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58 解放


 シードルが、牢屋に閉じ込められていた男たちを解放してからさらに先に進むと、信者たちの居住区があった。

 その先からうめき声が聞こえてきたので、シードルは慎重に奥へと進んで行った。

 突き当りには、さらに下へ下る階段があった。


 シードルはそれを進み、より暗く、じめじめとした通路に足を踏み入れた。

 通路が狭くなったこと、うめき声に近づいていることもあり、そこらじゅうにその不気味な声は反響していた。


「薄気味わりぃな……」


 シードルは、二手に分かれた道を見つけ、それを左へと進んだ。

 なぜなら、そちらの方から声が聞こえたからだ。


 先へ進むと、今度は先ほどのように大人数を入れる形ではない、いくつもの個室に分かれた牢屋があった。


「ウァァァ……」


 ついにシードルは目の当たりにした。

 牢屋の中にいたのは、人語を発せず、ただ呻き、さまようだけの、男たちだった。

 信者の装束などは着ておらず、簡素な普段着のようだった。

 それぞれの牢屋に数人ずつ入っており、何十人、いや何百人いるのか見当もつかない。


「お、お前ら……無事か?」


 シードルが呼びかけても、うめき声が返ってくるだけで、誰も返事をしない。

 しかし、予想に反して、牢屋の中ではなく、通路のずっと奥から、人の声がした。


「な、何者です!」


 位の高そうなシスター服を着た、ユーフォリア教団員が、シードルを見つけて、驚いている。


「……落ち着いてください。助けに来ました。いや……あなたは……」


 シードルが思うに、茶髪でシスター服を着たその女は、他の信者のようにぼんやりとしたところが無かった。

 完全に眉をひそめて、頭を働かせて、シードルを疑っていた。


「元々のユーフォリア教団員、だな」


「あぁ……支部長様……あんまりです……わたくしにこのような役目を……」


 そう取り乱した女性は近くにあった金属製のハンドルを、全身に力を入れて下ろした。

 その瞬間、ガシャン!と音がして、牢屋の檻が、歯車の動くような音と一緒に、上がり始めた。


「おいおいおい……」


 シードルは、首を横に振りながら後退した。


「きゃぁぁあぁぁ!!!」


 信者の女性は自分で檻を開けたにも関わらず恐れおののいて、行き止まりになっている自分の後ろの方へと下がった。


「おい!こっちへ来い!」


 シードルがそう呼びかけても、パニックになって叫ぶばかりで、女性はその場に座り込んでしまう。


「仕方ない……!」


 檻から次々に、男たちが解放され、うめき声を上げながら、シードルに迫る。

 しかし、シードルは退かず、盾で男たちを押しのけながら、女性の方へと向かう。


「いやぁぁぁ!!」


 女性は男たちに掴まれ、地面に引きずり倒され、檻の方へと引っ張られていく。


「こら放せ!!」


 シードルは間一髪で辿り着くと、女性を引っ張る腕を引きはがし、力強く助け起こした。


「あ、ありがとう……私……」


「いいから離れるぞ!」


 シードルは女性を抱えるようにして、男たちを避けながら、出口の方へ走った。

 幸いにも、男たちの動きは鈍く、明確な殺意も感じられなかったので、シードルは女性を助け出し、自らもその場を離れることができた。

 男たちはだんだんと、活動を広げるように、上の方まで歩いて進出してきていた。


 シードルは何とか元居た階へと上がり、女性と共にしばらく走り、息を整えた。


「説明してくれ!あいつらはなんなんだ!」


「私は……そんなことを言っては……殺されてしまう」


「名前は?」


「え?」


「君の名前だ」


「私は……メルカ」


 突然名前を問われ戸惑ったが、メルカは素直に答えた。


「メルカ、聞いてくれ。あれを止めなきゃ、地下にいる人たちは全滅だ。あなたを含めて。頼む、教えてくれ」


 シードルは、真剣なまなざしでメルカを見つめ、そう言った。

 メルカは少し迷い、周りを見て、誰もいないことを確認すると、声を潜めて説明した。


「あ、あれは……街にいた男の人や、訪ねて来た男の人たちで……」


「それはわかってる。何をしたんだ」


「巣です……」


「うん?」


「魔物の巣……あれを調合したものを与えると……ああなるのです……」


「馬鹿な……」


 シードルは身体から力が抜けるのを感じた。


「巣を?巣を……食べさせたってことか?」


「原料の主成分が巣というだけです……そうすると、魔物と同じように、人を襲うだけの生物になってしまうのです。食事も取らず生きていて……巣の周りで徘徊するのも魔物と同じです……」


「お前たちは……人間じゃない」


 シードルはおぞましいものの一端に触れてしまった。

 心ある人間が、他人を、人でないものに変えてしまうことなど、できるはずがない。

 狂信の成せる業とはいえ、度が過ぎている。


「どうすれば戻る?戻るんだよな?」


「私はそこまでは」


「嘘を吐くな!知っていることを全て話すんだ!」


 女性に手を上げられないなどと言っていたシードルが、今や怒りのあまり、メルカの胸倉を掴んで問い詰めていた。


「ひっ……本当なんです知らないんです信じてください……私は怖くて従っていただけです……」


「あ、あぁ……すまない……」


 シードルは我に返り、メルカを放した。


「逃げるんだ、地上に。申し訳ないが、ついていくことはできない」


「私を捕まえないのですか?」


「優先すべきことがある」


「研究所が……」


「何だって?」


「研究所がこの道の先にあります。そこには解毒剤などもあって、操られている女信者を治せます……もしかしたら、男たちも治せるかも……」


「そうか……ありがとう。無事でいてくれ」


 やはり、女性信者達も何かされているらしい。

 解毒剤を探すため、女性の指さした方へ、シードルは向かった。


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