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元婚約者は私を四番目の妻としてご所望です。  作者: 酔夫人(綴)
本編

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11/23

【幕間】復讐 ―婚約破棄の舞台裏

※性的な表現、残酷な表現があります。※


「レオノーラの御腹の子どもの父親」についての謎が解けますが、性的な表現や残酷な表現が苦手な方は読まないことをお勧めします(読まなくても話は分かります)。

「陛下、レオノーラ元皇妃様とその両親が面会を求めています」


侍従長の報告にカダルが顔を上げると、心底嫌そうな侍従長と目が合い苦笑した。


兄ナディルが皇帝のころから仕えている側近の侍従長は時計のように正確に仕事をするのを好む分、予定にないことで時間を取られるのが嫌いなのだ。


「俺も人のことは言えないがそんな顔をするな……そろそろ良い頃合いだろう?」

「そうですね……彼の方のことを考えるといい加減引導を渡したい気分でしたし、証拠もあるので……水曜日でもないので宜しいでしょう」


謁見室に移動したカダルは、従者たちが次々に並べる証拠品に満足気に頷く。そして従者の1人が幼い子のいる父親だと思い出し、彼を指名して訊ねる。


「俺の計算が違っていなければそろそろ腹の子が生まれる時期なのだが、そんな妊婦がのこのこ出歩いても大丈夫なのか?」

「あまり良いこととは言えませんね。予定日はあくまでも予定日、移動中に産気づいてしまうこともございます」


侍従の言葉にカダルは鷹揚に頷き、女官長を呼んで産婆の待機を命じた。そんなカダルに侍従長は「ほう」と呟き、


「随分とお優しいですね」

「親の愚かさに子は関係ないだろう?」

「レオノーラ様の不義の責任をとれと彼の方を脅した御方とは思えない発言ですね」


棘のある言葉にカダルは眉を顰ひそめてため息を吐き、 


「文句は何だ?今のうちに聞く……正直聞きたくはないがな」

「今まではほぼ不眠不休で書類の決裁をしていただけたため、彼の方が来られて決済が遅れがちになりました」


今日が水曜日じゃないから謁見が認められた理由を察したカダルだったが、理解や納得はしたくなかった。


「不眠不休でやらないと片付けられない書類の量が問題ではないのか?」

「大袈裟な、週休半日といったところです。それが嫌なら仕事を代行できる御子様をお作り下さいませ」


2人くらいいれば1日8時間寝られるという侍従長にカダルは冷めた目を向けて、


「その方法では改善まで15年はかかるぞ」

「それでは15年は週休半日で頑張ってくださいませ」


兄の親友の1人でもあるこの男にカダルは決して敵わないのだった。


 ***


「陛下、お逢いしとうございました。私は……」

「レオノーラ、再会を懐かしむ間柄でもないから本題に入る……呼んで来い」


カダルは片手をあげてレオノーラの言葉を遮ると、衛兵に控えさせていた囚人を連れて来させた。俯いていたためレオノーラ親子はそれが誰か分からなかったが、近衛兵が囚人の髪を掴んで上向かせて露になった顔に父と娘は同時に顔を強張らせた。


「元夫人は知らなかったのは意外だが、元侯爵(仮)とレオノーラは知っているようだな。この男、自分はカダルだと名乗っているのだが正直不快だ。本名を教えてもらえないか?」

「……なぜ私たちがこの男を知っていると?」

「おやまあ……随分とこの男の世話になっていたのに、あっさりと切り捨てるのだな」


純度の高い皮肉にレオノーラたちは体をびくりと震わせたが、頑として口を開く素振りを見せなかった。こうなると思っていたカダルはその点については特に咎めなかった。


「お前の腹の子も気の毒に」

「……?なぜ私の子が関係するのですか?」

「可笑しなことを言うな、この自称『カダル』はお前の子の父親だろう?この男がお前の寝所から出てくるのを多くの者が見ているのだぞ?お前が寝所に自ら招いたという証言も取れている」


カダルの冷笑にレオノーラは狼狽えたが、それでも「お腹の子は陛下の御子ですわ」と言い切るレオノーラの姿にカダルは一瞬目を見開き、ハハハと楽しそうに笑った。


「自分で張った罠に自分でかかっていたのか……それも何度も。俺の皇妃となって3年、お前はどれだけこの男に抱かれたのか……影からの報告に正確な数があったが興味がないので呼び飛ばしてしまった」


