35 人質
ビィフは、アイを探すために、聞き込みを続けていた。
魔法でアイの姿を見せては、目撃証言を集めていく。
ツァータにいることは間違いなく、少しずつ、足跡を追えている実感はあったが、アイはミトナの時ほど大規模には暴れていないようだった。
今も、街の中にまだいるといいのだが。
そう考えて、ビィフは時折、街の外から来ているような冒険者たちにも声をかけて尋ねていた。
「あの、そこの方。すみません、人を探していて……」
ビィフは今回も旅の人間に声をかけようと思い、腰に剣を提げた、短髪の男性に声をかけた。
「ん?俺か?」
「ええ。こういう女性を探しているんですが、見かけませんでしたか?」
ビィフはいつものように、気だるげなアイを杖先に映し出した。
その瞬間、男は剣を抜いて、ビィフが反応するより早く、その首へ突きつけた。
その様子に周りの人々がどよめき、距離を空ける。
「わっ……」
「この女性とどういう関係だ?」
「落ち着いて……森で保護したんです。お家に送ろうと思っていたのですが、はぐれてしまって……」
「信用できないな。証拠は?」
「無茶言わないでくださいよ。アイさんは、森をさまよっていたから、僕が先生……森の魔女とか呼ばれてますけど、先生の小屋に保護したんです」
「森の魔女……万能の魔女か!」
男は剣を収めた。
「俺は万能の魔女を探す途中で、ここに立ち寄ったんだ。話を聞かせてくれないか」
「あなたは……?」
「俺は紅蓮騎士団の、ネロだ。たった一人、アイ様の捜索を許されている」
そう言って、ネロは剣の柄をビィフに見せた。
ビィフが見ると、柄には、紅蓮騎士団のモチーフである、ドラゴンの紋章が刻まれていた。
「ネロさん、聞いてください……アイさんは、手配されています。一刻も早く見つけなくては」
「なんだと……?」
ネロはそうしてビィフと合流し、一緒にアイを探すことになったのだった。
「こういう人を探していて……」
ビィフは諦めることなく、アイの映像を魔法で出しては、その行方を人に聞いて回った。
ネロも同行し、アイの手配書を手に、近くで聞き込みを続けた。
ある女性にビィフが声をかけた時、魔法の映像を見せたところ、女性はなぜか映像の方ではなく、ビィフの後ろを見つめていた。
「え?」
ビィフが怪訝な顔で見ると、女性はそっとビィフの後ろの方を指さした。
ビィフが振り向くと、多くの人が行き交う人混みのその奥に、長身の男を見つけた。
そしてその傍に、紛れもないアイの姿を発見したのだった。
「アイさん……!!」
はっと気づいたビィフのもとにちょうど戻ろうとしていたネロも、じっと彼方を見つめるビィフの視線の先を追い、アイを見つけた。
「アイ様!!!」
二人はほぼ同時に駆け出し、必死でアイの方へと進んだが、人混みのせいで思うように進めない。
それでも無理やり人々をかき分けて近づいたところで、ルカの方がビィフ達に気づいた。
「くっ……」
二人を見て、追われていることに気づくと、ルカはその場から駆け出し、アイもすぐ後ろを走って付いて行った。
「アイ様!なぜ逃げるんです!」
叫び、ネロは二人を追いかける。
ようやく人混みを抜け、アイたちが走って行った方へと進むと、路地裏に二人の姿があった。
「貴様!アイ様を離せ!」
ルカはその言葉を聞き、ネロに見せつけるようにわざとらしく、後ろからアイを抱きしめた。
「逃げたがっているように見えるか?彼女の意思だ。邪魔しないでもらいたい」
ようやく後ろから追いついてきたビィフが、ネロの後ろに現れた。
「ネロさん……速すぎですって……あ、アイさん……!」
「アイ様の様子がおかしい」
「催眠魔法ですよね?デカいお兄さん?今すぐ解除させてもらう!」
ビィフは、ルカにそう宣言した。
「違う!彼女の意思だ!!!」
ルカがそう叫ぶと、アイは片手を振るい、氷弾を一斉にビィフの方へ飛ばした。
ネロが駆け、ビィフに向かう氷弾を剣で叩き落とす。
「アイ様!やめるんだ!」
ネロはそのまま駆け、アイとルカの方へと距離を詰める。
「動かないで」
アイの口からそう言葉が発せられた。
ネロが見ると、アイは自らの首に、氷剣を突きつけていた。
「アイ様?!」
ネロは距離を取ったまま、その場で立ち止まった。
「あなた達と行くくらいなら、私はここで命を断ちます」
動揺し、ネロはその場から動けなくなった。
ビィフは後方で、先ほどからずっと、杖を構えて何かを念じている。
「追ったら死なせる、いいな!」
ルカがそう言い、自らを人質に取ったアイと一緒に、他の路地へと逃げ込んで行った。
「くそっ……!」
ネロは視界からアイたちが消えた瞬間、すぐに動き、追いかけたが、角を曲がった先には既に二人の姿は無かった。
「今から二手に別れて追うぞ……!」
「まぁ、落ち着いてください」
「何だと?」
悔しさでいっぱいのネロに対し、冷静にビィフは言う。
「はじめ、催眠魔法への対抗術を練っていましたが、アイさんが自殺をほのめかしたので、追跡魔法へシフトしました。しばらくはアイさんの位置を追えます。チャンスが来るまで、一定の距離を保って追跡しましょう」
「本当か……!お前、そんなことまでできたんだな」
「なんたって、万能の魔法使い!……の弟子ですからね」
それでも誇らしげに、ビィフは言った。




