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元婚約者は私を四番目の妻としてご所望です。  作者: 酔夫人(綴)
番外編
19/23

俺のなんちゃって皇妃(1)

本編完結後のストーリーです。

皇帝カダル視点です。

「どうしたのだ?」


明らかに俺に聞こえるように吐かれた女性の溜息……訊ねたくはないけれど、訊ねない方が面倒になることがヒシヒシと感じる。ため息の主は風の侯爵家次女のフィーア……さっきより大きなため息が実にわざとらしい。


「陛下……私の好きなことを御存知ですか?」

「金儲け」


運送業を営むフィーアは「王城が最も搬送品が多い」という理由で俺の皇妃になったのだから。


「当たりです。では2番目に好きなことは?」

「……知らん」

「冷たい夫ですわ」


何が夫だ、俺のことを「歩く財布」としか思っていないくせに……と思いもするが、フィーアの気性は俺にとって好ましい。


フィーアの恋する相手は金であり、俺に対する恋心など一片もなく、俺に求めるのは恋や愛ではなく投資のみ。金や物を強請らないのは自分で買う方が性に合うらしい。


妖精のような儚げな見た目で外宮の者たちは「守ってやりたい♡」と言っているが、賭けてもいい。守ってもらうのはお前たちだ。


「陛下、私が2番目に好きなのは恋人の観察ですわ。純愛、不倫、愛憎劇……なんでも好んで拝見しております」


……要は『のぞき』ではないか?


「まあ……『のぞき』だなんてはしたない。素敵な御婿様を探すための学習の1つですわ」

「俺の頭を読むな、そして不倫はやめておけ」


フィーアは『御婿様を探す』と言っているが、俺の後宮に来た2番目の理由は誰にも邪魔されずに仕事をしたいからである。24時間金儲けの手段を考えているから俺などお呼びでは無いと、婚姻式後の最初の初夜で言い渡されている。


ちなみに俺とフィーアは白い結婚、だからいつかこの結婚は無効になる。


初夜も床を共にせず、初夜を含めて一緒に過ごす時間には俺もフィーアも誰かを同席させている。お互いに相手のことは信用しているが、万が一にでも自分の結婚を邪魔したら末代まで祟ると言われているし、俺もそれは望まない。


「それで……素敵な御婿様は見つかったか?」

「リディア様が立后なさったら探しますわ……風の一門も皇妃候補を出し尽くした感がありますし」

「それは済まない」

「いえいえ」


フィーアがその気になれば素敵な御婿様は直ぐに見つかるだろう……守銭奴だが根は良い奴だし、俺より2歳上のいき遅れだが見た目は10代と言っても問題ない。


「陛下……聖魔法の結界って風のかまいたちを防げるのですか?」

「……すまない、失礼過ぎることを考えた。で、恋人の観察の話だったな」

「そうそう。私、最近はリディア様とその恋人の観察をするのが好きですの」


「……それ、俺だよな?」

「さあ、どうでしょう」

「今度北から来る商団は良い馬を揃えているらしく、どこか良い商売相手はいないかと相談されていてな」

「陛下ですわ」


……手のひら返すのが早いな。


「普段は氷対応の怜悧な美丈夫が最愛の方だけ溺愛する姿に萌えるのですわ……《カタオモイ》で溺愛なんて、それだけでお酒を5杯は余裕で飲めますわ」

「片思いか?」

「いえ、片重い……愛の重さの天秤が陛下の方だけかなり重いので、命名は火の皇妃様です」


片思い、いや片重い……地味に凹む。


「陛下ががっつき過ぎるからリディア様が引いていらっしゃるじゃなくって?先日サロンで口付けを交わしていらっしゃいましたが、あれ、リディア様は確実に逃げていらっしゃいました。陛下、捕食者の雰囲気で迫り過ぎなのでは?怖がられますわよ」

「……見てたのか?」

「言っておきますが先客は私たちです。リディア様の驚いた可愛らしい顔が見たいと思ってサロンに隠れていたら陛下がリディア様を連れ込んで……」


人聞きが悪い……が、確かに法律を変えて皇帝のサロンの出入り禁止が廃止されたからいい気になっていたかも……いや、いい気になっていたに違いない。


「しかし……なぜ夫婦で別の妻の話をしないといけないのか」

 

今までフィーアと会う夜は別名『定期報告会』。今までは事業の計画書や予算案を見せられながら財布を狙われたが、最近ではリディアの話一色だ。同じ男を夫としていることを忘れているようで、リディアをひたすら愛でている。


