04話 『立ち塞がるS級魔物』
がしゃん、がしゃんと、何かが機械音をたてて動く。神殿の柱は暫く揺れたままだった。
揺れと音が収まると、神殿の中央に大きな正方形の穴が出現している事に気づく。中は光源もないのに明るく、下に数メートル程階段が続いていた。
ふと祭壇を見るとボタンは消滅し、透明なパネルには新たな文字が刻まれていた。恐らく時刻だろう。まだ数分ということは、ボタンを押してからのカウントのようだ。それはさておき、さっさと二階層へ進んでみよう。
階段では特に魔物?との接敵はなく、安全な様子。階段を降り切ると、そこには菱形の巨大な石があった。うっすらと青色に光っている。
鑑定によると、この石は転移する為のものであり、到達した階層まで転移が可能らしい。
俺のテレポートは、覚醒したと言えど使う自分がまだまだ未熟で、精度が低く連発することができない。なので、この転移石は実にありがたい。
さて、石に触って踏破登録も済ませたし、先に進も──
「キリキリ、キリッ」
その時、グシャッと鈍い音が耳元で聞こえ、風が全身を駆け抜ける。
「くちゃ、くちゃっ」
右斜め後方で何者かの咀嚼音。それと共にくる右肩からの激痛。
うわぁぁ、腕が! 腕が!
一体、何が起きたんだ!?
驚く事にさっきの一瞬で、右腕が肩から千切れていた。
その腕は何者かが食べている。
「【鑑定】」
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《ステータス》
【名 前】ー
【種 族】マンティノイド亜種
【レベル】348
【魔力量】32601/32601
【存在等級】S
《スキル》
【剛力lv3】【火魔法耐性lv7】【身体装甲lv4】【不屈lv4】【毒物耐性lv2】【瘴気lv1】
《ルーン魔石》
【身体強化】
《説明》
人型カマキリ。亜種。平均で190センチの体躯を持ち、素早い動きが得意な昆虫系魔物。通常の種は緑色だが、亜種は黄色でパワーとスピードが格別に違う。
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鑑定したのはいいんだが、腕の断面から蛇口を捻ったように血液が流れててそれどころじゃない。めちゃくちゃ痛くて傷口が焼けるようにヒリヒリする。
このままだと待ってるのは失血死。動体視力で捉えれないほど速いとか、勝てるわけないだろ。逃げる一択だ。
しかし、魔物がいる方向から来たので行く前に攻撃をもらうかもしれない。そうなれば命の保証はなく、最悪首ちょんぱで即死もあり得る。
残された手段はテレポートしかないのだが、まだ力を制御出来ないので壁に埋まったりする可能性がある。だが、背に腹はかえられん。やるしかないだろ。
「【テレポート】」
目の前には、澄み切った空に巨大な樹木。どうやら逃げ切れたようだ。
それより出血が酷い。早くあの果実を食べなきゃ死んでしまう。
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【名称】ユグドラシルの果実
【等級】神話級
《説明》
致命傷や状態異常を一瞬で治す事のできる果実。その治癒力はまさに神の奇跡。薬にせず、そのまま食べることでも効果は得られる。魔力回復効果もあり、1つ食べ切ると100万回復する。
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外皮は硬く、大きめな石で何度も叩くと割れる。重すぎて片手じゃ持ち上げられないので、地面に転がってるまま食べた。
一口、二口、すると、無くなった右手から骨が構築され、筋繊維がものすごいスピードで張り巡らされる。
その間僅か5秒。部分欠損という致命傷が一瞬で治るその様は、まさに神様の奇跡そのものだった。
文面に書かれた通りになるかは賭けにしかすぎなかったが、鑑定に嘘はなく本当に治った。これからも信用していいだろう。
……って、そんなことよりあの強さはなんだよ!
チートだよ、チート。速すぎてなんも見えないじゃねーか!
鑑定によれば、レベルを上げるには生物を倒さなきゃいけないんだっけ?
そのレベルアップ条件の生物が倒せないんじゃ、一生ここで停滞したまま。
もしRPGゲームならはじまりの村に四天王の一角がいるのと同じくらい無理ゲーや。
一体どうすればいいんだ……?
「ふぅ……」
一旦落ち着こう。取り乱したら正しい思考ができなくなる。
さて、これはどう攻略しようか。
罠を作って倒す、いや【身体装甲】という硬くなるスキルがあるから無理だ。傷一つつきやしない。
それか、戦うのを諦めてあの魔物にバレずに突っ切る。でも、万が一バレたら次は腕じゃなく首が吹っ飛ぶかもしれん。そうなればテレポートを使う以前の問題。やはり、正攻法でいく以外はないようだな。そうすると自分自体が強くなる他はない。
ぱっと思いつくのは、腕立て腹筋などの自重トレーニングと素振りなどで肉体改造をする。
レベルは生物を倒せば上がるらしいが、今のところ空にいる鳥しか見ていない。これじゃ、数百レベルになる頃には時間が掛かりすぎて先に寿命がきてしまう。
寿命……? いや待てよ、すっかり忘れてた。確か、ルールには『ダンジョン挑戦者はほぼ歳を取ることはない』と書いてあったはず。
おい、時間なら文字通り無限にあるじゃないか!
スポーツ音痴な俺でも何百年、何万年とあればオリンピック選手レベルの足の速さ、投擲術などの身体能力が手に入る。いや、それ以上も目指せるだろう。
それと、テレポートの練習もまだまだ足りない。
詰まるところ、転移距離が無制限であったとしても、能力者がそれを使い熟せないのであれば宝の持ち腐れ。
例えるなら、掠っただけで殺せる一撃必殺の剣を持っていたとしても、それを相手に当てる技量がなければ無意味だということ。相手のスピードが高ければ尚技術が必要となる。これと同じことだ。
しかし、その為には練習する環境が整っていた方がいいだろう。
ということで、当面の目標は持続可能な寝食できる環境を作ることだ。
ここ最近は、硬い神殿の床で寝ていて熟睡出来ずにいた。
食べ物だってユグドラシルの果実は1ヶ月に1、2個しか落とさないので、消費の方が確実に上回る。どうにかして他の食料源を確保しなければいけない。
これから忙しくなるなぁ。
よっしゃ、気合入れて頑張るか!




