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23 選択の結果


「早く選ぼうぜ。選ばないならどっちも殺すぞ?」


 冷や汗をかきながら、考えを巡らすカラムを、腕を組んで苛立ちながら待っていたミストだったが、ついにしびれを切らしたように、そう言った。


「待て、待ってくれ。選ぶ、選ぶから時間をくれないか」


「甘えるな。この場で選べ」


 くそ、クソくそクソっ!!

 カラムは心の中で悪態を吐きまくる。


 あるいは、二人とも殺されるよりは、片方を生かした方がいいのか?

 それが今とれる最善の選択なのだろうか?

 だが、選べない……


 本当か?


 本当に、選べないか?


「なぁ、本当に選べないのか?」


 心を見透かしたように、ミストは、言う。


「民を、相手を傷つけ、虐げる貴族の女と、人を癒し、助ける平民の女。身分で言えば、貴族の命の方が重い。だから、お前は貴族を生かすのか?」


「違う……!」


「じゃあ、性格か?それにあの女は平民だが、これから多くの人間を救える治癒魔法が使える。こっちの方が、より世界のためになるから生かすか?」


「それは……」


「婚約者に愛があったか?未練があったか?平民の女にはどうだ?簡単じゃないか?ほら選べ。あと5秒だ。答えなければ、二人とも殺す。”5”……」


「”4”……」


「待て……!頼む……!」


「”3”……」


「頼む、待ってくれ!!話合おう、何でも……」


「”2”……」


「クソ……」


「”1”」


「……くそ……待て待て、待て!」


「ぜーろ」


「マドレーヌだ!マドレーヌを助けてくれ!!!!」


 二人とも殺されるくらいなら。

 そこまで深くも考えていなかったが、カラムは咄嗟に、本能的に、そう答えていた。


 そして、一瞬で我に返る。


 馬鹿な。選んだのか?


 俺が?


 人の命を取捨選択したのか?


 なぜマドレーヌを?


 そっちの方が大事だと思っているのか?


 違う、違う違う違う……!!



 自分の発言を信じられず、頭が働かなくなっているカラムに、ミストは、パチ、パチと拍手をした。


「おめでとう。難解な問いに答えを出せたな。俺はお前のことが少し好きになったよ。わかるか?人生では、こういう、捨てたくない物をどうしても見捨てなくちゃいけない時が来るものだ。片方を選べば、片方を捨てることになるんだよ」


「違う……!俺は……そんなつもりでは」


「それに、気が合うな。俺はお前がそう言うと思ってよぉ……既にそっちを殺しておいたんだ」


「はっ……?」


 すでに追い詰められきっていたところに、更に追い打ちをかける事実を明かされ、カラムは聞き返すことしかできなかった。


「先読みできてるだろう?逆を言ってたらお前に怒られてたところだ。ふぅー、危ない危ない。正解を選べる男なのさ、俺は」


「何言ってる……?」


「あのアイとかいう女は、もう死んでるよ」


 それを聞き、カラムは、ついに膝から崩れ落ちた。






 村を取り囲んでいる騎士団員たちは、カラムから突入の合図が出るまで、じっと待っていた。


 副団長のキャロリンは、合図が出るまでは勝手に動かないよう、部下達に念を押していた。


 キャロリンはカラムが騎士団に入る以前から副団長の地位を務めている女性だった。

 長い髪と瞳は燃え盛るような赤い色をしており、その赤に負けないほどの情熱で、部下を指導し、厳しいと恐れられながらも、女性にもかかわらず尊敬を集めていた。


「副団長。突入しないのですか?」


 傍らでネロが進言する。


「馬鹿者。それで人質が死んでみろ。我々全員が団長に消し炭にされるぞ」


「しかし……どうにも様子がおかしいです。せめて隠密行動に長けた一部の団員で、秘密裏に廃屋を捜索させませんか?」


 ネロは、アイが攫われたことで、居ても立っても居られなかった。

 模擬戦で自分を下した、強く美しい令嬢。

 そんな無垢な少女が、ひどい目に合わされていたらと思うと、ぞっとする。


「ならん。団長の命令に従え」


「しかし!団長は臨機応変に対応しろとも……」


「二度、『しかし』と言ったか?」


 キャロリンはネロを睨みつけた。

 これ以上無駄な時間を使わせるなという意味だろう。


 ネロは頭を振り、もう一度何かを言おうとして、それ以上言葉が出て来なかった。





 広場で膝を付いたカラムの前で、ミストは、合図をした。

 片手を上に上げ、手首を二回、前に倒す。


 すると、数軒先の廃屋から、黒装束の男が、マドレーヌを連れて出てきた。

 

「マドレーヌ……!」


 それすらも守らない相手の可能性もあったが、少なくともマドレーヌは無事だった。

 先ほどまでのやりとりも一瞬忘れ、カラムは、安堵した。


「カラム様ぁ……!アイ様が……アイ様が……」


 マドレーヌは泣きはらした瞳で、カラムを見る。

 ミストの隣まで来て、二人は一度足を止めた。


「よくできました。お坊ちゃん」


 そう言うと、ミストが空間に手をかざし、青白い光を放つ、人一人分ほどの大きな穴を出現させた。


「待て……!」


「安心しろ、約束はちゃんと守るぜ?大人だからな。ほらよ」


 ミストが隣りの男の肩をたたくと、男はマドレーヌの背を強く押した。

 後ろ手を縛られているマドレーヌは、バランスを崩しながらも、カラムの方へと進んだ。


 ボォッ!!!


 その瞬間、マドレーヌを連れてきた男が炎に包まれた。


「ぎゃぁぁあぁ!!!!!!」


 男の悲鳴が上がる。


「なぁっ?!」


 目にもとまらぬ魔法で燃やされた男を見て、驚きながらも、ミストは青白い穴の中に、急いで入り込んだ。

 カラムは追いかけようとしたが、ミストの全身が入った瞬間、その穴は空間から綺麗さっぱり消え去っていた。




「クソッ!!!!!」



 カラムは地面に膝を付き、何度も地面を殴った。


「ぐあぁぁ……」


 隣りで、焼けていく男の悲鳴が小さくなっていく。

 合図はしなかったが、状況が動いたのを見て、騎士団員たちは、一斉に廃村へ突入してくる。


「クソッ!くそ、クソっ!!!!」


「カラム様……!カラム様もうやめてください!!!」


 カラムは地面が割れるほど、手が血でにじむほど、ひたすらに地面を叩きつけていた。

 マドレーヌの制止すら、全く聞こえていないようだった。


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