初めての会話
それから春也は桜泉に会うのが怖くなってしまった。自分でも情けないと思っている。
『(でも、また桜泉に来ないでって…)』
桜泉が悪い。とでも言うような考えになってしまったが、また彼女を傷つけたくなかった。
病院では
『(春也…今日、来ないのかな)』
桜泉は読んでいた本を机の上に置いて窓の外を見た。
『(外行きたいな。)』
ここ数ヶ月外に出ていなかった。まだ、外出許可が降りていないため、出てはいけなかった。
そして次の日の木曜日。桜泉は3回目の声帯手術を行った。この手術で一応掠れたような声は出ると桜泉は聞いていた。
だが、春也はそんなことを知らなかった。
木曜日
『最近、藤本のお見舞い行ってないけどいいのか?』
昼休み、友人に桜泉のことを聞かれた。
『あ…えっと…もう来なくていいって…』
春也は桜泉がリストカットしていた。ということを言うのを控えた。
『マジでー?!よかったなー!気が楽じゃん』
友人に背中を叩かれて飲んでいたコーヒー牛乳を吐き出しそうになった。
『ゲホッ…気は楽じゃないけど…。このまま行かなくていいのかって後悔もあって…』
『俺は絶対に行かない!来なくていいって言われてんのに来たら迷惑なやつって思われるだけだろ?そんなのもう行かなくていいに決まってんじゃん。春也は本当に真面目だよなー』
友人はガハガハと笑いだした。
『そ、そうかな…。』
『毎日通うの大変だっただろぉ?もう辛い思いしなくて済むんだぜ?よかったな』
そういうとまた友人は笑いだした。
2時。3回目の手術は成功に終わった。
『1回、喋ってみて』
病院の先生に言われて桜泉は緊張しながらも口を開けた。
『ぁ……!!』
小さくて掠れた声だったが、確かに声は出た。
桜泉は嬉しくて泣いていた。
看護師さんや先生は拍手をしてくれた。
『よかった!他にもなにか喋ってみたら?』
『ぁり…がとぅ…ござぃましたぁ…』
『いえいえ。でも、手術はこれで終わりじゃないからね。本番は今年の冬だから。そのときも頑張ろう』
先生は手を伸ばした。桜泉はその手を掴んで握手した。
桜泉はすぐに母親に連絡をした。
数十分すると母は仕事から抜け出して桜泉に飛びついた。
『桜泉!!お母さんって!お母さんって言ってみて!』
『ぉ…かぁ…さん…』
『もう…本当に嬉しい…』
母親は桜泉を抱きしめた。
『お母さん、今日のことは絶対に忘れない。それだけでも充分だからね…。』
『ぁりがとぅ…。次の手術も…頑張るね…』
『うん!頑張って…!』
それから30分間だけ桜泉は母親と話した。
『それじゃあ、仕事に戻るね。なにかあったら電話かけてきてね!』
桜泉は『電話できるんだ!』と声を出した。
夕方。
『また…春也こなかったなぁ…』
桜泉はまたポタっと目から涙が出てきた。
そして桜泉は目の前の携帯に目が止まった。
『電話……!』
桜泉は携帯を持ってナースステーションに急いだ。
『あの…電話…したぃ…です…』
まだ言葉が片言だが看護師さんは理解してくれたようで『桜泉さんの部屋はお1人だけなので病室でしてもらって構いませんよ。』と言った。
桜泉は病室に戻って窓の前でLINEを開いて春也のプロフィールを開いた。
『(ふぅ…大丈夫だよ…)』
自分に言い聞かせると電話ボタンを押した。
『え!?…桜泉から!?』
春也は震える手で応答ボタンを押した。
『桜泉!?喋れるようになったの!?』
『…ご…めんね…』
『え…?』
桜泉は久しぶりに春也の声を聞いて全身の力が抜けてその場に座り込んだ。
『なんで謝るの?喋れるようになったことすごいことじゃん!!!』
春也は明るい声で言った。
『たくさん…めぃわく…ごめんね…』
桜泉は泣きながらそう言うと続けて
『春也が…病院来てくれなくなって…嫌われたかなって…思った…。私が…あんなふうに…リストカットしちゃったり……急に怒ったり…なったから…一緒に…いたくないって…思ったの…。ごめ…んね…』
自分でも何言ってるのかわからなくなっていた。




