40 殺人令嬢のハッピーエンド
森を駆け抜ける一つの影。例の、薄桃髪の少年のようであった。
(あの顕現は撤退させてしまったデスが、まあいいデス。バルクでは動きにくくなってしまったデスし、拠点をまとめて引き上げデス)
森での襲撃とライラー盗賊団は結び付けられてしまっただろう。しかし、さしたる問題ではない。再び虚たる眷属を補給、別の地域に移動して収集を再開すればいいだけだ。
(しかし、あの女。忌々しい気配だったデス。不安要素デスので、そのうち排除……を……)
バルクの隅のとある森にある、拠点があるはず、あったはずの地点に到着した。そこには、拠点だったはずのログハウスが無惨な瓦礫となって散らばっていた。あったはずの武器も、魔鉱石も、“けんぞくのもと”も、何もかもが一切無い。
散らかされた丸太の一つをよく見ると、そこには大胆不敵な犯行声明が赤文字で綴られていた。
「な」
“侍女長、グローリー・モーニング参上☆”
「有り得ない、有り得ないデスゥゥゥゥウ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
★★★★★★★★★★★
ある昼下がりのエルムント城。
「危うくショック死するかと思ったわ。これは殺人未遂よ、謀反だわ、重罪だわ……」
「私も恥かいたのでそれで手打ちにしてください……」
サトイモに似た植物から作った偽コンニャク、その偽コンニャクから作った二重偽タピオカの入ったミルクティーを麦わらのストローで啜りながらパンジー様がねちねちと反撃をする。偽タピオカもねちねち。私、平謝り。
「今日も言われたんですよ。『よっ、初代シルヴィ男爵家当主様!嬢ちゃんとはどこまで行ったんだ?』って。野糞爆弾を当てないように投げて追い払いましたが」
「毒を毒で制そうとするのやめなさい」
代変わりのゴタゴタと税制をはじめとした政治改革リアル・タイム・アタックで激務に追われていたパンジー様は、束の間の休息を取っているのだった。
あの後、ポプラ帝国から「サリックス皇太子殿下、及びその婚約者パンジーを暗君の危害から守り通した功績を評し、ローズ・シルヴィを男爵位に叙爵する。どうか受け取ってほしい」と、まあ要約すればそんな旨の親書が届いた。貴族の挨拶は長ったらしいので省略。
実際には本人がバッチリカチ込みに行っていたわけだが……他国の政治問題に皇太子が武力介入した、とあっては外聞が悪い。上層部では秘密裏に共有されたものの、公式にはサリーの詭弁通りサリックス皇太子は決起に参加せず屋敷で帰りを待っていたため危険は及ばなかった、という事にするようだった。
男爵領は親切にも不可侵条約で割譲された地域のお隣りを貰ったので、そのままパンジー様に委託統治してもらう事にした。私は侍女を続けるのだから、時折様子を見に行く以上の事は出来ないしね。
あの舞踏会の後、サリックスを支持する声が急激に拡大し、「サリックスに対して敵対的な派閥にも担ぎ上げる派閥にも属していなかった者」を中心とした、サリックスを担ぎ上げるのではなく穏当に支持する派閥が帝国内の最大勢力となったらしい。
担ぎ上げる派閥に属していた者達?……旗色が悪くなった途端、一斉にサリックスを切り捨てて鞍替えした不忠義者がのうのうと戻ってこれるはずもなかった。時勢次第でまた裏切ります、と高らかに宣言したのと等しいのだから。
……現派閥には、最新のナウい化粧品であるコマチ紅のオーナーと敵対したくないだけの貴族女性も紛れているだろうが、まあそこは許容範囲だろう。十分な弱みになるし。
森での襲撃をライラー盗賊団なるものの犯行と断定し、一般人を駒にする危険な集団としてポプラ帝国にも調査と警戒を勧めた。領内に残っている危険性も考慮してこちらでも調査は進めるが……侍女長のモーさん曰く、そんなに心配しなくていい、との事だった。
……モーさん、何したの!?
