じゅうよん:独り身たちのクリスマス会
ちょっと下品な表現があるので注意が必要かもしれません。
クリスマスイブ。
それは一年のうちで最も盛り上がるイベントのひとつだ。
街にはLEDライトでこれでもかというくらいに豪華で明るいイルミネーションが飾り付けられる。店先のガラスにはハッピーだのメリーだのと書かれたスノースプレーの白い文字が踊り、そうでなくても派手な色合いの看板が立っているし、サンタの赤白衣装を身に纏った店員さんが客を取り込もうと声をあげたりもしている。
街中は常に盛況だ。
人が多くなるから、というだけではない。
それぞれが、家族やパートナーといった相手のために準備をする。その日に過ごす楽しい時間に胸を膨らませているのだ。その期待感が、街の空気をざわつかせているのだ。
ああ、すばらしきかなクリスマス。
思ったとおりの素敵な時間を過ごせている者は、それはもう幸せなひと時を味わっているだろう。
一方で、そうでない者も街中のどこかにはいる。
――誰に隠すものでもない。自分のことだ。
そして、それはここに居るこいつらも含まれる。
「リア充ほろびろおおおおお!」
「かんぱああああい!」
街中にあるレンタルスペースの一部屋で、がちゃんとガラスがぶつかる音と、それを覆い隠すように野太い叫び声があがった。
その後はもう混沌とした様子で異様な盛り上がりを見せた。
ある者はみんなで持ち寄った料理をがっつき。ある者は酒をえらい勢いで飲み始める。酒の勢いで上がるテンションと軽くなる口から出てくるのは仕事の愚痴から性の悩みまで様々だ。ただ、険悪な空気になることはない。全員それなりに付き合いは長いのだ。楽しむための線引きくらいはできる程度に、理性は働く。
みんなが思い思いの楽しみ方で、宴会を楽しんでいる。
ここに居るのは、カップルのイベントであるクリスマスイブを忘れてしまうくらいに盛り上がろうぜ、と発起人の言葉に乗った人間だ。言うまでも無く、お相手の居ない独り者ばかり。この宴会はこれで何年目だろうかと思い返し、幸いにもここに来れなくなった人間のことを考える。
最初に比べれば、やはりここに来る人間の数は減った。参加している連中の口からは、今年来なかった奴の名前もちらほら漏れている。羨ましいのだ。俺も羨ましい。俺もいつになったらこの集まりを卒業できるやら。これはこれで楽しいのだが、カップルと楽しむ夜というのも別な意味で楽しいはずだ。
「…………」
なんとはなしに、時計を見る。時計の針は、もう少しで九時を指そうとしているところだった。
「あいつも今頃しっぽりやってんのかねぇ」
呟きを拾ったのか、近くに居た一人が横合いから肩をがっと抱いて近寄ってきた。
息が酒くせえよばぁか、と言ってやると、そいつは当たり前だろと応じた後で言う。
「俺らもこれ終わったら風呂にでも行くか?」
随分と婉曲な表現を使うもんだ。そう思った後で、肩を竦めた。
「金がねえよ。奢ってくれるなら行ってもいいけどよ」
そいつはこちらの言葉を鼻で笑い飛ばして離れると、肩を思ったより強めに殴ってきた。そして言う。
「パチンコで今日負けたから無理だな。俺もすっからかんだ。――おいそこ! 吐くならトイレまで這ってでも行ってからやれ! 汚したら面倒なんだから。いい大人だろてめえ!」
「強く叩きすぎだよアホ。いてえじゃねーの」
言って、相手の肩を軽く小突く。
「酔ってんだ、多少は多めに見ろ」
「だからこの程度で済ましてる」
「そりゃありがとよ。……お前は相変わらず飲まねえなぁ」
「飲んでないわけじゃねえよ。飲んでもあんまり酔えないから、料理を楽しんでんの、俺は」
よっと立ち上がって、テーブルの上にある大鍋からビーフシチューをよそう。自分で頼んでデリバリーをしたやつだ。あまり捌けがよくないようで、量が減っていなかった。
まぁ、周りは食べ物より酒な連中が多いから仕方が無いか。
「シチューかよ。俺らにゃ似合わねえな」
「そうか? クリスマスでパーティーみたいなことをするなら、あってもいい料理だと思うがね」
ビーフシチューを口に運ぶ。――うん、初めて使うところだが、味は悪くない。もっと食べればいいのに。
「まぁ酒が捌ければ、後は飯だ。その内捌けるだろ」
「そうかもな」
料理は全員が一品ずつ持ち寄る形で用意されている。あんまり気にすることでもないが、なんとなく、自分の用意したものが残っていると気分がよくない。なんだか負けたような気がするからだ。何にというわけでもないのだが。
そこまで考えて、他の連中も案外そうなのかもしれないと思い至った。毎年、終わり際になってみれば料理が残っていた試しがない。そして、料理がきちんと捌ける理由がみみっちい意地やプライドだとすると、なんだか悲しくなってきた。
……なんでこんなことをしてるってのに、変なところで意地の張り合いやってんだ俺らは。
あほくせえ、とうんざりした気分を吐き出すために溜息を吐いた後で、近くの奴に声をかける。
「おい、そっちの酒とってくれ。――違う、もっと奥の強いやつだよ。そう、それ」
「急にどうした。珍しいな、お前がこんなの飲むなんて」
「そんな気分になったんだよ。急にな。たまにはいいだろ」
「飲み比べでもするかぁ?」
「やらねえよ。トイレの世話になりたくないしな。酒は飲んでも呑まれるなってやつだ。何にでも節度ってもんはあるわな」
「その通りだな。んじゃ、折角だし」
なんだよ、と思って視線をやれば、相手は自分のコップを軽くかかげて揺らしている。
意図を察して、俺も手に持ったコップを近づける。
「「独り身万歳」」
なんとはなしに言った言葉が同じ内容だったことに、同時にぷっと吹き出した後で、コップをがちんと音を立てるようにぶつけて乾杯した。
乾杯した後で、相手は席を立って別な奴に絡みに行く。
その後姿を視線で追いながら、夜はまだまだこれからだと、そう思って、コップの中身を一気にあおった。
今回のお題は以下の三つ。
1)ビーフシチュー
2)トイレ
3)時計
※三題噺お題ジェネレータより。
三題噺お題ジェネレータは必ず食べ物のお題が入るんだろうか……。
他にいいのないかなぁ。それはそれで面倒なのがありそうだけど。




