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0話「乙女ゲーだけどヒロインが好き」



桜が舞う木の下、淡いピンクのショートヘアが揺れる


私は某乙女ゲームのヒロイン


愛王(あおう)みこと(17歳)


この春入学する学校で、

設定上様々な男性とのフラグをたて、更なるモテモテライフを手に入れるはずだった。


でもどうしてだろう。

私の胸がときめくのは、



サポートキャラ兼友人キャラの馬子(うまこ)ちゃん。


貴方なのはーー







事件はある休みの日から始まった。家でだらけていた私に一本のゲームが目に入る。


キラキラした絵柄にカッコいい男の子達が書かれたパッケージ。俗に言う乙女ゲーム。


友達が進めてくれたそれに、私はそっと手を伸ばす。


(うーん、この手のゲームってやった事ないんだよなあ)


興味はあったもののいざ始めるとなるとちょっと恥ずかしい。


(だいたい私、少女漫画すら読んだこと無いんだよ?)


なんとなく、漫画の中でも少女漫画ってキラキラしていて、本屋の中でもコーナーに入りずらい。

可愛い女の子ならともかく、私みたいなモサい女子には特に。


今まで読んできた物もそうだ。

恋愛物に興味があるものの尻込みしちゃってつい読むのはお兄ちゃんの部屋にある少年漫画のラブコメ。

深夜のきらら系ほのぼの。

アイドルゲームにライトノベル。

お兄ちゃんの影響でかなり趣向があれだが、私にとっては唯一触れられる恋愛物?がそれだった。



だからこの乙女ゲームを始めるのは私にとってかなりの革命だ。


(ええい!ままよ!!)


覚悟を決めた。


私はゲーム機の電源を入れ素早くゲームを起動した。いきなり始まるOPにドキマギしながらpcを見つめる。


(なんかビジュアル系バンドみたい-)


それが私の乙女ゲームへの第一印象だった。

キャラクターが次々と登場する中、私はある一人の登場人物に目を奪われた。


華奢な体。淡い赤とピンクが混じった髪色、それと同じ瞳。ショートカットの髪は先端で緩く巻かれている。

この物語の主人公ちゃんーー


(なにこの子、めちゃくちゃ可愛い!!)


兄の本ばかり読んでた影響だろうか。

私は攻略対象の男の子達よりもこの女の子を攻略したい衝動に駆られた。

ここに来て、ギャルゲー脳の血が騒いでしまった。


それが地獄の始まりであると知らずに。


彼女のビジュアルは私の好みドンピシャだった。

彼女の性格もギャルゲーによくいる色物キャラとは違う、かなりの聖人キャラで新鮮だった。

彼女の全てが私を魅了した。


しかし繰り返すがこれは乙女ゲーム。


決して主人公を攻略するゲームではないのだ。



「な、なにをするだあーーー!!」


思わずゲーム機を放り投げる。隣の兄の部屋から「どうした⁉︎ディオか⁉︎」

と聞こえてきた。


「キッ!」


私は画面を睨みつける。そこには主人公ちゃんとヒーローの鮮やかなスチルが絵がれていた。


「なんだこのビジュアル系バンドホスト!!初っ端から主人公ちゃんの唇を奪いやがって!!」


出会って5分も経たないうちに主人公ちゃんの唇はメインヒーローに奪われてしまった。

それだけではない。

『お前、俺の女になれよ』

「あああああああ・・・!!」


(私の主人公ちゃんが、どこの馬の骨とも分からない男に汚されている・・)


乙女ゲームで主人公に恋をするほど残酷なことはない。だって必ず彼女は攻略対象に・・・


(ああ・・・)