眼は冷たいまま「惜しいことをしたな」と笑うカダルにレオノーラは「影?」と首を傾げる。一方でその父親は影と聞いて心当たりがあったらしく顔を青くする。


「俺は護衛のため皇妃たち全員に影をつけている、これについては内宮の公式記録にも残っている。お前につけた影からの報告は過激すぎて女官たちの閲覧を禁止するほどだった。もちろん俺はお前の“夫”として全部に目を通してある……実に読み応えがあった」


クツクツと笑うカダルにレオノーラが何も言えずにいると、近衛隊長が表に出られない影の代わりに報告することを宣誓した。


「水曜日の夜、陛下が去って数分後に水の宮から女性の苦しむ声がしたため天井に潜んでいた影が室内に侵入したところ、レオノーラ元皇妃様と男が寝台で……絡み合っているところを発見。影は見守るのが本分であり、観察した限り元皇妃様も同意しているようだったためそのまま待機。男は二刻ほどその場におり、その間7回ほど……胎内に吐精したことを確認したそうです」


自分の職位を心底恨みながら近衛隊長は赤い顔で報告を終え、そんな部下にカダルは労いの言葉をかけて退室させた。


「夏の熱い時期に窓を開けながらは感心しないな。お前たちの逢瀬については護衛騎士の幾人もが目撃しているが……皇妃の密通は血が流れるからと黙っていたらしい。涙を流しながら不忠を詫びる姿に俺は感銘を受けて不問としたが……持久力はともかく技巧はなかったから、と慰められてしまったぞ」


男でも見惚れる端整な顔立ちと立派な体躯をしたカダルの嘲笑う声に、ひょろりと小さな自称カダルの顔が屈辱で赤くなる。


「レオノーラに限らず、俺が皇妃と過ごす時間は全て影たちに記録されている。もちろん俺が皇妃と寝所に入った時点で外で待機するように命じてあるが、いまの水の皇妃付き以外の影がその命令を実行したことはない」


リディア以外とは褥を共にしたことが無いというに等しい宣言にレオノーラの目が吊り上がる。


「そんな筈はございません。陛下は水の宮に来るといつも私を甘く融かし、この胎に寵をお与えになりました。湯浴みのときには侍女たちが私の体に咲いた無数の赤い花を見ておりますし、体から零れ出る種も……陛下、この子がその証。私たちが重ねた夜の、愛の結晶でございます」


そう言って満足気に膨らんだ腹を撫でるレオノーラに「直接的に言っても通じない場合はどうすうべきか」と侍従長に困った顔を向けた。カダルの要請を受けた侍従長はその場を見下ろし、ある一転を見つめて口の端を持ち上げる。


「レオノーラ元皇妃様を夜の褥で甘く融かし、その腹に熱を残す……報告に一部訂正が必要ですね。あの罪人は女性を満足させられる技巧をお持ちだったようです」

「……なるほど」


侍従長の目線をカダルが追ってみれば、古ぼけた囚人服を着ているにもかかわらずその男の顔は歓喜に輝き、その目はレオノーラを映して情欲に染まっていた。粘つくような視線をレオノーラの豊満な体全体に走らせては、膨らんだ腹部で止まり満足気に嗤う。


「そこの男……良いのか?お前の愛しい女は俺に抱かれたと思っているぞ?あの魅惑的な体に乗り上げ、体を暴きながら悩まし気な吐息を漏らさせ、脚の間に己を突き立てた男が誰か教えてやらなくていいのか?しがみ付いてくる白い体を押さえつけた力強さも、何度も突き上げて極上の甘美を教えたのが誰か」


自分を見る男の目に殺意と狂気がとぐろを巻いているのを見たカダルは満足気に嗤う。


「言えるわけがないな。お前の自慢の精神魔法が俺に跳ね返されて、あっさりレオノーラに欲情してあの体に圧し掛かったなんて。俺の名前を叫ぶ女を組み敷いて必死に腰を振っていたなんて……俺なら惨め過ぎて自決しそうだ」


カダルの言葉に男は歯をぎりぎりと鳴らし怨嗟の声を上げたが、恨みつらみはカダルも負けてはいなかった。


「最初の夜から俺の振りをしたことがレオノーラたちにバレたら命がないのに……なぜおまえは成功を騙ってこの女の傍にいたのか。理由は簡単だ。レオノーラを抱きたかったのだろう?腰に回った柔らかな脚、しがみつかれて押しつぶされた柔かな胸、子種を強請る甘えた声……そのために他の男の名を自分の名と思い耐えるとは健気というか、何というか」


悔しさが極まり噛んだ唇から血を流す男からカダルが視線を映せば、レオノーラ親子は呆然としていた。


溜飲が下がる思いにカダルは満足したが、喉の奥に残る苦味に眉を顰めた。

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