69 犠牲者
スティルは、少し高い建物の屋上の上から、通りを見渡していた。
寝そべって下を見れば、ほとんどの人がスティルの存在には気づかない。
道行く人々は普通に歩いていくばかりで、特に事件は起こらない。
「ん?あれは……」
しかし、初老の男性が、あたりをきょろきょろと見回しながら、通りを行ったり来たりしているのを、スティルは見つけた。
シェリーがしたのと同じように、その男性は、壁を調べたりもしていたが、その間も誰かに見られていないか気にしているかのように、挙動不審だった。
「しばらく様子を見よう」
すぐ声をかけにいくこともできたが、スティルは様子を見た。
すると、男性は突然壁にもたれかかると、背伸びをして、苦しそうにうめいている。
「なんだ……?」
明らかな奇行を目にしてスティルは不気味に思った。
そして、いつでも飛び降りられるよう、低い姿勢で待機した。
「~~~~!!!」
初老の男性は何かを叫んだが、スティルのところまでははっきりと聞こえなかった。
そして、次の瞬間……
「おい、マジかよ!」
男性の胸から、大量の血が、勢いよく噴き出した。
当然、目の前には誰もいない。
男性は血を流しながら、ずるずると壁にもたれながら、しゃがみこんだ。
スティルはすぐさま飛び降りて、男性に駆け寄った。
「おい!大丈夫か、アンタ!おい!」
「ぐっ……が……」
白髪の男性は、口から血を垂らし、苦しそうに呻く。
「何があった、おい!」
「奪……われる……大切な……成果が……」
「成果……?なんの成果だ!」
「シスターに……伝え……」
「おい、落ち着いて話せ!くそ、誰か、治療師を呼んでくれ!!」
男性は、それ以上話すことなく、スティルの腕の中で、息絶えた。
街の自警団が現場を調べた後、初老の男性の血を、洗い流していた。
スティルも取り調べを受けたが、冒険者組合の一員だったため、組合からの助力もあり、疑いの目はさほどかからなかった。
「何があったんだ?スティル」
シードル達は酒場で、晩飯を取っていた。
シードルは、少し落ち込んだスティルにそう尋ねた。
「何がも何も……一部始終を見ていたが、それなのに組合で聞いたこと以上はわからなかった。何もないところで、オッサンが血を噴き出して、死んだんだ……」
「最後になんか、言ってたんでしょ?」
シェリーも暗い顔で尋ねた。
「大切な成果が奪われる。シスターに伝えろ、と言っていた。さっぱりだ」
「シスター……」
アイはそれを聞いて、今日あったことを、思い出す。
「あの通りの近くの教会で、司祭が行方不明だって、今日聞いたよ」
アイがそう言うと、三人がアイに注目した。
「アイ、アンタまさか、あそこのユーフォリアの教会に行ったんじゃないよね」
「え、行ったけど」
「アイ……普通行かないだろう……今の状況では。しかし、俺が忠告していなかったのが悪かったな」
優しいシードルですら、少し呆れているようだった。
「仕方ないじゃん!なんの建物かわかんなかったんだから!」
「まあ待て。それで、信者とかから話を聞いたのか?」
スティルが落ち着いた声色でそう聞いた。
「いや、たまたまいた商人の人から、そう聞いただけ。グリサリアの件を知って、失踪したとか」
「司祭が行方不明、オッサンが口に出したシスターという言葉。何か関係がありそうな気はするが……確証はないな」
「シスターって言葉だけなら、ユーフォリア教団とは別の宗教の可能性もあるけど。そもそも普通宗教って言われて思い浮かべるのは、新・神設教会でしょ」
「しん、しんせつ?」
シェリーの言った聞き慣れない言葉に、アイは疑問符を浮かべた。
「新・神設教会は、旧教団の事件があったあと、新たに国教と定められた宗教だ。どの街にも一つは必ず教会があるぞ」
シードルが、そう説明する。
「ほぇ~……知らんかった……」
「アイの世間知らずはさておき、そっちの教会の可能性もあるって話」
「いや、俺はユーフォリアの線が濃いと思っている。研究の成果なんて言葉、神設教会が使うか?」
スティルはシェリーの考えをそう言って否定した。
「それと、その商人とやらも怪しいな。またどこかで会うのか?」
「何かわかったら言いに来るって言ってたけど……」
「こちらからは探さないと接触できないわけか」
スティルは考え込んだ。
「スティル、本当にやる気だね。そんなにアイとデートしたいんだね……」
珍しく真面目なスティルを、シェリーが茶化す。
「ばっ……違うわ!目の前で人死んでんだわ!こっちは!」
「はい、はい。そういうことにしておいたげる」
「おいおい、お前らはいいよなぁ、幼馴染とくっついて、二人でおデートできるんだからよ」
「何~?妬いちゃってんの?」
「え、二人って、そうなの?」
アイが二人を見ると、シードルとシェリーは、意味深に目線を交わした。
アイは知らなかったが、シードルとシェリーは、いつの間にか、そういう仲になっているようだった。
「マジ……?」
「アイってさ、意外と鈍感だよな……」
「うそでしょ……」
アイは改めて自分の鈍感さを思い知らされたのだった。
「まあそれはさておき、俺のほうも情報を仕入れたんだ」
意外にも、シードルは新しい情報を仕入れてきていた。
「教会のライブラリで調べた。スカイフィッシュという魔物だ。人の目には見えないほどの速度で飛び、身体は銛のように刃がいくつもついている。姿が見えないまま、身体を切られたり刺されたりするため、怪奇現象と恐れられていたが、万能の魔女に捕獲されたことがあるらしい」
「モカが……?」
「そんなの、私たちじゃ捕まえるの無理じゃん」
シェリーはお手上げといった感じでそう言った。
「それは考えないとならないが、巣も存在するはずだ。辺りの住人に頼めば、庭を調べさせてくれるかもしれん」
「待った、待った。魔物ならそうかもしれないが……魔物は成果を奪わないだろ?」
スティルは魔物以外の説を信じているようだった。
「まあ、それも一理ある。もし教団が絡んでいるなら、以前のように魔物を武器と使うこともあり得るしな。両面から調べよう」
シードルは、そう言い、二つの側面から調査することを決めた。