これはあれだ。最近兄が熱心にはまっているNTR(寝取り)という奴だ・・・。


何故ならこのゲームは彼女が必ず攻略キャラと関係を持つようにできているのだから。


数日後、間違った乙女ゲームの見方をしながら今日も私はスチル集めに周回していく。

うん、見方を変えれば問題ない。

私は当初、初恋を失ったショックで攻略キャラにあれこれ文句を言ってしまった。


例えば幼馴染キャラ


『君の事、何でも知っている。だって幼い頃からずっと見てきたから』

「時間がどうした!こっちは主人公ちゃんの脳内まで見てるからね!」


例えば先生キャラ


『悪い子にはお仕置きだな。放課後生徒指導室に来い』

「職務質問が来い」


例えば俺様キャラ


『お前としたキス。最高だったぜ』

「オマエゼッタイユルサナイ」


だったのだが、お兄ちゃんに


「お前、それNTRっていうより単なる彼女ずらしたストーカーじゃね?」


と言われてしまい、考えを改めるに至った。

大体、いくら彼女に恋しちゃたとはいえ元は彼ら目当てで買った乙女ゲームなのだ。

キャラの非難、よくない。


それよりも、このキャラクター達を含めてオカズにした方が何倍もいい。


「つまりは、ちょっと趣向の違うチートキャラになったと思えばいいんだよ」


ラブコメだけじゃ飽き足らず、少女漫画までオカズにしているお兄ちゃんは言う。


「高校生、春。様々なチート属性を持ったイケメン頭いい運動神経抜群ホスト系主人公になった俺は、学校のマドンナに恋をする。

あの手この手で自らのチート能力(ポエミーホスト)を使い、マドンナを落とそうとするが、彼女はラスボス。なかなか落ちない。そんな時、別のイケメン(ライバル)も現れてー⁉︎

白熱する心理戦バトルロイヤル!!

二人は己が愛を貫けるのか、恋に青春に火花散る。あ、ちなみにバットエンドはハーレムエンドな。

マドンナの脳内が聞こえるのはテレパシー。選択は運命強制能力持ってるってことで」

「ふーん、いいじゃん。なんかそんな風に言われると、少年漫画ものっぽいね」

「うん、俺もラブコメに飽きたら北斗の○の亜種として読んでる」

「北斗の○ってそんなんだっけ?」

「割と・・」


流石はお兄ちゃん。私の脳みそを少年色に染めただけの事はある。



彼のアドバイス通りに乙女ゲームを進めていくと、様々な発見があった。


一つが、主人公(ヒーロー)の設定を自分で決められる事。

ギャルゲーだと、どんなにお気に入りの女の子が居ても、主人公の性格が自分と合わないと萎えてしまうのだが、

乙女ゲームには様々なタイプの男性がいるため、自分と性格の合うヒーローを選ぶ事ができる。


私は、あんまりにもスペックが高いキャラだと感情移入ができないので、

主に幼馴染キャラと、ギャグキャラに感情移入する。



もうギャルゲーも、主人公はポ○モンの相棒よろしく、三タイプぐらいに分けるのはどうだろうか?いくら選択肢でカスタマイズできるといってもシナリオパートで塗り替えられるし。

兄貴系、欲望に忠実系、ショタ系とか。

それか一言も喋らないサイレントプレイ、人外、ロボットでも可である。


次に気づいたのは主人公ちゃんの出番の多さだ。


流石主人公なだけあってシナリオはゲーム内で一番多い。

単純に好きなキャラクターの出番が多いのは嬉しいことだ。


これも個人的な意見なのだが、

私は押しを決めたら割と一本で行くタイプなのでヒロインは一人でいい。

たまに揺れ動いて他のヒロインと会話すると罪悪感が半端ないし、


てかその分押しヒロインのシナリオを増やして欲しい!!

最初のメインパートとか長過ぎてダレるから!

大体会話したいヒロインなんてパッケージ見た時から決まってるから!!


