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さすらいのロザリー  作者: 村松希美


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第一幕 第五章 下町の出会い




酒を流した事件の後、ロザリーに許された世界は、窓のない食料貯蔵庫と、ゴミ捨て場に続く裏通りの往復だけになった。


「家畜の方がまだマシなもんを食べてるよ」

エレンが投げ捨てたのは、カビの生えたパンの欠片と、泥水の混じったスープ。ロザリーはそれを拾い上げることすら屈辱に感じながらも、生きるために、震える指で口に運んだ。


(私は、死ぬために酒を流したんじゃない。生きるために、怒ったんだ……)

そう自分に言い聞かせなければ、心はすぐにでも折れてしまいそうだった。



ある日の夕暮れ、バーバラから「下町の市場の隅にある店から、一番安い腐りかけの野菜を買い叩いてこい」と命じられ、ロザリーは数週間ぶりに外の空気を吸った。


港町の下町スラムは、潮の香りと、貧しさゆえのえた匂いが混じり合っている。

足元はぬかるみ、行き交う人々は皆、生活に疲れ果てた影を背負っていた。


「……ううっ、やめろよ!」

不意に、路地裏から小さな、けれど必死な叫び声が聞こえた。


ロザリーが足を止めると、そこでは数人の浮浪児が、自分たちよりさらに小さな少年を囲んで、彼が抱えていた「何か」を奪い取ろうとしていた。


「生意気なんだよ! 乞食の分際で、こんな上等なリンゴ、どこから盗んできたんだ!」

「盗んでない! 荷降ろしの手伝いをして、もらったんだ……サムに、食べさせるんだ……!」


囲まれているのは、煤で顔を真っ黒に汚した、痩せっぽちの少年だった。


ロザリーの心に、電流のような痛みが走った。その少年の瞳に宿る「守りたいものがある者の必死さ」が、かつての父さんに、そして今、自分の中で消えかけている「誇り」と重なったのだ。


「やめて!」

気づいた時には、ロザリーは叫んでいた。

手にした重い買い物カゴを、一番大きな男の子の足元に投げつける。


「な、なんだよお前! 宿屋の使い走りか?」

「その子を放して! ……さもないと、憲兵を呼ぶわよ!」

嘘だった。憲兵など、この下町には来ない。けれど、ロザリーの瞳に宿る、死をも恐れぬような鋭い「怒り」の光に、少年たちは気圧された。彼らは悪態をつきながら、路地の奥へと逃げ去っていった。


静まり返った路地裏。


残された少年――ジムは、地面に落ちたリンゴを拾い上げ、ボロ布のような服で必死に磨いた。そして、ロザリーを警戒するように見上げた。


「……あんた、誰だよ。おせっかいだな」

「……私はロザリー。……怪我はない?」

ジムは鼻を啜り、そっけなく顔を背けた。けれど、その頬がわずかに赤くなるのをロザリーは見逃さなかった。


「……ジムだ。……あっちに、弟がいるんだ。サムっていうんだ」

ジムに導かれ、さらに奥の、壊れかけた木箱が積み上げられた場所に、小さな影がうずくまっていた。

九歳のサムだった。


彼は、ロザリーの姿を見ると怯えたようにジムの背中に隠れたが、ジムが差し出したリンゴの欠片を、まるで宝石を受け取るように大切に口にした。

ロザリーは、その光景を黙って見つめた。


(この子たちも、私と同じ。……いや、私よりずっと過酷な場所で、二人だけで戦っているんだ)

物質的には、彼らの方がずっと貧しいかもしれない。けれど、ジムが弟を見つめる瞳、サムが兄を信頼する仕草。そこには、ロザリーが「黒猫の亭」でいくら探しても見つからなかった、本物の「温もり」があった。


「ねえ、ジム。……私、字が読めるの」

ふいに、ロザリーの口からそんな言葉が漏れた。

自分でも驚くような、明るい声だった。


「字……? それが食えるのかよ」

「食えないわ。でも、字が読めれば、いつかこの街の外にある、もっと広い世界に行ける。……私が教えてあげましょうか?」


ジムは一瞬、きょとんとした顔をした。

それから、照れ臭そうに、けれど今まで見たことがないような眩しい笑顔を見せた。


「……本当かよ。……約束だぜ、先生」

ロザリーの胸の奥で、カチリと音がした。



それは、彼女の孤独な人生に、初めて「誰かのために生きる」という新しい鍵が差し込まれた音だった。









あらすじを入力してAIが書きました。


AIも中々やりますね!

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