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地獄の沙汰も愛次第  作者: 秋良 きら
番外編1
4/4

ネムリヒメ



カーテンから漏れる光を感じて目を覚ました。

横にはひかちゃんが気持ちよさそうに眠っている。

布団から出ている肩を一撫でして、寒くないように布団を肩まで引き上げた。それを知ってか知らずか、ひかちゃんは柔らかく笑った。

嗚呼、可愛い


こんな穏やかな気持ちになったのは生まれて初めてだ。否、ひかちゃんと出会ってからはこんな気持ちになることが多い。

その優しい時間を壊すように、枕元のスマホが震えた。思わず舌打ちをする。

スマホを手に取り、ひかちゃんを起こさないようにベッドを下りて廊下に出る。


「もしもしー?」

「渡辺です。先週に任された件でお電話しました」

「先週―…何だっけ?」

「家に押しかけて来た女のことです。」

「あー、あれねー。」

「下の連中に遊ばせた後は店に送りましたので、ご報告します。」

「薬は?」

「使いました。」

「そ。ごくろー様。」


まだ何か言っている渡辺を無視して電話を切る。

あの女のことはすっかり忘れていたが、そんなこともあった。

あの女のおかげで、ひかちゃんに「好き」と言ってもらえたから命だけは奪わなかった。まあ、死んだ方がましだと思うような目にあっているかもしれない。


部屋に戻ると、ひかちゃんはまだ眠っている。

その姿が、出会いの時を思い出させた。

コンクリートに横たわっている彼女を見たとき、何故だか分からないけれど泣きたくなった。

ずっと昔になくしてしまった宝物が見つかった気がした。



子どものころの俺は「眠れる森の美女」が好きだった。

とても病弱で、幼稚園にも行けずにずっと家で過ごしていた。家に居るのは俺の他に面倒くさがりのお手伝いだけ。

両親は自分の子どもに興味はない。あるのは自身の研究の結果だった。

だから俺は一人で本を読んでいた。最も好きな本が「眠れる森の美女」だった。今思うと、あんな少女趣味の本が好きだったのか謎に思う。もしかしたら、眠りについてしまったお姫様と、ベッドの上で生活している自分とを重ね合わせていたのかもしれない。


夢見がちな俺は、王子様がお姫様を深い眠りから目覚めさせたように、誰かが俺をこの無機質な部屋から連れ出してくれるのではないかと信じていた。

結局、そんな夢物語は叶うはずもなく、年齢と共に体は強くなり、俺は自分の力でベッドから抜け出すことができるようになった。


外に出るようになって、しばらくは楽しかったように思う。

同年代の子ども、勉強、公園、学校など、全てのものが俺を刺激して興奮させた。

しかしそれも長くは続かなかった。いつの間にか、俺は再び退屈に飲まれてしまった。

他の奴らと一緒に居てもつまらない、勉強はすぐに理解してしまい教えてもらわなくなって問題が解ける。いつの間にか世界は色をなくして、現実味がないまま日々は流れて行った。

これじゃあ、ベッドで本を読んでいたころと何も変わらない。

暇つぶしにグループに入っても、女で遊んでも、退屈なままだった。


そんな時、山咲にあった。

アイツは俺と同じだと思っていた。

だって同じ目をしている。世の中が、生きていることがつまらないと思っている目だ。

そんなアイツに俺はいつの間にか同族意識みたいなものを抱いていた。

しかしある日、山咲は仲間ではなくなっていた。

女がアイツを変えたらしい。

興味が湧いたので、喧嘩が多少強いだけのバカなトップに適当に吹き込んで山咲の女を攫ってきた。その時にたまたま巻き込まれてしまったのが、俺の愛しい愛しいひかちゃんだ。

この「たまたま」に俺は感謝しなくてはいけない。


冷たいコンクリートに横たわっている彼女は、まぎれもなく俺だけの眠り姫だった。

俺は王子様なんて柄じゃないけど、彼女を目覚めさせるのは俺だと直感した。

否、そうじゃなかったのかもしれない。

俺をこの色のない世界から目覚めさせてくれたのは、ひかちゃんだ。


だから彼女は俺だけの眠り姫。

そして彼女は俺だけに真実の愛のキスをくれる王子様。


無理やりひかちゃんの恋人になった。こんな出会いじゃなければ、想いが通じ合ってから恋人になりたかったが、仕方がない。

俺も焦っていた。

しかし確かな確信があった。彼女は俺を好きになる。

俺には彼女だけなように、彼女にも俺だけだ。

そしてその確信は現実になった。


ひかちゃんが、俺に好きだと言ってくれたのだ。

俺はひかちゃんに嫌われたのではないかと、プライドなんて忘れて泣いている時のことだった。

幸福だった。今まで生きて来た中で一番幸せだった。

ひかちゃんだけが、俺に幸せを感じさせてくれる。



しばらくひかちゃんの寝顔を眺めていると、ひかちゃんんがゆっくりと目を開けた。しばらくぼーっとした後、俺と目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らす。


「身体は平気―?」

「うん…」


ぎこちなく動く彼女の横に腰かける。

着替えを終えた彼女は、そっと俺の肩に頭を乗せた。

甘えているのだ。凄く可愛い。


「ひかちゃん」

「なに?」

「好き」

「…私も、すき」


耳まで赤くなりながら、そう答えてくれる彼女が愛おしい。



(ずっと、俺だけのひかちゃんでいてね。


じゃないと、俺は・・・)



ここまで読んでくださってありがとうございました

あんまりヤンデレが出てないですね。

本当は外堀埋めたり、邪魔ものを排除したり色々としてる歩くんなんですけどね。

恐らくは番外編もこれで終わりとなります

気が向いたら大学生の二人を書くかもしれません。そうなればヤンデレを全開にさせたいですね

ではでは

お付き合いくださりありがとうございました!!

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