最初のヒロイン選び(お見合い回転寿司)パートとか体験版だけで十分です。


周回スチル集めするときにメインパートダレとかもう嫌なんだ・・。

せめて全ての恋愛ゲームにスキップを義務づけて欲しい。

・・まあ、私のギャルゲーに対する意見は置いておいて。


先日、この事を話したら兄が


「主人公が複数いんのは賛成だが俺はハーレム好きだから他の女をちょくちょくつまみ食いしながら色んな女の子に嫉妬されたいな」


とかなんとか、クソみたいな事を言い出した。


「そんなの主人公に一貫性が無くて魅力を感じないし、そんな奴を好きになるヒロインにも魅力を感じない」

「しかし、一人を棄てて他の皆んなを悲しませることなんてできない。ハーレムこそ誰も悲しまない道なのだ!」

「それが幸せだと思ってるのは主人公だけでしょ!!実際私がハーレム要因の一人だったら他の女の子達との関係性にお腹が痛くなるわ!!」

「それはお前がリアルの女の子だからです〜。ファンタジーの女の子はそんな事思いません!!ハーレムは男の夢!どの読者も、自分の好きなキャラとゴールインできて、他のキャラもつまみ食いできちゃうハーレムこそがメディアワークスの理想郷なんだよ!」


と、まあ、

多様性愛者と一貫性愛者は相容れない

事が分かった。


どういう事が言いたいかというと、ヒーロー達に感情移入したこのプレイスタイルは案外、自分に合っているんじゃないかという事である。


一貫性愛者の私には、

色んな女の子をつまみ食いするよりは

同じ人とシチュエーションを変えてラブラブする方があってたという事だ。

これが今主人公ちゃんのスチル集めをしている私のこのゲームに対しての感想である。


絵柄も乙女ゲームにしてはマイルドよりなので自分にとって見やすいのもポイントだ。



ふとゲーム画面にいる主人公ちゃんと

目があった。

赤みがかった瞳は美しく、優しそうではあるが、見れば見るほど底が見えない。


これも目線を変えてプレイした時に気づいた事なのだが、彼女はなかなかヒーローに対して好意を見せない。

本当っに好意を見せない。

ヒーローがどれだけ彼女に甘い言葉を囁いても軽くあしらわれるか、主人公特有のスキルを発動し、難聴を貫く。

ヒーローが10主人公ちゃんにアクションしたとしたら、彼女が赤面してくれるご褒美は1だ。

そりゃ、簡単になびいちゃうのもアレだけど、もっと、こう、初々しさとかをねえ?

こっちは貴方の赤面を糧に生きてる訳ですから。

少女マンガの主人公の方がまだデレる率高いですよ?

ここら辺の受けの強さは流石オタクコンテンツといったところか。

まあそんな高難易度sssランクっぷりの堅物さが、軟派なヒーロー達には魅力的に見えるんだろうけども。実際数々の女性を落とした事がある(二次元限定)軟派な私も、貴方の堅物さにメロメロですけども。

本当ね、ストーリーラストで主人公ちゃんが一度だけ、好きですって言ってくれた時(その後のヒーローの告白が大々的で目立たなかったけど)

私は嬉しさのあまり、絶叫してしまったからね。そのシーンだけ写メ撮って今でも携帯の待ち受けにしてるからね!!

よく、主人公が一番好きなキャラです、とかいうとナルシストじゃん、とか言われるけど、それだけでここまで愛が膨らむ筈が無い!!というか主人公ちゃんが私のアバターになるとか、恐れ多すぎるから。私こんなに可愛くないし、彼女に対して私を投影とか踏み絵に等しいから!!

だって、ゴミがメシアになり変われるわけないじゃん?

