36 共闘
グレイとエスは、自由都市国家連合の最も東の都市で馬車を降り、南の森の方へと向かうため、まずはツァータという中間にある都市を目指した。
ツァータも他の都市と同じく、周りを城壁に囲まれており、魔物や敵からの侵攻を防いでいるようだった。
「ようやく着いたか……」
歩き慣れておらず、体力の限界も近いグレイと違って、エスは今でも軽い足取りで、グレイの前を歩いていた。
しかし、都市に近く、そろそろ中に入れるかというところで、エスは突然足を止めた。
「気づかないふりをしろ」
振り向かず、エスがそう言い、再び歩き始めたが、グレイには全く意味が分からなかった。
しかししばらく歩くと、はっとした。
前から歩いてくる、街を出る人々の中に、アイの姿があった。
隣には、長身の男がいる。
思わず声を出しそうになったが、エスが先ほど言った言葉を思い出し、冷静になって、歩を進める。
自分が余計なことをすれば、台無しになる場面かもしれない。
お互い気づいてもおかしくない距離まで近づいても、アイはエスやグレイに全く反応を示さなかった。
そして、ついにすれ違い、通り過ぎようかという時、瞬時にエスが動いた。
ガキィン!
エスが背後から長身の男、ルカにナイフで斬りかかったところに、アイが反応して、氷の剣でその一撃を防いだ。
あたりにナイフと氷がぶつかる音が響く。
「なっ……!アイ様?!」
一瞬怯むエス。
ルカは、その間に体勢を立て直す。
「まだ仲間がいたのか!」
ルカは辺りを見回し、さっきとは違う開けた場所にいることを改めて確認する。
「先ほどのようにはいかないか……!ならば殺すまでだ。やれ!アイ!」
逃げ出すことは難しいと判断したルカは、アイに敵を排除させることを選ぶ。
ルカに指示された通り、アイは全力で斬りかかり、氷弾を飛ばしてエスを攻め立てる。
「お嬢様!なぜ攻撃するんです!訳を話してください!」
「……邪魔」
アイはエスの問いに答えず、猛攻を続ける。
「妖術の類か……!グレイ!!!」
あっけにとられていたグレイに、エスは叫ぶ。
「あっちの男です!!」
グレイは、ルカの方を向き、一瞬戸惑う。
自分の魔法は人を殺し得るものだ。
こいつは悪なのか?
殺してもいい人間なのか?
まだ何も、状況がつかめていない。
「グレイ!!役目を果たせ!その為に来たんだろ!!」
エスの相手はアイであり、傷つけないようにしつつ必死で猛攻を受けきらなければならない。
そんな中、使用人という立場も無視し、エスはグレイに命令した。
「くそっ!やるしかないのか!」
グレイは覚悟を決めると、水泡でルカの頭を覆った。
「ごぼッ……!??」
突然視界が水の中に飛び込んだように歪み、口や鼻の中に水が浸入してきたことで、ルカはパニックになる。
ブンブンと頭を振りながら、必死で水泡を逃れようとするが、グレイは正確にルカの頭の位置に水泡を
動かし続ける。
「いいんだな……殺していいんだな?!」
そう叫ぶグレイだったが、必死で攻撃を捌くエスは、そんなグレイを気にしている余裕などなかった。
「お嬢様……生きていてよかった。すぐに助けます」
「ご主人様の邪魔しないで」
「ご主人様だと。あの変態野郎、ぶち殺してやる」
アイに妙なことを教え込んだルカに、一瞬エスが冷静さを失った。
しかし、そこを狙ったかのように、アイはくるりとエスに背を向けた。
「何だ……?はっ……!」
狙いを理解したエスが叫ぶ。
「グレイ!!!」
エスの叫び声に気づいたグレイが、そちらを見た時には、既にアイが放った氷剣が、グレイの目前まで迫っていた。
「かはっ……!」
鋭い痛みと共に、柔らかいものが突き破られた感触が、身体に響く。
グレイが見ると、自分の腹に、氷剣が突き刺さっていた。
「あっ……ぐ……」
燃えるように痛い腹を抱えながら、グレイはその場に跪き、倒れた。
「遅かったか……せめてあの男を殺してから死ねばいいものを!」
エスが睨んだ先には、水泡から解放され、咳き込むルカの姿があった。
「げほッ!がはっ!!ゲホゲホッ!!くッ……死ぬかと思ったぞ……」
「もういい。仕方ない……アイ様には悪いが、多少怪我をさせてでも、命を最優先に保護させてもらう」
再びエスの方へ向き直ったアイを見て、エスは怒りを必死で抑えながら、覚悟を決めた。
「執事!!!」
突然、後方から辺り一帯に響くほどの大声が響いた。
エスが振り向くと、一度アイの屋敷に来たことのある、紅蓮騎士団の団員が、剣を構えて走って来ていた。
味方か?敵か?
エスは一瞬迷う。
「近距離を任せろ!」
ネロのその一言で、状況を理解している味方だと判断したエスは、さっと後ろへ下がり、アイから離れた。
ネロはそのまま突っ込んで来て、跳躍し、アイの方へ躊躇わず剣を構えて突っ込む。
アイは身を翻して避け、ネロの着地点に、瞬時に氷の床を敷き詰めた。
「うおぉぉ!!!」
ネロは剣の刃を炎で包み、着地しながら氷の床に剣を突き立てた。
剣は氷を削り、溶かしながら、ネロの着地を支える。
バランスを取って、ネロは再びアイに斬りかかった。
「アイ様!!!直ぐに解放します!」
アイは氷剣で、ネロに対して防戦一方になるが、その間にも氷弾を作り出し、空間に浮かせた。
しかし、エスが、氷弾が浮いているところへとナイフで斬りかかり、氷弾を叩き潰して行く。
作っても作っても叩きつぶされ、常に残弾はゼロの状態だ。