「というか!なんでそこで追い払っちゃうのよ!“パンジー様は俺の嫁”って高らかに宣言すればいいじゃない!」
「私にそんな古代の言い回しで威張れるような度胸はありません!」
反乱に負けた暗君とはいえ、肉親であるパンジー様が直接イヴァンに手を下すと今後の評判に響くであろう事が考えられた。なので、ガチガチに拘束し骨も数本折って動けなくした状態で、直轄領民の皆様にお任せすることにした。
まあ、それでどんな目にあおうが、どんな苦痛を味合わされようが、自業自得だしね〜。きっと集合知によって編み出された素敵な拷問の数々が、伯爵を待ち受けてくれている事でしょう。
エルムント伯爵家当主様となったパンジー様は、以前からの評判もありすぐにエルムント領民に受け入れられた。受け入れられたのだが……
「それを言うなら、あれから全然進展がないお嬢様も悪いんですよ!どこまで行ったと聞かれても答えられるものがありません!」
「ぐふうっ」
痛恨のカウンターが炸裂した。
大音量で垂れ流された後悔惚気生放送のせいで、領内どこに行っても冷やかされるようになったのだった……
「私、不安なんですよ!本当にお嬢様は私の事好きなんですか!?もう一回その口から言ってもらえないと安心出来ません!」
「で、でもローズこそどうなのよ!進展が無いのはそっちも同じじゃない!ローズこそもう一回言ってよ!」
「えっ」
途端にそれまでの勢いを無くし、ローズは赤面してうろたえだした。
「そ、それは……もちろん……」
そのまま何やら言おうともごもご口を動かしながら結局言い出す事は出来ず、赤くなった顔を見られないようにそっぽを向いてしまった。
「……い、今、言い方を考えます……」
「そ……その反応ず〜る〜い〜!」
その反応で勝手にパンジーがやられ、自滅の形となった。
カウンターにカウンターを返そうとしたパンジーが一方的にやられただけであった。
「なんだろう、バレット。今、僕は物凄く部屋に帰りたい」
「奇遇ですね、サリー様。私も部屋に帰りたくなってきました」
ノリノリで野次馬しにきた二人は、高カロリー惚気を至近距離で摂取した事で糖分過剰を起こして吐きそうになっていた。因果応報であった。
ベテラン野次馬であるバレットですら根を上げるほどだった……
「で、でも確信を得られたわ。私はローズが好き、ローズも私が好き。両思い、両思いよ、問題ないわ!」
「一人で完結しないでください!──ひゅい!?」
突然パンジー様に抱き付かれて、思わず変な声をあげてしまった。
「ふふふ、やっと鈍感かまされた分をやり返す事が出来たわ☆──私を好きだなんて、物好きね。苦労するわよ?☆」
「鈍感かましてたのは謝ったじゃないですか……生憎、私は手のかかるのばっかりに引っかかる体質でして。あやしつけるのは慣れっこですよ」
「そういう意味じゃなかったんだけど……まあ、いいわ」
パンジー様は爽やかな笑みを浮かべる。気恥ずかしさに私は目を逸らそうとするも──顔面をガッチリとホールドされて逸らせなくなった。
「絶ッッッ対に逃さないから!☆」
「きょ、きょ、脅迫ぅーーーー!?!?!?」
ローズの断末魔のような悲鳴が、澄み切った綺麗な青空に響き渡って消えていった。
これにて一区切り、第一章完結です!第一章は、長い長ーいプロローグのつもりで書いてきました。
まだ戦争阻止も、全然始まっていませんですしね。メインとなる二人の心の根幹部分をやっとある程度書く事が出来たので、ようやくラブコメらしいラブコメを書き始められるかと思います。
感想・評価・ブクマ等していただいた皆様、本当にありがとうございました!初挑戦でここまで沢山の方に読んでいただいたり、反応をいただいたりする事が出来て、とても嬉しかったです。筆を折らずにここまで書いてこられたのは、皆様のおかげです。感謝!
特に、感想を書いて頂いた歪菜さん、翔さん、エニンさん、無責任おばけさんには感謝してもしきれません。もう一度、感謝!
第二章も、引き続きよろしくお願いします!