勿論私はデフォルト名プレイですよ。

彼女の可愛い名を改名するとか、ありえませんから。


やはりオタクは早口。私の主人公ちゃん過激派は今日も絶好調。


たった一人の人をここまで深く愛しちゃう、リアルの恋愛経験の貧相さが伺える。とてもピュアである。


・・言ってて悲しくなってきたな。


そりゃあ、私だって誰かを幸せにできる人間になりたかった。

イケメンの皮を被り、主人公ちゃんを喜ばせる為の言葉を吐くヒーロー達を心のそこから羨ましく思う。


もし私がリアルで男の子の子に(ギャルゲー風に)こんなセリフ吐いたら血祭りものだ。

自分の身の程ぐらいわきまえている。


幼い頃から、内気で、ダサくて、マイペースで、沢山の人に迷惑をかけてきた。


そんな自分が嫌だから、少しでも変えたくて自分なりに努力してきた。


勉強、運動、喋り方、身だしなみ。

だけどいくら頑張っても結果なんて出てこなくて、皆んなに向いてないよと言われてしまう。

せめて人並みに、人並みに誰かを幸せにしたい欲求だけが日に日に大きくなっていく。


そう考えると私の欲求ってこのプレイスタイルの方が消化されるのかも。


誰かにもてなされる側より、誰かをもてなす側の方が。


色んな悩みや問題を抱えたヒーローが

聖女の優しさに触れ、チート能力を解放し、今度は彼女に恩を返すストーリー。


兄が言ってた通り、乙女ゲームって結構王道なのかも。


ぬるま湯に浸かった現実逃避。

なりたかった自分、なれなかった自分。

その皮を被って今日も私は気になるあの子を落とす。


あの子に好きになって欲しい。だけど、あの子に幸せになって欲しい。


彼女だって、私なんかより、スペック高いイケメンに言い寄られた方が幸せでしょ?


イケメンの皮を被って彼女に好かれる今の状況は幸せな筈だ。


だからもう少しだけ、このままでいさせてなんて、

彼女の淡い瞳にお願いして私は眠りにつく。



・・・こうして私の回想は乙女ゲームっぽくポエミーに締まるのだった。


問題はこの後だ。



その晩、私は夢を見た。


眩い巨大な光



それが消えた後、アタシの瞳にあの子が映った。


沢山の攻略対象に囲まれて居る主人公ちゃん。

噂に聞くハーレムエンドという奴だろうか?そんなにイケメンに囲まれていたら流石に飽きるだろう。カレーライスの福神ずけポジでいいので私も加えて欲しいーー


そう思っていると、彼女の顔が目に入った。

念願のハーレムな筈なのにとても悲しそうな顔、それが妙に頭に残る。

気になって仕方なくて、少しでも元気になって欲しくて、

アタシはミコトにいつものように声をかけたーー


「おはようミコト!!」


するとさっきまでの顔が嘘みたいにふっとほころぶ。


「おはよう馬子ちゃん!」


「馬子ちゃん?」


私の名前では無い、しかしどこかで聞き覚えのある名前を呼ばれ、少し戸惑う。なんだっけ、もう何十年も聞いているような、そんな気がするのに。


「おーい、馬子ちゃん、立神馬子ちゃん!聞こえてますか〜?」


ふんわりと、彼女はアタシの名前を呼ぶ。アタシの幼馴染の愛王(あおう)ミコト。


そういえば、立神馬子(たてがみうまこ)って主人公ちゃんの友人キャラじゃん!

このシーン、ゲームで見たことある!!


主人公?シーン?ゲーム⁇

なにそれ、アタシにとってただの日常の風景に、そんな言葉が浮かぶのは何故だろう。

何の記憶だっただろう。

それにさっきから違和感が凄い。

口から出る声は女性人気声優の声によく似ているし、目線も低くなった気がする。当たり前の筈なのに、何だかすごい違うって感た。

服も、制服?アタシこんなの持ってたっけ?

何だかとっても気になって持っていた手鏡で自分の姿を確認する。


謎の記憶が発する言葉にアタシは思わず目を見開いた。



「って、私、立神馬子になってる----!!⁉︎」


その姿は主人公ちゃんの友人キャラ、

立神馬子の姿そのものだった。



その日アタシは全て思い出した。


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