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紫煙の鎖  作者: Blood orange
9/9

光を手に

俺が目を覚ました時に美里が泣きながら俺を許してくれた。

ぼんやりと焦点の合わない目で美里を見つめると、彼女に触れたくて手を伸ばした。

「尚くん…ごめんね」

本当は俺が謝らなきゃならないのに。

なんで、美里が謝るんだよ。

「ごめんね。尚くん」

美里の潤んだ目から大粒の涙が流れ落ちる。

俺が欲しくてたまらなかった俺の光だ。

「美里…こんな俺でも、許してくれるのか?」

うんうんと美里は何度も首を縦に振っている。

「俺がお前の目を…「それでも大好きなんだもん」

ずるいよな…。

俺はいつも怖くて、お前に何でも言わせてしまった。

盲学校に行く事も。

学校を転校する事も。

そして俺への愛情も。

俺がいつも怖がっていたから。

尚はにへらと微笑むと美里の体を引き寄せささやいた。

すぐに美里は顔を真っ赤にすると目をぱちぱちと瞬かせる。

「尚くん…それって」

俺は美里の両手を握ると目を瞑って呼吸を整えるように息を思い切り吸った。

「高柳 美里さん、俺と結婚して下さい」

「え?あ…でも…私、目が見えないんだよ」

「俺はお前しか見えないんだよ。だから同じだ。それに医学は日々進化してるんだ。俺がお前の目になるよ」

尚くんの言葉を聞いて涙が出た。

何でそんなに優しいのよ…。

私はあんなに酷い事を言ったのに…。

嗚咽をあげて泣き出す美里を抱きしめた尚は、美里が成人を迎えたら結婚しよーと言ってくれた。

盲学校を卒業した美里はその後、大学に通う事になったが広い大学(キャンパス)でいつも迷子になってしまう。

尚が暇な時はいつも彼が美里の側にいてくれた。

同じ大学ですでに医者として働き始めている尚と美里の姿を見て初めは美里にやっかみを入れていた女達もいたが、尚が美里にプロポーズしたことを知った女達はすぐに諦めて行った。

「美里…。角膜のドナーの順番が回って来たんだ。受けてみないか?」

突然の尚の言葉に美里は白い杖を落としてしまった。

慌てて床の上に落ちた杖を探し出すと尚の手が握られた。

「美里…君に俺の顔を見て欲しいと思うのはエゴだろうか?」

「違うの…」

「何が?」

「上手く言えないんだけど、どういったら良いのかわからないのよ。見えないことが普通になった私が突然見えるようになるって、怖いの。全てが変わりそうで…」

泣き出した美里を抱きしめた尚は何度も変わらないよ。

君はいつも素敵だよ。



頭に白いヘアキャップを被らせられた美里の手を握った尚と看護士達は手術室へと向かった。

この日は、美里の角膜手術の日。

麻酔を打たれた美里は尚の声に導かれるように夢の世界へと行く。

気がついた時にはすでに手術は終わっていた。

以前と同じように目の保護のために暫くは包帯をすることになった。

包帯が取れるのは早くて今日の昼になると尚くんが教えてくれた。

「怖いよ…もし見えなかったらどうしよう…」

「大丈夫だよ…」

目を覆っていた包帯が少しずつ取れて行く。

「目をゆっくり開けて下さい」

真っ暗だった視界がぼんやりと色がある物に変わってく。

それが少しずつ時間をかけて形を形成して行った。

「これは見えますか?」

三本指を指してゆっくりと左右に振っているのが見えた。

「…」

「美里?」

涙が頬を伝ってく。

「み、見えます…」

「じゃあ、君の婚約者はわかりますか?」

そこには白衣を着た優しい男の人が美里を見て微笑んでいる。

「尚くん?」

「そうだよ…ようやく俺の顔が見れたんだよね。初めましてかな?」

「初めまして…尚くん…彼の黒い髪につややかな天使の輪が広がっているのが見えるよ。あの日と同じ…。太陽の人」

「美里…」



あの後、尚くんは男泣きしてました。

私は二十歳になったと同時に尚くんと結婚。

大学はあの後無事に卒業し、今は盲学校で教師として働いています。

「美里せんせー!!」

子供達が駆け寄って来るのを見て、思わず顔がほころんでしまう。

光を失った子達の中にも心の中にはいつも光が光っている。




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