じゅうに:仕事に対する意識の持ち方
――どうして私がこんなことをしなくちゃならないんだ。
日々の雑務に追われる毎日に、そんな不満が積もり積もって爆発しそうだった。
私の職場は研究所で、職業も研究員だ。
その専門は魔法である。
魔法といっても、物語の中にあるような何でもできるというものではない。今まで人類が蓄積してきた英知ともいえるあらゆる学問とは一線を画す法則、あるいは手順によって、同等の現象を起こすことができる技術のことだ。
この技術が広く知られるようになったのは、数十年前かそこらのことだという。
私が生まれた頃には、魔法を応用した製品が身近に……あふれているとまでは言えないが、見えるところに普通にあったし、ここ最近では民生品の一部にも実装されてきている。
……まぁ細かい説明をし出せばキリがないが、要は魔法じみた得体の知れない技術を、色々な人が使える形にするための利用法を考えるのがこの研究所だということだ。
新境地にして最先端の技術を研究している場所であり、ここに入るためにはそりゃあもう、大変な苦労が要る。
頑張って、頑張って、ようやく入れて。
魔法の研究が出来るのだと期待に胸を膨らませていたのだ。
だというのに、実際にやらされているのは雑用ばかり。
過去のある資料が欲しいと言われれば倉庫に行ってファイルの山を漁る。見つけ出すのに一日かかって怒られたことも何度もある。だったらちゃんと整理しとけよと何度思ったことか。
飲み物が欲しいと言われれば、コーヒーを入れたり自販機に使いっぱしりで駆け回ったりもする。おかげで誰が何を好んで飲むのか、コーヒーや紅茶についてはミルクの量や砂糖の数まで覚えてしまった。
そして、研究に関わることは全く許されない。
これじゃ何のために入ったのかわからない。厳しい試験や面接を通って、一定以上の能力は認められているはずなのに、どうしてこんな扱いを受けるんだろう。
いい加減我慢が出来なくなって、先輩に相談してみることにした。
研究で忙しいところをなんとかお願いして時間を作ってもらい、食堂の隅に行く。
向かい合って座り、自分の扱いに関して聞いてみると、先輩は困ったように笑いながら言った。
「んー、言いにくいけど、当たり前の扱いなんじゃないかな」
「ど、どうして」
納得のいかない私の視線を受けて、根負けしたように溜息を吐いた後で、先輩――彼は続けた。
「本当は自分で考えるのが一番だが。……流石にまぁ、前時代的過ぎるのかねぇ。魔法がそういうもんだから、引きずられてる部分もあるのかな。
――いやいや、煙に巻こうとしてるわけじゃない。ここに居る奴等はみんなそうだよ。最初は雑用。ひたすらね。俺も悔しい思いをしたもんだ。
んで、ここから行動が別れる。
君みたいに人に聞いちゃう奴と、自分から何か行動を起こす奴の二通りかね。
どっちもどっちだが、どちらかというと好まれるのは後者かな。残ってる奴も大抵後者。どうしてかわかる?」
「……いいえ」
「自分で何かしたいと思えるやつしか要らないんだよ、ここ。最初の試験は、あくまで最低限の能力を見るためのものでしかない。ここで何をしてるのかを、自分で考えれば理解できる頭があるのか、それしか見ていない。
人は入れ続けなければ組織というのは後が続かない。だけど、それは君じゃなくてもいい。そういうこったな」
彼の言葉を聞いて、頭をがつんと殴られたような衝撃を覚えた。同時に、こんなことを聞いてしまった自分が恥ずかしくてたまらなくなる。
私はここに何をしに来たのかと、そういう話なのだと理解した。
「……もういいかな? 俺も色々とやることが溜まってる」
無言のままでいるこちらを見てか、彼はそう言ってその場を離れようとした。
椅子が動く音が聞こえて、顔をあげる。
ここまで来れば恥はいくらかこうが構いはしない。待ってくださいとお願いして、去っていこうとする彼を止めた。
彼は若干嫌そうな顔で振り向く。これ以上は勘弁してくれと表情が語っている。なんだかんだで彼も自分のことが一番大事なのだ。わかっている。私もそうだ。だから、構わず聞いた。
「私はどうすればいいですか」
彼は少し目を見開いて驚いた後で、溜息をひとつ吐いて表情をリセットすると、聞き返してくる。
「それはどういう意味?」
「ここに居続けるためにはどうすればいいですか」
「稼ぐために?」
「私は何かしたくてここに来たんです」
「俺がどうしたのか、しか教えられないけど?」
「教えてください」
「……結構。じゃあ話は簡単だ。時間を使え。余った時間を全部、ここにある資料を読む時間に充てろ。他人が何をしているのか理解しろ。その先を奪うくらいのつもりでやれ。そうするために何かを聞かれる分には、みんな快く答えてくれるだろうよ」
じゃあな、と言って、彼は私に背を向けた。言うべきは全て言ったのだと、そういうことだ。
むしろ教えてもらいすぎたくらいだろうと、そう思う。だから、
「ありがとうございました!」
椅子から立ち上がって、こちらを見ていない背中に向かって深く深く頭を下げた。
しばらくの間、その姿勢のままでいた。満足するまで頭を下げた後で、姿勢を戻す。気合を入れ直すために、頬を思いっきり張った。
「よし」
ここがどういう場所なのか、あんなにも丁寧に教えてもらったのだ。
これから何をどのようにするか、まずは考えよう。そのためにも、言われた雑用は効率よく処理して、時間を作る必要もある。やることは山積みだ。
忙しい。忙しいけれど、つい先ほどまでの不満はない。久しぶりに楽しささえ覚えている。
「あは」
さぁがんばろう。そう思って、相談をしている間に溜まっているだろう雑用を片付けに、自分のデスクへと駆け出した。
今回のお題は以下の三つ。
1)砂糖
2)背伸び
3)研究所
※三題噺お題ジェネレータより。
研究ってどういうものなのかよくわかってないからイメージで書いちゃった。実際どういう風にやってるんでしょうね。
背伸びの要素については、身の丈に合わない考えを持っていたという感じで書けてるといいなぁと思いながら書きました。




