表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さすらいのロザリー  作者: 村松希美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第一幕 第二章 女将の家





 冷たい灰色の空から、今にも泣き出しそうな湿った風が吹き抜ける。


 ロザリーを乗せた荷馬車が止まったのは、港町に近い、活気というよりは喧騒に塗れた「黒猫の亭」という名の宿屋兼酒場だった。


「さあ、降りな。今日からここがお前の『家』だよ。感謝するんだね、身寄りのない小娘をタダで置いてやるんだから」


 馬車から彼女を突き飛ばすように降ろしたのは、丸々と太り、宝石を指に食い込ませた女将・バーバラだった。彼女の瞳には、かつてロザリーの両親が見せてくれたような慈しみは微塵もない。そこにあるのは、どれだけ安く使い倒せるかという「算盤そろばんの弾き」だけだった。


「……はい、ありがとうございます。バーバラ様」

ロザリーの声は、自分でも驚くほど小さく、掠れていた。


 火事の日から、彼女の心には厚い氷の膜が張ったようだった。泣けば、その膜が割れて、中から抑えきれない絶望が溢れ出してしまう。だから彼女は、感情を殺し、ただの「動く人形」のように振る舞うしかなかった。


 だが、現実は残酷だった。

 案内された寝床は、厨房の隅にある、冷たい石畳の上に薄い毛布を敷いただけの場所だった。かつて、父さんが特注してくれた羽毛のベッドや、母さんが手作りしてくれた刺繍の枕は、もうどこにもない。


「ぼんやりしてる暇はないよ! ほら、この山のような皿を洗っちまいな! それから酒場の床磨きだ!」

バーバラの怒声と共に、ロザリーの過酷な労働が始まった。


 十二歳の少女の細い腕には、水の入ったバケツはあまりにも重かった。冬の冷水は指先の感覚を奪い、しもやけが赤紫に腫れ上がる。それでも手を休めれば、バーバラの娘・エレンから「のろま!」と罵られ、汚れた雑巾を投げつけられた。


 エレンはロザリーと同い年だった。だが、彼女はロザリーがかつて持っていた「すべて」を憎んでいるようだった。ロザリーがどれほど汚れ、ボロ布を纏っていても、その瞳の奥に残る上品さや、ふとした仕草に見える育ちの良さが、エレンには鼻持ちならなかったのだ。


「見てよ、この『お嬢様』の成れの果て。そんなに綺麗に磨いたって、あんたの人生はもうピカピカには戻らないのよ」

エレンはわざと、ロザリーが磨き上げたばかりの床に泥靴で足跡をつけた。


 ロザリーの胸の中で、何かが小さく音を立てて軋んだ。

(どうして……? 私が何をしたというの?)

 怒りよりも先に、深い悲しみがこみ上げる。けれど、彼女は言い返さなかった。ここで追い出されれば、待っているのは凍死しかない。

 ロザリーは黙って、再び膝をつき、エレンのつけた泥汚れを拭き取り始めた。


 酒場が夜の営業に入ると、今度は酔客たちの怒号と、安酒の鼻を突く匂いが彼女を包んだ。


 客の食べ残した硬いパンの耳を、誰にも見つからないように口に押し込む。それが彼女の今の「食事」だった。

(お腹が空いた。……でも、それ以上に、心が痛い)

物質的な飢えは、胃を締め付ける。


 けれど、精神的な飢え――誰からも名前を呼ばれず、誰からも愛されないという飢えは、彼女の魂を削り取っていく。


 忙しく立ち働く中で、ふと窓の外を見る。遠くに見える街の灯り。あの中のどこかには、温かいスープを囲み、笑い合っている家族がいるのだろうか。


「……ロザリー、しっかりしなさい。あなたはまだ、生きているんだから」

暗い厨房の隅で、彼女は自分自身に囁きかけた。


 真っ黒に汚れた手のひらを見つめながら、彼女は必死に思い出そうとした。

かつて自分を愛してくれた人たちがいたこと。

自分には、「ロザリー」という美しい名前があること。


 だが、夜が更けるにつれ、その記憶さえも冷たい霧の向こうへ消えていきそうだった。


 この家は、家ではない。

ここは、少女から「自分自身」を奪い去っていく、静かな戦場だった。






あらすじを入力してAIが書いてくれました。


名作アニメのように主人公が波乱の運命でもロザリーはどのように生きて行くのか?


ですね。幸せだけの人生なんてないですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