39 結社
アイたちはその日、ツァータの街に戻ると、宿を取った。
グレイはまだ意識が戻らず、ベッドに寝かせる必要があった。
そして、それ以外のみんなは部屋に集まり、情報を共有し、今後のことを話した。
ネロ、エス、グレイはそれぞれ、アイを助けるために奮闘し、実際にこうしてアイを解放することに成功したのだった。
「みんな本当にありがとう」
経緯を聞いたアイは、まず感謝を述べた。
「アイさん……本当にごめんなさい」
ビィフは酒癖のせいでアイを連れ去られたことを後悔しており、深く謝った。
「いや、いいんだよ。私も油断してたし。それはそれとして、ビィフはお酒をやめたほうがいいかも」
言いたいことを全て言っていたビィフの、あの時の態度を思い出し、アイはそう言った。
「気を付けます……」
「それにしても、あのマドレーヌがグレイを騙してこんなことを起こしたなんてね……」
マドレーヌには何かあると思っていたアイも、そこまで積極的に動くとは思っていなかった。
「ご希望とあらばいつでも二人を処分しますよ」
エスは笑顔でそう言った。
「絶対ダメだから。勝手なことをしないこと!」
アイはエスに念押しをした。
「お嬢様はお優しい……」
エスは少しがっかりしたように言った。
「でも実際、私は殺されそうになってたんだ。カラムさんがミストから言われた通りに。それに失敗したから、ルカが来た」
「ルカはなぜ、アイ様が追われるように、色々な事件を起こさせたんだろう?」
ビィフが疑問を口にする。
「うーん……ルカは、そうやって幾つか事件を起こさせたあと、私を殺せと指示されていたみたいだね……だけど、ルカはそうするつもりはなかった」
「指示しているのは誰なんでしょう?」
アイにビィフが尋ねる。
「ミスト、かもしれませんが、ミストも上からの指示で動いているような口ぶりでしたね……」
エスがそう口を挟んだ。
「アイ様が悪い評判を抱えて亡くなれば、ミスト達も事後処理がしやすいということでしょうか……」
ビィフはルカがわざとアイに街を襲撃させた理由を、そう考えたようだ。
「みんな、これを見てくれないか」
突然そう切り出したネロが、金のボタンを、みんなに見せた。
「キメラでしょうか。旧教団のシンボルですね」
知識豊富なビィフがすぐに言い当てた。
「ああ。どうやら、これをモチーフとしている、”結社”とかいう連中がいるらしい。カラム団長が、交渉の際、ミストの部下を倒したが、そいつがこれを身に着けていたようだ」
「つまり……結社とか言う連中が、裏で糸を引いていると……」
エスは思案した。
「結社の話は聞いたことがあります」
「何で……?」
エスが結社を知っていたことに、アイが驚いて聞き返す。
ネロとビィフも驚いてエスを見る。
「実は……執事の前は少々裏の仕事をしておりまして……」
だからエスはこんなに強いのか、とアイは思った。
「そこで聞いたことがあります。仲間内での認識は……”結社の仕事に手を出すな”でした。請け負うにしても、敵対するにしても、関わるべきではないと」
「そんな組織に私は狙われてるってことね……」
アイは頭を抱えた。
自分が狙われているというよりは、カラムが狙われているのかもしれないが。
「でも、そんな連中と関わりを持っているなんて、マドレーヌとかいう子は、何者なんでしょう?」
ビィフは疑問を口にしたが、誰も答えられるものはいなかった。
「とにかく、帰れば全て分かります。そこでマドレーヌを問い詰めればいい」
エスがそう言った。
「我々が協力してお守りすれば、無事帰れますよ」
ネロはそうアイに笑いかけた。
「ありがとう、みんな」
アイは再び、感謝の言葉を述べた。
ルカが目を覚ますと、身体の自由が利かなかった。
暗い部屋の中央の、ベッドにしては硬い、手術台のようなところに、ルカは縛りつけられていた。
「ここは……」
隣を見ると、長い赤毛をした女が、もう一つの台の上に、同じように横たわっていた。
眠っているのか、動きはしなかった。
正面に視線を戻すと、白髪の、眠そうな顔をした女が、ルカの方を覗き込んでくる。
「やぁ、目が覚めたかい?ようやく準備が整ったんだ」
医師のような白衣を着ていたが、手術をするような格好ではなかった。
「何をするつもりだ……」
「あれ?ミスト君から聞いてない?君の目をもらって、あっちの赤毛ちゃんに移すの。なんでも、部長ちゃんの妹ちゃんらしいよ~」
赤毛の女は眠っているようで、反応は無かった。
「や、やめろ。この目は”あの方”からもらったものだ」
「”あの方”は、君のこともういらないってさ」
「嘘だ……俺のためにあの方は……人形の為に……」
「タダより怖い物はない、ってね。この目は、仕事の報酬の前借りみたいなものだったんじゃないの~?それなのに仕事に失敗してたら……当然取り上げられちゃうよね」
「よせ……もう一度やらせてくれ!きっとやり遂げてみせる……俺にはできる!」
「もう十分楽しんだろう?これで君の夢はおしまい。あとは消化試合を、何も見えない暗闇で過ごすんだねっ」
そう言うと女は、器具を取り付けると、ルカの目を開かせた。
「やめろ……やめろ!やめろぉぉぉ!!!!!」
ルカの叫び声が響いた。
その部屋の扉越しに、外までルカの悲鳴は響いてきた。
部屋の前で、ミストがまた別の、赤毛の女性と話している。
「あーあーあー……あのサド医者め。麻酔かけてないのか?」
「手段はどうでもいい。妹にあの目が、無事移植されればな」
「あいつの腕は確かですよ、姉御。俺の腕も一回離れたのがくっついたんだから」
「知っている、だから任せた」
「それで?次はどう動くんです?」
「妹が目を手に入れれば、やりようはいくらでもある……アイとかいうガキも放っておけ。いつでも消せる」
「そうかい……全く……こんなややこしいことしねぇで、騎士団のガキも、婚約者もみんな殺して、鍵を奪っちまえばいいんじゃないですか?」
「それができればとうにやっている……全く。強大な力には、面倒な約束事が付きものなんだよ」
「そういうもんですかね……」
「手順を間違えば全てがパーだ。慎重にいくぞ」
「へーいへい、一番嫌いな言葉だね、慎重ってのは」
ミストが放った愚痴は、薄暗い地下通路の中で、小さく響いた。




