70 見えない魔物
翌日、付近の住人に頼み込み、アイたちは庭を探した。
意外にも茂みの中を探すと、小さな巣が簡単に見つかった。
「おいおい……じゃあやっぱり魔物ってことか?」
スティルは驚く。
その巣が見つかったのは、比較的低めの塀のすぐそばにある、植木の茂みの中だった。
アイたちは、魔物の巣を砕くか迷い、ひとまず持ち歩く事に決めた。
ここで砕いてしまえば、姿の見えない魔物が野放しになってしまうかもしれない。
シードルが懐に入れ、巣を通りからは動かさないようにする。
その間に、スティルは組合へ行き、被害者の身元の情報が入ったか聞いた。
戻ってきたスティルは、アイたちに伝えた。
「司祭だ。あのオッサンこそが、行方不明になっていた司祭だった。近所の人、数人の証言で、確認が取れたらしい」
「グリサリアの件を聞いてから失踪していた、ユーフォリア教団の司祭が、再び教会の近くに手ぶらで戻ってきて、スカイフィッシュに殺された、ってこと?」
アイは情報を整理した。
口に出すほどに、不審な点が多く感じた。
「どうして戻ってきたのか……スカイフィッシュは教団が飼いならしてでもいたのか?」
シードルが考え込む。
その姿を見ていた、シェリーが気づいた。
「シードル?あんた、血が……」
ついさっきまでなかった傷が、シードルの頬についていた。
浅く切られ、つーっと赤い血が流れ出てきていた。
「……いるぞ!」
シードルはそう叫び、盾を構え、剣を抜いた。
三人も、臨戦態勢で、飛び回る虫を探すときのように、空中に目を凝らす。
「ダメだ。なんも見えねえぞ!」
スティルが叫ぶ。
その瞬間に、スティルのマントが、破られた。
「ぐあっ!!」
シードルの腕から、血が飛び散る。
「まずい、まずい!巣を持っているからか?狙われてるぞ!」
「みんな、集まって!」
アイはそう言い、地面に手を当てた。
そして、氷柱を、四人の周りから通路を埋め尽くすように、一定間隔で一斉に生やした。
氷柱は全て、地面からシードルの背の高さほどまで高く伸ばされている。
しかし、それがスカイフィッシュに刺さったような手ごたえはなかった。
「ハズレか!」
シードルが叫ぶ。
「よく見て!」
アイは、右に、左に、目を凝らす。
そして、しばらくすると、音が響いた。
バキバキバキ!!!
氷が割れ、砕け散る音が、遠くで聞こえたと思ったら、立て続けに氷柱をなぎ倒した後、一瞬の内に、最も近い氷柱が砕け散った。
「速い!」
アイは、ふたたびおられた氷柱があったところに、補うように、再び氷柱を伸ばした。
今度はその目的を理解して、全員が通路の先へ目を凝らす。
パキッ……
遠くで氷柱が折れた瞬間には、そちら側の通路を塞ぐように、アイは何枚もの氷の板を、短い間隔で生み出した。
すると遠くから自分の位置を知らせるかのように、何枚もの氷の板に穴をあけながら、それは近づいてきた。
バリバリバリ!とすごい勢いで破片をまき散らして接近してくる。
位置に見当をつけたシードルは、最後の氷の板をそれが破る瞬間に、前の板が破られた位置を、全力で盾で殴りつける。
ガキィン!と、金属がぶつかる音がして、シードルは吹っ飛ばされた。
「ぐおあぁぁあ!!!」
「シードル!!」
三人が駆け寄ると、なんと鋼鉄製の盾に、口先が槍のようにとがった、小さな魚が、突き刺さっていた。
「おいおい!」
スカイフィッシュは身体の周りの尖ったヒレも振り回しながら、その先端を盾から引き抜こうと身体をくねらせていた。
「どうすんだこれ!アイ!固められるか?」
スティルにそう言われ、アイは理解すると、スカイフィッシュの身体の周りを氷で包み、氷漬けにした。
さすがに体を少しも動かせないからか、スカイフィッシュは化石のように氷の中に納まった。
「っぐぅ……!」
力を入れ、なんとかシードルは、盾からスカイフィッシュを抜き取った。
「捕まえた……捕まえちゃった」
シェリーは氷漬けのスカイフィッシュを冷たそうに持っている。
「溶けるそばから凍らせないと……」
アイは氷を少し分厚くしながら、浮かせて運ぶことにした。
「おいおい、なんだありゃ!」
組合にスカイフィッシュを運ぶと、冒険者たちが驚いてその様子を見ていた。
アイたちは通りに氷を張ってしばらく待機したが、もうスカイフィッシュが現れる様子はなかったので、巣も砕いて持ってきていた。
「えぇっ!?捕まえちゃったんですか?スカイフィッシュを!」
受付の女性は驚き、困った様子だった。
「史上二例目ですよ、きっと。どうしましょう……あ、そうだ!」
女性は休憩スペースにいた別の冒険者に声をかけると、魔法で作ったのか、金属製の細かい檻を持ってきた。
アイはその中に、氷漬けのスカイフィッシュを入れた。
「スカイフィッシュは助走をつけてから猛スピードを出せるようになるようですから、狭いところに入れておけば大丈夫だと、万能の魔女のレポートに書いてありました」
保管の問題は解決したので、アイたちはスカイフィッシュと、巣を受付に渡して、報酬を手に入れた。
「でも、まだ怪しい点が多くあるんだ。教団が絡んでいるかもしれない」
受付の女性に、スティルは言った。
女性は、話を聞くと、その件も含めて情報を共有すると言った。
「一件落着でいいのかな?」
アイがそういったが、誰も納得した顔はしていなかった。
「腑に落ちない点は多いが……俺たちの仕事ではないだろうな」
シードルはそう言った。
正義感の強いシードルのことだ。腰を据えて調査したいだろうが、次のあてもあるわけではない。
「まぁ、当初の目的は果たせて、短い時間で報酬は手に入ったし、いいんじゃない?パァーっと遊ぼうよ!ね!」
シェリーはようやくシミーサの街を堪能できることが、嬉しくてたまらないようだった。
「それじゃあ、ちょうどいいことだし、二人、二人で、解散!」
シェリーは突然シードルの腕を取ると、戸惑うシードルを無理やり引っ張って、街の中に消えていった。
冒険者組合の前に、スティルとアイだけが残された。
二人は顔を見合わせ、しばし沈黙すると、お互い目をそらした。
「あー……約束のデートってやつ?今回、俺はそれほど活躍はしてないが……」
スティルは気まずそうにアイのほうを見た。
アイからすれはデートは罪滅ぼしだし、スティルが約束したかはどうでもよかった。
「まあ、いいんじゃない。どこ行くの」
「そうだなぁ……」
スティルは歩き出し、アイはそのあとをついて行った。




