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結局闘技場ですかよコンチクショー!

 ローズはげっそりと疲れた顔をしていた。


「【苦諦の業風(ドゥッカ・ストーム)】!」


 ひーん!


 パンジーの放った赤い魔力弾が混じった、赤色の熱風が場内を吹き荒れる。

 あわや観客席まで届いてしまう寸前の所で、障壁により遮られる。分かってても怖いものは怖い!


 魔力弾は風に乗って球状の塊で動いているため、見た目ほど避けにくい事はない。風自体の加減速に合わせて緩急が付けられて目標を狙って襲ってくるため、鬱陶しい事この上ないが。


 加えて、パンジーが一定間隔で目標に向けて放っている輝く魔力弾。こちらは風の影響を受けずゆっくり進むが、縦方向と奥行き方向に幕状に並んで放たれる事と、最後尾の遅い弾が障壁に当たるまで長時間場内に残り続ける事により下手に動くと収拾が付かない並び方になる。


 どちらも当たればポイントを取られる。両方を同時に避ける必要があり、ならばどちらも目標の動きに依存しているため回避方法を工夫して避けやすくすればいい。

 この場合は──風に煽られて誤接触しないよう警戒しながら、パンジーへ接近と離隔を繰り返す事で一定間隔で狙いを付けて飛んでくる塊状の魔力弾を回避。幕状の魔力弾に対しては、かするように一定方向に回避を続けパンジーの周囲をゆっくり一周する事で障壁に到達して消滅するまでの時間を稼げる。

 そのように一定の法則に従って回避した結果、幕状の輝く魔力弾は立体的に重なり合い、風に揺らめいて神秘的な光景を描き出す。


 パンジーと場内で対峙しているゴブリンロードの少女も、攻略法を見抜き奮闘したのだが……球状の塊が三つに増えた途端誘導しきれなくなって回避が荒くなり、挟み撃ちに。


 あわや衝突寸前、緑肌の少女は魔力の閃光を放ち弾幕を纏めてかき消す。そのまま閃光を放つ魔力弾がパンジーに向かって飛んで行き、この弾幕は終演。


「ちえっ、()()吐かされちゃった……こっちの番だよ!【ドラゴンゴブリン襲来】!」


 ゴブリンロードの少女は着地すると、その緑肌からドラゴンのような鱗を生やしながら、なんと闘技場の半分の領域を占めるほどにまで巨大化した。口からの火炎放射による薙ぎ払いと、狙いを付けた一点への猛烈なストレートパンチによる攻撃を繰り返す。ドラゴンの名を冠した技にふさわしい、大迫力の攻撃であったが……


「う〜ん、見た目は派手だけど、ワンパターンで回避しやすいわ」ヒュン!

「もー、ひょいひょい避けちゃってえ……」ドゴォ!

「これだと芸術点しか取れないわね。少し見た目は悪くなるけど、避けにくいようにいい感じに弾を撒いておくといいわ☆」ヒュヒュン!

「それが出来たら苦労しないよー!」ボオォォ!


 ひらりひらりと空中を飛ぶパンジーに易々と回避され、戦闘中とはとても思えない呑気な会話が交わされる。それもそのはず、これはルール無用の殺し合いではなく、ルール有用の対人競技であるからだ。

 そして、観客席でキラキラと目を輝かせウズウズと震えるとある金髪の少女。


「はやく!はやく私も()りたい!」

「まだ出番は先だってば!座ってて!」


 逸る気持ちを抑えられず駆け出そうとするバレットを慌てて止めるローズ。興奮して怪力がちょっと出ているので抑えるだけでも一苦労だ。ローズはますますげっそりとした表情を強める。


 どうちて……どうちてこんな事に……

 平和に暮らしたいのにどんどん胃が痛くなっていく……ちくせう……


 ローズが胃痛に苦しむ羽目になった顛末は、少し話が長くなる。

第二章、開幕です。

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