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第一話「落ちてきた白い機体」

 空が、燃えていた。


 地球低軌道上に浮かぶスペースコロニー《セレスティア7》の夜空には、無数の流星が降っていた。

 けれど、それは願いを叶える星ではない。


 破片だった。

 戦艦の装甲。

 モビルスーツの腕。

 誰かが帰るはずだった脱出ポッド。


 十五歳の少年、ユウリ・アマギは、避難シェルターへ向かう人波の中で立ち止まっていた。


「ユウリ! 何してるの、早く!」


 幼なじみのミナ・カシワギが叫ぶ。

 彼女の顔は煤で汚れ、目だけが涙で濡れていた。


 だがユウリは動けなかった。


 空の裂け目から、白い機体が落ちてくるのが見えたからだ。


 それは量産機ではなかった。

 ジムでも、ザクでも、ニュース映像で見た連邦軍の新型でもない。


 人の形をした、白い巨人。


 背中には折れた翼のようなスラスター。

 胸部には青い装甲。

 額には一本のアンテナ。


 その姿を見た瞬間、ユウリの胸の奥が不気味に震えた。


 まるで、その機体が自分を呼んでいるようだった。


「……ガンダム?」


 誰かが、そう呟いた。


 次の瞬間、コロニーの外壁を突き破って、黒いモビルスーツが三機侵入してきた。


 鋭い肩。

 単眼のカメラ。

 手にしたビームライフル。


 難民たちの悲鳴が、通路を満たす。


 黒い機体の一機が銃口を下げた。

 狙いは軍施設ではない。

 避難民の列だった。


「やめろ……」


 ユウリの声は震えていた。


 敵機のモノアイが赤く光る。


「やめろって言ってるだろ!」


 その時、白い機体の胸部ハッチが開いた。


 ユウリは走っていた。

 なぜ走ったのか、自分でもわからない。

 恐怖で足がすくんでいたはずなのに、体だけが勝手に動いた。


「ユウリ!」


 ミナの声が遠ざかる。


 格納庫の床に半ば埋もれた白い機体。

 その掌に飛び乗り、腕を伝い、胸部コックピットへ滑り込む。


 内部は暗かった。


 古い革と金属の匂い。

 計器は沈黙している。


 シートに座った瞬間、全身を冷たい電流が走った。


『生体認証開始』


 女性の声が響いた。


『パイロット適合率、七十二パーセント』


「何だよ……これ……」


『機体名、RX-93Ω――ガンダム・オルフェウス』


 モニターが一斉に起動する。

 外の景色が、ユウリの視界いっぱいに広がった。


 黒い敵機が銃を構える。

 ミナたちがいる。


 ユウリは震える手で操縦桿を握った。


「動けよ……!」


 機体は動かない。


「動け! ガンダム!」


 その叫びに応えるように、白い巨人の瞳が光った。


 ガンダム・オルフェウスが立ち上がる。


 格納庫の天井が崩れ、警報が鳴り響く。

 黒いモビルスーツのパイロットが驚いたように後退した。


『未登録パイロットによる戦闘行動を確認』


「知らないよそんなの!」


 ユウリはペダルを踏み込んだ。


 ガンダムは前へ出た。

 重い。

 怖い。

 視界が速すぎる。


 敵のビームが飛ぶ。

 肩の装甲が焼け、衝撃でユウリの体がシートに叩きつけられた。


「うわあああっ!」


 だが、白い機体は倒れない。


 右腕のシールドが展開する。

 左腰からビームサーベルの柄がせり上がる。


 ユウリはそれを掴ませた。


 青白い光の刃が、暗い格納庫を照らした。


 黒い敵機が迫る。


 怖い。

 逃げたい。

 でも、後ろにはミナがいる。

 避難民がいる。

 このコロニーで生まれて、何も選べなかった人たちがいる。


「来るなあああああッ!」


 ユウリは滅茶苦茶にサーベルを振った。


 白い光が黒い装甲を裂く。

 敵機の腕が吹き飛び、爆炎が通路を赤く染めた。


 それは初めての戦闘だった。

 そして、初めて人を殺した瞬間だった。


 コックピットの中で、ユウリは荒い息を吐いた。


 勝った。

 そう思った直後、通信が割り込む。


『オルフェウス、応答しろ。こちら地球連邦軍特務艦アスクレピオス


 ノイズ混じりの声。


『その機体を渡せ。君が乗っていいものではない』


 ユウリはモニターの向こうを睨んだ。


 黒い敵機はまだ二機いる。

 コロニーは崩れかけている。

 ミナは泣いている。


 なのに、大人たちはまた命令だけを投げてくる。


「だったら……」


 ユウリは操縦桿を握り直した。


「だったら、最初からこんなもの作るなよ!」


 ガンダム・オルフェウスの背部スラスターが青く燃える。


 白い巨人は、燃える空へ飛び出した。


 少年はまだ知らない。

 その機体が、かつて一つの戦争を終わらせるために造られたものだということを。


 そして今度は――


 新しい戦争を始める鍵になるということを。

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