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66 約束

 アイたちはグリサリアを離れ、次の街へと向かっていた。

 アイは、目的地に近づくにつれ、潮の香りや海風を感じて来た。

 そして、ついに道は海沿いを通り、遠くにその街の姿が見えるところまでアイたち来ていた。


「次の街を経由したら、その後はもう、王都まで一直線なんだよね」


 アイは身が引き締まる思いがした。


「そうそう。次が最後の、港湾都市、シミーサってとこ。私、海って初めてみるわぁ。本当に綺麗だね!」


 シェリーは海沿いの道を、軽い足取りで歩く。


「まぁ、そんなに観光する余裕はないぞ……俺たちは結局、グリサリアの手前から今まで、冒険者として依頼を受けられていないからな」


「そうだね……着いたらまずはお仕事かな?」


 きちんと次を見据えているシードルに、アイも同意した。


「はぁ……なんだっていいぜ……俺は」


 スティルは、グリサリアで女性たちにフラれてから、ずっとこんな調子だった。


「あーあ、もうめんどくさいってスティル。私まで気が重くなるわ」


 シェリーはうんざりしたように言った。


「だってよう」


「次の依頼で活躍したら、アイがキッスしてくれるってさ」


「へぇ……そんなこと言われたって俺は……」


「しないから」


 アイはあまりに適当なスティル達の会話を、聞き流しかけていたのにはっと気づき、即座に否定した。


「知ってるさ。アイだって俺には興味ねぇんだ。これだけ相手にされてないと、もういい加減気づいたさ……何度デートに誘ったと思ってるんだ……」


「いや、興味無くはないけどさ」


「ん?じゃあ興味あるってこと?俺にも可能性あるってこと?」


「それは無いけどさ……」


「やっぱないんじゃーーーーん」


「うわ今回本気で凹んでるじゃん……」


 シェリーはそう言って苦笑いした。


 いつもだったら女性に、いくらぞんざいにあしらわれても凹まないスティルだったが、今回は本当に引きずっているようだった。



 参ったな……女性たちにフラれたって話をでっちあげるべきじゃなかったか……

 アイは罪悪感に苛まれていた。


 実は、グリサリアにて、解毒剤の効果のほどはさておき、四人の女性のうち二人は、スティルとの恋を本気にしていた。

 実際スティルはそれほど自分の身を削り、女性たちの魔法攻撃をかわしながら解毒剤を飲ませ、触手の魔物の相手までしてみせたのだ。


 しかし、アイはシードルたちとの旅を続けさせるため、嘘をついてスティルをグリサリアから引っ張り出したのだった。

 その上、仲間になってからというもの、散々アタックしてくるスティルの誘いを、全力で蹴り続けていた。


「う……」


 思い返せばめちゃくちゃひどいことを、この男にしている気がしてきた。

 自信満々だった彼は見る影もなく、俯いて猫背の世捨て人のようになっていた。


「わかった……」


 アイは思わず口にしていた。


「もし、次の依頼で活躍したら……デートくらいならしてもいいよ……マジで一回だけだけど……」


「なっ……!?」


 シェリーとシードルは、驚愕の表情でアイを見つめた。

 しかし、アイの予想していた反応とは少し違い、スティルは顔を上げ、無気力にアイの方を見た。


「またそんな冗談でからかって……俺を傷つけてそんなに楽しいか?」


「う、嘘じゃないってば!」


「はぁ……もういい。そんな冗談に付き合えるほど、俺には精神的余裕がないんだ……」


 そう言って、スティルはそっぽを向いてしまった。


 え、どういうこと?

 今、めちゃくちゃ恥を忍んで、誘ったんだけど?

 やばい、死にたい。


 アイは顔を真っ赤にして、俯いた。


 するとそれに気づいたシェリーが、ぽんぽん、とスティルの肩を叩き、何も言わずにアイの方を指さした。


「あ?」


 相変わらず無気力にアイの方を見たスティルだが、明らかにいつもと違う様子のアイを見て、心臓が一気に高鳴った。


 おいおいおい、照れてる。

 あの、絶対零度のご零嬢が。

 どんな男にもなびかない、ツンツン女が。

 俺をデートに誘って、照れてるっていうのか?

 今まで全く興味のない風を装っていたっていうのか!


 なんて、罪な男だ、俺は。

 素直になれない君の気持ちに気づかなかったなんて。


「アイ、今の話、誠か」


 普段より一オクターブほど低い声で、スティルは話した。


「わっ……何?」


「誠か」


「そうだって言ってんじゃん……」


「左様か。ならば任せろ」


 スティルはアイが出会ってから一度もしたことがないほど鋭い眼光を見せると、四人の一番前を歩き、どんどんと前へ進んで行った。


「ちょっとアイ、本当にいいの?」


 シェリーが心配そうにアイに声をかけてくる。


「いいんだよ、シェリー。せめてもの罪滅ぼしさ……」


 アイは遠い目をして、悟ったように笑った。


「ダーメだこいつら。どっちもおかしくなっちゃってる」


 シェリーは、そんな二人の様子をみて、ついに匙を投げたのだった。


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