64 報告
夜、王都、大きいもののどこか寂れたような教会の中で、シスターと女性が話をしていた。
シスターは、白を基調とした中に黒の繊細な意匠の施されたシスター服を着ており、頭からもベールを被っていたが、ピンクブロンドの長い髪はその下に見え、かえって目立っていた。
綺麗なウェーブかかった髪は、片目を隠すほど長く伸びていたが、不潔感は無く、見る人によってはむしろ神秘的にも見えた。
「そうですか……グリサリアではそのようなことが。あなたもお辛かったでしょう」
「ええ……アキナス様も姿を消してしまわれました。ご無事でしょうか」
もう一人の女性は、シードルに助けられ研究所の場所を教えた、アキナスの部下、メルカだった。
「ご無事でないといいのですが……」
「えっ?」
聞き間違いかと思い、メルカは聞き返した。
「ご無事であれば、ユーフォリア教団は、死にたいとさえ思う苦痛を彼に与えることになるでしょう……今回の失態はそれほどのものなのです」
「そ、そうでしたか……」
そのあたりで、メルカは相手のシスターと話すことに、少しずつ恐怖を感じ始める。
「本部でご説明をしなくてはなりませんが、事態を知っているのは、貴女だけのようです。ご同席いただけますわね?」
「はい、もちろんです……」
メルカはだんだんと緊張し、顔色が悪くなってくる。
「大丈夫。逃げたりしなければ、情報をもたらすあなたは教会から寛大な処置を受けるでしょう。では、私の方からも事前にいくつか質問をいたします」
「はい」
シスターはメルカに近づくと、優しく抱擁した。
メルカは驚いたが、そのままされるがままに立ち尽くした。
そして耳に口を近づけると、脳への最短距離を走らせるように、声を届け、囁く。
「魔物の巣を飲ませた男たちを解放したのは、独断?」
「ちがいます……」
「アキナスの指示なのね。でも、それが引き起こすことを考えた?」
「え……」
「あの研究は、教団のもっと壮大な計画の為に使われるまで、決して世間に露見してはならなかった、トップシークレット。それを、目立つ形で放出したのは、貴女。ちがう?」
「し、しかし!しかし指示が!」
「アキナスに言われてたからって、アイツはどう考えたって教団の美しい教義に背いているじゃない。それを自分で考えて、逆らうべきだった。なのにそうしなかった、違う?」
「私は……わたしは……」
シスターが囁くたびに、メルカの目からは、だんだんと光が失われていく。
「貴女はアキナスに忠誠を誓ったの?教団にじゃなくて?だったら同罪かしら。違うわよね?あなたが信じるのは、何?」
「教団です……教団を信じます……」
「まだ話していないことがあるんじゃないかしら」
「あ、あぁぁ……」
恐怖で崩れ落ちそうになるメルカを、シスターはきつく抱きしめ、無理やり立たせたままにする。
「まだ、話してないことが、あるんじゃないかしら」
まるで子供を問い詰めるかのように、シスターは同じ言葉を繰り返す。
「男に……ある男に……解毒剤の場所を……研究所の場所を教えてしまいました」
「あら、あら、あらあらあらあらあら?」
「ひぃ……」
尋常じゃないシスターの様子に、メルカは冷汗を噴き出す。
「おかしいわね。変よね?アキナスとは違う、ちゃんとした教徒なのに。なぜ?アキナスに脅されて指示にしたがったのは、しかたないけれど、どうしてそんなことをしちゃったのかしら?ねぇどうして?」
「男に……助けられて……」
「そう、惚れちゃったの?かっこよかったのかしら?ちょっと面のいい男だったら、教団の崇高な理念など吹き飛んでしまう、バカ女なの?どうかしら、あなた自分のことどうお思いかしら?」
シスターは、メルカを抱擁して決して離さず、ひたすら質問を繰り返す。
その度に女性は追いつめられ、どんどんと精神をすり減らしていく。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」
「謝らなくたっていいのよ?どういうつもりか知りたくて。だって、本部で説明できないじゃない。ちゃんとした言い方に私が書き換えないと、最後まで喋る前にあなた、殺されちゃうわ。その為にも、貴女を理解しないと。でしょ?」
「こ、ころされ……ころされるんですか」
「殺されないとでも思ったの?どうして?殺されるのは確定事項じゃなくて?殺されないなら殺されない理由を知りたいのだけど、教えてくれるかしら?」
「あ、ああ、あぁぁぁあぁ!!!!」
メルカはついにシスターの腕でも支えきれずに、その場に崩れ落ちた。
「でも、大丈夫よ。私があなたを守ってあげる。私は貴女を赦します。貴女も、貴女の罪も、背負ってあげる。だから私だけにはすべてを話して、全てをゆだねて……従って、くれるわよね?」
「ぁ……ぁ……はい……!従う……従います……どうか許してください!」
メルカはシスターにすがりつき、脚に抱き着いた。
シスターらしくない大きくスリットの入ったスカートから、美しい脚が顔を覗かせた。
「ええ。貴女を赦します。いいですね、決して逃げてはなりませんよ。しばらくは自らの行いを反省しながら、上手に説明できるよう、頭の中でひたすら考えなさい?」
シスターに、帰るよう言われ、女性は、まるでこの短時間で魂を抜かれでもしたかのように、ふらふらとした足取りで教会を後にした。




