6−7
「失礼します」
アリスの部屋に入ると、
「白藤!」
アリスが心配そうな顔をして出迎えてくれた。
「お嬢様、さきほどは急に中座してしまい、申し訳有りませんでした」
「そんなこといいんだけど、大丈夫?」
「はい」
まっすぐにアリスを見つめると頷く。
もう迷わない。
「シュナイダーさん、少し外して頂けますか?」
控えていた執事長にそう願うと、彼は少し微笑んで部屋を出て行った。
二人っきりの部屋。
「……いつだかと、立場が逆ですね」
ついこの前も似たようなことがあったな、と思って小さく笑う。
「……ああ」
アリスも苦笑いした。
「座ったら?」
アリスがベッドの横の椅子を指差す。
素直にそれに従って腰掛けた。
「平気?」
もう一度問われて、頷く。
「少し迷ったりもしたのですが、平気です」
「……そう?」
「はい、お嬢様」
笑顔をひっこめて、真剣に彼女を見つめる。
「お嬢様、一つだけお願いがあります。私が乗っ取られたらそのときは」
「そんなことない!」
言いかけた言葉を、アリスの悲鳴が遮った。
「そんなことないありえないさせないつ」
怯えたように叫ぶ彼女の手を、そっと握る。
「お嬢様、万が一、です」
これだけは絶対に彼女に言おうと決めておいたことだ。
「そんなことがあったら殺してください。貴方を傷つける前に」
そんなこと、耐えられない。
アリスは大きく目を見開き、銀次の顔を見つめ、やがて全てを飲み込むような沈黙のあと、
「……億が一、そんなことがあったら」
少し泣きそうな顔をしながら、銀次に告げた。
「わたしがやるわ。貴方は私のものよ、全て」
そうして銀次が握った手を、アリスがそっと握り返す。
見つめ合い、どちらからともなく顔が近づいたところを、
「失礼します!」
妙にはきはきした声がして、飛び退くように二人、距離を取り直した。
「おや、おじゃまでしたか」
飄々と呟いたのは、有能なる執事長だった。
「……シュナイダー」
アリスが苦々しく呟く。
「なんの用?」
「はて、なんの用でしたか。わたくしとしたことが、忘れてしまったようですね」
微笑む。
そんなわけあるまい。優秀な彼が用事を忘れることなんてありえない。おおかた、外で聞き耳でもたてていたのだろう。
アリスもそれはわかったらしい。アリスの柳眉が吊り上がり、なにか怒鳴ろうと口を開きかけて、
「……ああもう、いいわっ!」
投げやりにそういうと、怒鳴るのをやめた。
「ここで怒ってもばかばかしい! でも腹立つ! だから私はもう寝ます! 二人とも出て行って!」
それだけ早口で言われるので、男二人部屋を後にする。
「いいとこだったのにっ」
ドアが閉まる直前、アリスのそんな声が聞こえた。
いやはや本当にまったく。
「銀次君」
低い声で名前を呼ばれて、ざわっと肌が粟立った。恐怖で。
「清い交際以外認めませんよ」
睨まれた。こえー。ことによるとXよりも怖いかもしれない。
「わかっています」
だからしぶしぶ頷いた。
わかっているさ、今は。