「あら、失礼。それではリディア様が最近お買いになった夜着の話はやめておきましょう」

「いや……それは別だろう」

「なぜですの?」


いや……理由は分かるだろう、成人したいい大人なのだし。


「私と色違い……「その情報は不要だったな」……にしようとしたのですが、私には少し大胆かと思って止めておきました。あ、リディア様にはしっかりお勧めしましたわよ。赤い顔でご注文なさって……ふふふ、ごちそう様でしたわ」

「兄上のところに送る荷物は全てお前の商会に任せることにしよう」


フィーアの笑顔にこれが狙いだったかと肩を落とす……ああ、リディアに癒してもらいたい。


「陛下、明日は午後からお散歩なさるとリディア様に会えるかもしれませんわ」

「……ありがたいが、その根拠は?」

「私とサロンでお茶会するからに決まっているでしょう?いま風の宮は料理人が獅子奮迅の勢いで焼き菓子を作っておりますの」

「……そんなに食うのか?」

「4人分ですもの」


……俺の皇妃は皆仲が良いなぁ。


先日侍従長に読まされた恋愛本は友だち同士で1人の男を取り合っていたが……国で一番ドロドロとした、血で血を洗う女の戦いが繰り広げられていると思われている後宮はいたって平和だ。


「まあ、こんな風に楽しめるのはリディア様が立后なさるまでなのでしょうね」

「リディアが皇后になったら風の侯爵邸に戻るのか?」

「陛下に未練があって居残っていると未来の御婿様に誤解されたら嫌ですもの。でも……長くいる分、少し寂しいですわね」


フィーアの瞳が寂し気に揺れる。


「リディアもそなたのことは理解しているし、姉として慕っている様子も見られる。そなたさえ良ければ皇妃ではなく、リディアの相談役として王城に残っても……くそっ」

「言いましたわね♡」


やられた。


「サシャ様が相談役案を出したのですが、流石に元妻がそれになるのは嫌なのではないかと懸念しておりましたの……ふふふ、杞憂でしたわね」

「……3人も相談役がつくのか?」

「曜日ごとの交代制でもよろしくてよ?」


リディアが皇后になる日が待ち遠しかったが……少しだけ怖いな。


「リディア様もお若いですし、立后まで未だ余裕もありましょう?その間に私たちも素敵な御婿様を見つけて其方に夢中になるかもしれませんし……ああ、でも」

「何だ、“でも”とは?」


「陛下も若い男性ですし、週一は辛いのではないかというのが私たちの見立てでして」

「……余計なお世話だ」

「まあ、3年間も我慢なさったのですしね」


……どこかに素敵な御婿様が転がっていまいか?


「フィーア、そろそろ自分の恋路を開拓してはどうだ?」

「仮にも妻に対して冷たい御言葉ですわね……陛下の恋路があまりにも悪路だから手を貸したのに……まあ、今までの恩はきっちりお金で返ってきているので文句は言いませんわ」


フィーアの信条は『ギブ・アンド・テイク×2』らしい……本当にちゃっかりしている。


「陛下の恋路がもう少し整備されたら……そうですわね、口付けのときにリディア様が安心して体を預けられるようになったら私も恋を探しましょう」

「……逃げている、か?」

「気づかない振りをしてもダメですわよ?」

「……分かってる」


思わず不貞腐れて答えた俺にフィーアが大きなため息を吐く……なんだろう、かつて乳母に説教される直前の雰囲気に襲われる。


「陛下……夫婦だからと気安く情愛を求めるのは結構ですが、所詮今のままでは義務感のみ。男女の間で一番大事なのは信頼ですわ。信頼なくば恋も愛も始まりません」

「フィーア……お前は何歳(いくつ)なんだ?何か……酸いも甘いも経験した婆みたいな言葉だぞ?」


俺の言葉にフィーアの目がスッと細まり、拙いと思ったときには遅かった。フィーアはそれはそれはきれいな笑みを浮かべ、


「それでは陛下。陛下の側近の方……そうですね、侍従長辺りを紹介して下さいますか?」

「お前……侍従長が好みなのか?」


柔和な顔立ちの兄とは違い怜悧と評される俺は部下たちに非常だの冷酷だの言われるが、一応自分の部下は大事にしているつもりだ。侍従長だって……こんな猛禽類の生贄にするのは申し訳ない……いや、あいつがそんな簡単に生贄になるとも……


「あの方と二人ならば楽しい人生が送れそうで……陛下で遊んだりとか」

「絶対にだめだ」

恋愛ヘタレのカディル、姉御肌のフィーアには精神的に敵いません。

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