尚制約に縛られていると言う事は、未だに魔神が生きていると言う事です。
こうして数千年は経過したのでしょうか。
もう数えるのもバカバカしくなり、大体数千年だと思いますが、10年毎に時空を超えて召喚させられると言う苦行を続けていました。
初めて行った召喚時点である程度条件が確立されていたので、とある時代の特定の国……日本と言う国からランダムで召喚をさせて頂いておりましたが、その方達は何故か誰も得ていないはずの魔法の力に詳しい方が多いのです。
その為、私の知り得ない異世界の知識があるのでは!と一瞬期待した時も有りましたが、中途半端な知識は有りますが、それだけです。
恐らく何かしらの媒体で、このような魔法があれば良いな!と言う情報が出回っているのでしょう。
今迄の経験から、召喚された誰しもが行う願いはある程度把握できてしまいます。
もう聞かなくてもわかりますが、送還先の世界の情報、叶えられる願いの種類、日本への帰還、時折優雅に暮らす方法、つまりは上位の立場になれる方法、絶対的な力。
こんな所ですね。
魔神からの制約を受ける時に必死で対策した、願いによって真実を聞いてくれる人は数千年の中で誰一人としておりませんでした。
誰もが私の偽りの笑顔に騙され、本心を汲み取ってくださらないのです。
割と魔神があっさりとこの条件を認めたのは、こうなる事を知っていたのかもしれませんね。
私は正直、一回目の召喚で真実を聞いて下さる方がいらっしゃるかと期待していましたが、現実はとても辛い結果になってしまいました。
そうなると何もない虚無とも言えるこの天空で孤独に耐えながら、10年に一度拉致とも言える召喚を行い、魔神の糧を送り込んでいたのです。
もう何組目かの召喚かもわからないある時、いつもと違うパターンが起こりました。
六人を召喚してしまったのですが、手前から五人の願いを聞いた後に、最後の一人を無視するようにさっさと送還しろと言ってきたのです。
間違いなく今迄確立した召喚方法を実施しているので、日本と言う国で互いに知り合いである事は間違いないはずですが、一人だけを見捨てる様な事を平気で伝えてくるのですから驚きです。
そして残される立場の一人も平然とその行為を認めて、本当に一人だけ私と共に、この虚無の空間になってしまっている天空に残されたのです。
今までにない事が起こったので少し不思議になってしまいましたが、願いは同じだろうと話を進めようとしたのです。
いくら回数をこなしているとはいえ、やはり拉致の上に魔神の糧になる可能性が高い事を説明も出来ずに送り出す事は心を抉られますが、仕方がありません。




