義務
一度でいいから、RPGの世界に行ってみたいですね。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9。生き残りの村人は9人…。30人ほどいたのに…」
ドフは泣き顔を隠すようにしゃがみ込んでつぶやいた。
「じーさん、じーさん、おーい。」
「んー」
蚊の鳴くような呻き声が聞こえる。意識を取り戻すのか?
「村長さんの意識、戻れば良いのですが……」
クルアが村長の顔を覗き込んで言う。
「クルア殿、さぞお辛いだろうにお優しい…」
ドフが顔をあげた。頰に一筋、涙の跡がある。
「いえ、私の泣き顔などもっともっと醜いので、そんなことでは姉が悲しむかと思いまして」
かなり動揺してるらしく、言葉が無茶苦茶になったりしている。
「突然村に赤い鎧を来た人達が来て、それでっ、村が、村が、燃え始めて、子供が、私のせいだわ。私が非力だったから……ごめん、許して、クロ…ぐすっ、ぐすっ」
赤い鎧の奴らが意図的に燃やした…何故?大して大きな村でもないようだし。うーむ、わからん。
「もしも、僕らがこの世界に来たのが原因だったら、僕らは邪魔者だ。留まってはいけない気がする。」
ノールが絶望した表情で言う。そうか、ドフも別世界から来たらしいからそれを狙われたのかもしれない。やはり、俺たちが旅をするのは使命というか、義務というか……
「そんな!そんなこと言わないでください。あなたがたは命の恩人です!」
村人が口々に言う。
「では、命の恩人の頼みごと、聞いてはくれぬか?我らは旅に出る…」
ドフが泣きながら無理矢理笑う。
「ドフ様…では、せめて少しでも恩返しをさせてください!」
村人は話し合うが、異世界から来た人の好みなどがよくわかっていないらしい。
「あの、お二人はジョブが無いらしくて、それを授けるのは如何でしょうか?」
クルアが声を張る。
「むー、な、何があったのじゃ?!」
足元から声がした。村長が目覚めたらしい。
「村長!!!」
ドフと村人が泣きそうになって(一部泣いている者もいた)村長に駆け寄った。そして、今までの経緯を説明した。
「わかった。では、お礼にジョブを授けよう」
この世界では1人につき1つ適するジョブがあり、稀に他人にジョブを与えられるジョブの人がいるという。それがこの村長だと言うのだ。ここの村人は凄い。村長が意識を取り戻すのかわからないうちに俺たちにジョブを与えることを決めたのだから……。
「ドフ、お前のジョブは何だ?」
「我は剣士だ。特殊能力として雨乞いが使える。」
今回はその雨乞いに救われたと言うわけか。村長の前へと歩く。村長の手が俺の額に触れた。
「キュウリさんのジョブは格闘家のようじゃな。」
えー?!格闘家?!多分、俺は格闘技知らないぞ?前も言ったと思うけど。
「ノールさんのジョブは………。」
村長が黙り込んだ。
「あの、村長さん?」
「覚悟して聞くのじゃ、そなたに適するジョブは無い。しかし、適するジョブがないからと言って戦えないわけでも、強くなれないわけでもない。村の言い伝えではあるが、ジョブ無しの人間が村に迫る魔物を片付けのじゃからな。だから、オールラウンダーだと思えばいい。」
一瞬ノールの目から輝きが失せた。しかし数秒後に
「オールラウンダーっていいですね。」
と無理矢理に笑っていた。でも手が震えていた。
キュウリ達の旅は長引きそうです。最後まで見守って頂けたら幸いです。